8分の短編映画「Phone Call」は、JioCinemaのオンライン短編映画祭で配信された作品で、おそらく2023年10月18日が公開日になる。ポスターがアニメ画だったので、アニメ映画かと思ったが、実写映画だった。
監督はアンクル・スィン。「Loev」(2017年)などで助監督を務めた経験があり、監督は初となる。キャストはアイシュワリヤー・ナルカルとアーユシュ・メヘラーのみである。
ドルヴ(アーユシュ・メヘラー)は誕生日に母親(アイシュワリヤー・ナルカル)に電話をする。母親は息子に誕生日プレゼントとしてお小遣いを送金したいと思ったが、自分で銀行に行ったことがなかった。モントゥーに頼もうとするが、彼は電話に出なかった。仕方なく母親は外に出て銀行へ行く。そこで銀行員の助けを借りながら何とか送金をする。ドルヴはやっと母親が一人で銀行に行くことを覚えたと喜び、モントゥーに電話をする。
家から外に出ようとせず、銀行に行ったこともない世間知らずの母親を、息子が自分の誕生日をきっかけにして成長させようとする物語である。出来事としては本当に些細なことだ。出不精の母親が、一念発起して銀行まで行き、生まれて初めて送金処理をする。ストーリーは分かりやすかったし、映像もしっかりしていた。だが、なぜこのような映画を撮ろうと思ったのか、そちらの方に興味が沸いた。
ひとつ考えられるのは、インド人女性の依存体質である。インドにおいて女性は、幼少時には父親に従い、結婚後は夫に従い、夫の死後は息子に従うとされる。それを打破しようとする意識の高い女性もいるが、多くの女性はその依存的な地位に甘んじ、世間のことを全く知らない。この映画に登場する母親のように、一人で送金することすらできない女性は実のところ非常に多いのかもしれない。そういう女性たちに対して、銀行の送金がこんなに簡単であることを示し、自立を促すための映画と受け止めることは可能であろう。
おそらくこの母親は、最近夫を亡くしており、一人で生活をすることになったと思われる。名前と声だけだったが、モントゥーというキャラも登場した。おそらくドルヴの兄弟であろう。母親はモントゥーに頼り切っていたが、敢えて彼は電話のスイッチを切り、ドルヴと協力して、母親が銀行へ行って送金をする機会を作り出していたと推測される。
「Phone Call」は、余りに些細すぎる出来事を描いた短編映画であり、作品として高く評価されることはないだろう。ただ、この映画が作られた背景にインド社会が抱える問題を垣間見ることはでき、その点では面白い映画だ。