Raja Hindustani

4.0
Raja Hindustani
「Raja Hindustani」

 1996年11月15日に公開されたアーミル・カーンとカリシュマー・カプール主演「Raja Hindustani」は1990年代を代表するヒット作で、ヒンディー語映画界におけるロマンス映画の王道だ。挿入歌も名曲揃いで、今でも歌い継がれている。

 監督はダルメーシュ・ダルシャン。1990年代に若手監督の一人として注目を集めたが、作風が古風なところもあり、2000年代に入ると時代の変化に付いていけなかった感がある。彼が監督第2作として作ったこの「Raja Hindustani」がキャリアベストであり、それを超える作品を作ることができなかった。彼の最後の監督作は「Aap Ki Khatir」(2006年)である。

 結果的に大ヒット作になったが、キャスティングには苦労したようだ。一時はシャールク・カーンが主演をする話が進んでいたし、ヒロインもプージャー・バット、ジューヒー・チャーウラー、アイシュワリヤー・ラーイなどが候補に挙がっていたようだ。

 アーミル・カーンとカリシュマー・カプール以外には、スレーシュ・オーベローイ、アルチャナー・プーラン・スィン、ティークー・タルサーニヤー、ファリーダー・ジャラール、ジョニー・リーヴァル、プラモード・ムートゥー、モホニーシュ・ベヘル、ナヴニート・ニシャーン、ヴィールー・クリシュナン、ラザーク・カーンなどが出演している。他に、まだ幼い頃のクナール・ケームーが子役俳優として出演しているし、カルパナー・アイヤルとプラティバー・スィナーが「Pardesi Pardesi」にアイテムガール出演している。

 2023年10月19日に鑑賞し、このレビューを書いている。

 アールティー・セヘガル(カリシュマー・カプール)はムンバイー在住の大富豪バクシュラト(スレーシュ・オーベローイ)を父親に持っていた。母親は彼女が産まれたときに亡くなったが、バクシュラトは再婚し、シャーリニー(アルチャナー・プーラン・スィン)が継母になっていた。シャーリニーの弟スワラージ(プラモード・ムートゥー)とその息子ジャイ(モホニーシュ・ベヘル)はシャーリニーと結託してバクシュラトの財産をかすめ取ろうと画策していた。

 あるときアールティーは父親と亡き母親が出会った土地パーランケートを訪れる。アールティーにはカマル(ナヴニート・ニシャーン)とグラーブ(ヴィールー・クリシュナン)も同行した。空港でアールティーたちはラージャー・ヒンドゥスターニー(アーミル・カーン)というタクシー運転手と出会う。パーランケートのホテルに宿泊できなかったため、ラージャーはアールティーたちをサンジーヴ・シャルマー(ティークー・タルサーニヤー)とスハースィニー(ファリーダー・ジャラール)夫妻の家に連れて行く。ラージャーには両親がなかったが、サンジーヴとスハースィニーが彼の親代わりになっていた。

 パーランケートに滞在する間、ラージャーとアールティーは恋に落ちる。父親が迎えに来たためアールティーは帰ろうとするが、ラージャーと別れられず、父親にラージャーと結婚したいと明かす。娘がタクシー運転手と結婚しようとしていることが許せなかったバクシュラトは娘を置いてムンバイーに帰ってしまう。ラージャーとアールティーはパーランケートで結婚式を挙げる。

 バクシュラトは娘を相続人から外そうとし、シャーリニーたちはほくそ笑む。しかし、バクシュラトは娘を捨てることができず、一転してラージャーとの結婚を認める。バクシュラトは彼らのためにパーランケートに家を買い与えるが、ラージャーはそれが気に入らず、突き返す。

 シャーリニーとバクシュラトは誕生日が近く、一緒に誕生日パーティーを開いていた。一計を案じたシャーリニーはアールティーに手紙を送り、誕生日にはムンバイーに戻ってくるように言う。シャーリニーはラージャーを連れてムンバイーに帰省する。パーティーで街の名士たちに囲まれて居心地が悪かったラージャーは酔っ払ってアールティーと大喧嘩をしてしまう。ラージャーはパーティーを飛び出し、パーランケートに帰る。

 その直後、アールティーの妊娠が分かる。シャーリニーとスワラージはラージャーを連れてくると約束してパーランケートを訪れるが、そこでラージャーには離婚届を突き付ける。ラージャーは離婚届を破り捨てたが、ムンバイーに戻ったシャーリニーとスワラージはラージャーのサインを偽造し、今度はアールティーに離婚届を突き付ける。アールティーも離婚には同意しなかったが、二人の別居状態がしばらく続くことになる。

 その後、ラージャーはアールティーが子供を出産したことを知り、ムンバイーにやって来て、子供を連れ去る。アールティーはパーランケートへ行って子供を取り返そうとする。そこで誤解が解けるが、スワラージとジャイが手下を連れてやって来て、ラージャーを殺そうとする。だが、バクシュラトはラージャーに味方し、彼らを撃退する。

 まずは何といっても音楽が素晴らしい映画だ。ナディーム・シュラヴァンが作曲し、サミールが作詞をしている。筆頭は中盤の佳境で流れる「Pardesi Pardesi」だ。主人公ラージャーとアールティーが、別れを前にして耐えられなくなり、人々の前で抱擁し合う。このときまでに二人はキスを交わしていたが、まだお互いの気持ちをきちんと伝え合っていなかった。だが、ダーバー(食堂)でバンジャーラー(流浪の芸人)が「旅人に恋をしてはいけない」と切なく歌う歌声が二人を動かし、抱擁へと導くのである。映画そのものの枠組みを超越し、時空を超えてインド人たちに愛される名曲だ。

 それ以外にも「Aaye Ho Meri Zindagi Mein」、「Poocho Zara Poocho」、「Kitna Pyaare Tujhe Rab Ne」など、全く捨て曲がない。歌詞とストーリーが密接に絡み合い、映画の質を高めている。ただし、「Kitna Pyaare Tujhe Rab Ne」はパーキスターンの伝説的カッワーリー歌手ヌスラト・ファテー・アリー・カーンの「Kinna Sohna Tenu Rab Ne Banaya」の非公式リメイクであり、つまりはパクリだ。この時代にはまだ剽窃が堂々と行われていた。

 また、BGMとして使われていた曲のメロディーをダルメーシュ・ダルシャン監督は再利用し、「Dhadkan」(2000年)のタイトルソングとした。

 音楽の良さだけで映画に没入してしまうのだが、いざ冷静になって映画を観てみると、アールティーがラージャーを好きになった理由が全く分からない。ラージャーはアールティーに一目惚れで、彼女に会った瞬間に恋に落ちていたことが分かる。だが、アールティーがラージャーを好きになった瞬間が謎である。その後アールティーは一途にラージャーを愛し続ける。そもそもアールティーは、大富豪の娘という点以外、何をしていてどんな人なのかもよく説明されていないので、彼女のこの入れ込みようには非現実的なものを感じてしまう。

 ラージャーとアールティーの仲を引き裂いたのは、彼女の継母シャーリニーとその一味であった。その動機はアールティーの父親バクシュラトが保有する莫大な財産であった。シャーリニーはまず、甥のジャイをアールティーと結婚させることでその財産を完全に手中に収めようとしていた。アールティーがラージャーと結婚してしまうと、今度はアールティーを相続人から外させようとした。それに失敗すると、ラージャーを殺してアールティーを寡婦にし、ジャイと再婚させようとした。どれも失敗するのだが、継母の王道を行く悪役である。

 アーミル・カーンがいつから「ミスター・パーフェクト」と呼ばれるようになったのかは分からないが、「Raja Hindustani」での彼は庶民の代表格であるタクシー運転手をかなり自分なりに味付けして演じていた。いかにもタクシー運転手といった言動を再現して演技するというよりは、自分色に染める演技だったといえる。

 カリシュマー・カプールはこのとき既に売れっ子になっていたが、「Raja Hindustani」の大ヒットで完全にトップスターとしての地位を確立した。どちらかというと喜劇寄りの女優だと思うのだが、今回は大きな目に涙をためていることが多かった。時代もあるだろうが、彼女の演技はどうしてもオーバー気味に見えてしまう。

 「Raja Hindustani」で有名なのは、アーミルとカリシュマーのキスシーンだ。ヒンディー語映画としてはかなり長い時間、二人がキスをしている。唇が触れ合っている部分を見せないような見せ方ではなく、実際に二人は口づけをしている。

 映画の中ではパーランケートという架空の地名が登場する。山間の非常に風光明媚な土地だ。実際にはタミル・ナードゥ州のウダガマンダラム(ウーティー)で撮影されている。

 「Raja Hindustani」は、ヒンディー語映画を代表するロマンス映画であり、音楽が素晴らしい映画である。興行的に大成功し、主演のアーミル・カーンとカリシュマー・カプールをますますスターの高みに押し上げた。冷静に観るとロマンス部分が弱かったり、悪役があまりにステレオタイプだったりと、欠点も散見されるが、音楽が全てを帳消しにしている。必見の映画である。