2018年6月1日にYouTubeで配信開始された「Four」は、強姦され殺害された実在する女性たち3人が登場し、一室に集って会話を交わすという、舞台劇的なシチュエーションの短編映画だ。アビシェーク・ラーイ監督が映画学校の学生だった頃に作った作品であり、それほど有名ではなかったが、カージョル主演の短編映画「Devi」(2020年)がこの映画に酷似しており、話題になったことで知名度を獲得した。上映時間は5分半ほどである。
キャストは、シャマーンギー・シャルマー、ニシャー・ウパーディヤーイ、ルドラークシー・シャルマーの3人である。題名が「Four」となっているのは、映画の最後で、この3人に加えて新たな入居者が訪れるからだ。しかもそれは赤ちゃんで、インド社会の狂気ぶりが強調される。
映画が始まると、怪我を負った3人の女性たちがアパートの一室で机を囲む。最初はどういうシチュエーションなのか分からないが、会話が進むことで、彼女たちが強姦殺人の被害者であることが分かってくる。しかも、強姦を受けた具体的な日付が出て来るため、実在の人物であることが判明する。
シャマーンギー・シャルマーが演じる23歳の女性はニルバヤー。デリー集団強姦事件の被害者である。2012年12月16日に強姦・暴行され、29日に死亡した。
ニシャー・ウパーディヤーイが演じる36歳の女性はバンワリー・デーヴィー。日付は2011年9月1日とされている。ただ、レイプの被害者として知られるラージャスターン州のバンワリー・デーヴィーは、1992年9月22日、40歳の頃に集団強姦を受けており、しかもまだ存命中だ。別のバンワリー・デーヴィーと混同したのではないかと思われる。2011年9月1日に殺されたバンワリー・デーヴィーの本業は産婆で、政治家と懇ろになり、不正で莫大な利益を得た上に政治家を脅迫し、最後には殺された。
ルドラークシー・シャルマーが演じる8歳のアースィファーは、ジャンムー&カシュミール州在住で、2018年1月17日に強姦され殺された。事件の起こった地名からカトゥアー強姦事件と呼ばれており、インドでは大きなニュースになった。映画公開のタイミングから察するに、この事件を受けて製作されたのではなかろうか。
「Four」は、バンワリー・デーヴィーに関する情報で混乱はあるものの、殺されたレイプ被害者が一堂に会して語り合うというユニークな演出により、5分半の短尺の中で言い知れない感情を視聴者に与えることに成功している。全く有名な俳優は出ていない代わりに、強姦殺人事件被害者の実名が出て来ることで、メッセージ性を強めている。短編映画の佳作である。