I Love You

3.5
I Love You
「I Love You」

 2023年6月16日からJioCinemaで配信開始された「I Love You」は、その直球の題名とは裏腹に、囚われ型のスリラー映画である。

 監督はニキル・マハージャン。主にマラーティー語映画を撮ってきた人物である。主演は「Chhatriwali」(2023年)などのラクル・プリート・スィン。他に、パーヴェール・グラーティー、アクシャイ・オーベローイ、シャラド・ジャーダヴなどが出演している。

 サティヤー・プラバーカル(ラクル・プリート・スィン)はムンバイーの企業に勤めるキャリアウーマンだった。ディーワーリー祭前夜、サティヤーは同僚のヴィシャール・カプール(アクシャイ・オーベローイ)からプロポーズされ受け入れる。だが、その様子をジッと眺めている男性がいた。やはり同僚のラーケーシュ・オーベローイ(パーヴェール・グラーティー)である。

 サティヤーはその夜、ヴィシャールと共にデリーへ行く予定で、オフィスで運転手ミシュラー(シャラド・ジャーダヴ)を待っていた。だが、ヴィシャールからいつまで経っても連絡がなかった。しかもオフィスにはもう誰もいなくなっており、ロックが掛かってしまっていた。サティヤーは、困ったときに頼りになる友人ラーケーシュに電話をする。するとラーケーシュはすぐにオフィスまで来て助けてくれた。

 ところが、サティヤーは自分の自動車のトランクにミシュラーの遺体が入っているのに気付く。実はラーケーシュがその犯人で、サティヤーも麻酔剤を使って眠らせ、拘束する。ラーケーシュはヴィシャールも捕縛していた。サティヤーはラーケーシュに合わせながら隙を見て逃げ出そうとするが、彼女の目の前でヴィシャールは殺されてしまう。

 サティヤーは逃げるばかりだったが、途中で意を決し、防火用の斧を持ってラーケーシュに立ち向かう。最終的にはラーケーシュを屈服させ、閉じ込める。そしてラーケーシュのIDカードを使ってオフィスの外に出る。

 インドのロマンス映画においてしばしば、主人公がストーカー紛いの行為をして意中の人を手に入れようとする様子が描かれる。ストーカーをしていればいつかは女性が振り向いてくれるとの壮大な誤解を広めてしまっているのではないかと時々不安になる。

 「I Love You」は、そんなストーカー映画を観て育ってきたインド人男性たちの幻想を打ち砕く作品だ。ラーケーシュはおそらく会社の警備主任で、コンピューターなどにも詳しい青年だった。彼は同じ会社で働くサティヤーに片思いをするが、彼女に想いを伝えるのではなく、隠しカメラを使って彼女の私生活を覗こうとするという気持ち悪い行動に出る。だが、彼は盗撮をしたことで、サティヤーが同僚のヴィシャールと付き合っていることを知ってしまう。ラーケーシュが何もできない内にヴィシャールはサティヤーにプロポーズをし、二人の結婚が決まる。

 ラーケーシュはサティヤーから受けていた信頼とセキュリティー関連の権限を濫用して彼女をオフィスに一人閉じ込め、じっくりと彼女を口説こうとする。だが、弱みを握って言い寄る男性を好きになる女性などおらず、サティヤーは表面上は彼に合わせながらも隙をうかがう。

 ラーケーシュはサティヤーが再三逃げようとしても襲い掛かってきても怒らず、ひたすら紳士的に彼女に接する。全く空気を読まず、テクノロジーも駆使してサティヤーを追い込み、彼女に言い寄る様子は新世代のストーカーという印象である。

 また、近年の女性中心映画に共通する特徴であるが、危機に陥った女性を救いにくる男性はおらず、女性自らが勇気や知恵を振り絞って対処する。サティヤーも、日々練習していた潜水を使って、追ってくるラーケーシュをやり過ごした後、自分でヴィシャールの仇を討たなければならないと奮起し、ラーケーシュに立ち向かっていく。もはや女性は助けられてばかりの存在ではない。

 「I Love You」はラクル・プリート・スィンのためにあるような映画である。スーツをかっこよく着こなすキャリアウーマン、水着に身を包むセクシーレディー、危機に陥ってもパニックにならず冷静に対処するクールガール、そして武器を持って勇敢に戦う女戦士など、一本の映画の中に彼女の魅力が存分に詰め込まれていた。

 一方のパーヴェール・グラーティーは、「Thappad」でも妻を平手打ちする夫役を演じており、「女性の敵」役がオファーされやすくなってしまっているのかもしれない。見た目は優しそうだが、実は内面は気持ち悪い男性を演じることに長けているのだが、もっと幅広い演技のできる男優のはずである。

 ヴィヴェーク・オーベローイの従兄弟アクシャイ・オーベローイは、2010年代前半には主演を張れる男優だったのだが、順調に出世できず、脇役俳優として活路を模索している。「I Love You」でも活躍の場は少なく、パーヴェール・グラーティーに持って行かれてしまっている。そろそろ心機一転できるようないい役が欲しいものだ。

 サティヤーなどが勤める会社のオフィスは全てが電子的に管理された近未来的な施設だった。それ故に、セキュリティー設定をいじれる人間が悪さをすると、このように人をオフィスに閉じ込めたりできてしまう。また、ストーリーの合間にいくつもの懐メロが使われていたのも印象的だった。何となく行き過ぎたデジタル化が進む現代への批判めいたメッセージも感じられた。

 「I Love You」は、ラクル・プリート・スィンがストーカー男によってオフィスに閉じ込められてしまうという密室型スリラー映画である。甘ったるいロマンス映画を期待して観てはいけないが、ラクルの素晴らしい演技もあって、スリル満点の映画に仕上がっている。