「Girl in Red」は、「Mickey Virus」(2013年)のサウラブ・ヴァルマー監督の短編映画である。2016年12月13日にYouTubeで配信開始されたが、現在は配信されておらず、代わりにAmazon Prime Videoで配信されていたのを鑑賞することができた。16分ほどの短いスリラー映画だ。アビシェーク・チャタルジー監督の「Gutthi」(2014年)を翻案した作品である。
主なキャストは3人のみ。ナンディーシュ・スィン、キャスリン・デイビソン、ローヒト・クラーナーである。
ムンバイーのアパートに住むミステリー作家アーディティヤ・ヴァルマー(ナンディーシュ・スィン)はスランプに陥っていた。廃品回収屋のシャールク(ローヒト・クラーナー)がアパートの住人のゴミを漁って個人情報を集めているのを見て、彼が何か面白いストーリーを持っているのではないかと考え、家に招き入れる。アーディティヤは、かつて出会ったサプナー(キャスリン・デイビソン)という赤い服を着た女性の話をし始める。かつてアーディティヤはラクナウーのナワーブから貴重な彫刻を贈られていたが、突然話しかけてきたサプナーに騙され奪われてしまう。だが、その彫刻は後に郵便で彼に届けられた。それを聞いたシャールクは、かつてその彫刻を盗み出したことがあるが、消えてなくなってしまったと明かす。そのときアーディティヤは気分が悪くなり倒れてしまう。実はシャールクはサプナーを殺した張本人で、彫刻を狙ってアーディティヤの周囲をうろついていたのだった。シャールクはアーディティヤを毒殺し、彫刻を奪って逃げる。
短い尺の映画だったが、その中に無駄なく素材を詰め込んで、上質のスリラー映画に仕上げていた。特に廃品回収屋シャールクの使い方が絶妙だった。インドには、各家庭を回ってゴミを回収する、「カバーリーワーラー」などと呼ばれる職業の人々がいる。社会の最底辺ではあるが、彼らは各家庭のゴミから個人情報を引き出しており、どの家庭でどんなことが起こっているのか、誰よりも情報通になっているとこの映画では指摘されていた。シャールクはアパートの住人の全てを知っていたが、アパートの住人は誰一人としてシャールクのことを知らなかった。その点に興味を覚えた主人公のミステリー作家アーディティヤは、彼を家に招き入れ、彼が密売する大麻を一緒に吸いながら会話を始めるという導入である。
ただ、シャールクを演じたローヒト・クラーナーはおそらくそんなに育ちが悪くないはずで、一見するとカバーリーワーラーには見えなかった。やはり現実のカバーリーワーラーは貧しい生活を送っているため、痩せ細って疲れ果てた外見をしている。しかも彼は英語を読むことができた。変だな、とは感じていたが、やはりそれらの点も伏線といえば伏線になっていた。
映像やストーリーに無駄がないこともあって、観る人が観れば、筋が予想できるかもしれない。ひとつひとつの映像に意味があるため、それらを敏感に拾っていけば、例えばシャールクがアーディティヤを毒殺しようとしていることなどは事前に察知が可能だ。
この映画の面白いところは、アーディティヤとサプナーが付箋を使って交わした会話をシャールクが逆順で見て別の意味に取るところだ。「Gutthi」ではこの部分がうまく活かされていなかったが、「Girl in Red」ではサプナーとシャールクの関係を曖昧にし、原作の弱点を補っていた。
ミステリー作家がミステリー小説のネタ探しにカバーリーワーラーを家に招き入れたら餌食になってしまうという筋書きは、少し違うものの、「ミザリー」(1990年)にも通じるものがある。ただし、題名は少しミスリーディングだ。「Girl in Red」はサプナーのことを指しているのであろうが、彼女はこの物語の最重要人物ではない。
「Girl in Red」は、よくできた短編のスリラー映画である。アビシェーク・チャタルジー監督の短編映画「Gutthi」の翻案だが、これらを見比べてみるのも面白いだろう。