2000年1月7日公開の「Mela(祭り)」は思い出深い映画だ。2000年春、2度目のインド旅行をしたとき、ビハール州ガヤーの映画館でこの映画を観たのだ。映画中、「Mela Dilon Ka…(心の祭りが・・・)」というメロディーが何度もリフレインされるため、頭にこびりついてしまい、その後どこかでこの映画のサントラCDも買って、日本に帰国した後、よく聴いていた。あの頃はほとんどヒンディー語が分からず、ほぼ映像だけを観てストーリーを予想していたが、2023年5月2日に改めて鑑賞してみたところ、隅々まで理解することができ、当時の思い出を補強することもできた。
ガヤーの映画館はけっこう人が入っていたと記憶しているのだが、興行的にはこの映画はフロップとされている。確かに荒削りなところはあるが、サービス精神満点で、大ヒットしたと聞いても何ら不思議はない。ヒットとフロップの差は紙一重だと感じる。
監督はダルメーシュ・ダルシャン。「Raja Hindustani」(1996年)や「Dhadkan」(2000年)などを当てており、当時は勢いのある映画監督だったと思うのだが、「Aap Ki Khatir」(2006年)を最後に監督業から足を洗っている。確かに作風が古く、2000年代のヒンディー語映画界の劇的な変化に付いて来られなかったのかもしれない。
主演はアーミル・カーンとトゥインクル・カンナー。助演を務めるのはアーミルの弟ファイサル・カーンだ。「3カーン」の一角を占めるまでトップスターに躍り出たアーミルと異なり、ファイサルはほとんど鳴かず飛ばずで、精神的な病に冒されているとの報道もあった。「Mela」でのファイサルは、アーミルよりも頼りがいのある役で、体格もアーミルよりいい。ちょっとした運勢の違いで、アーミルとファイサルのように人生は明暗を分けてしまうものなのだろうか。
他には、ティヌー・ヴァルマー、アユーブ・カーン、ジョニー・リーヴァル、アスラーニー、アルチャナー・プーラン・スィン、タンヴィー・アーズミー、クルブーシャン・カルバンダーなどが出演している。また、サプライズとしてアイシュワリヤー・ラーイが特別出演している。
チャンダンプル村に住むルーパー(トゥインクル・カンナー)は、盗賊の親分グッジャル・スィン(ティヌー・ヴァルマー)に兄ラーム・スィン(アユーブ・カーン)を殺され、自身も妾にされそうになる。何とか逃げ出したルーパーは名誉を守るため滝の上から身を投げる。 ルーパーは、トラック運転手のシャンカル(ファイサル・カーン)と、その相棒で役者のキシャン(アーミル・カーン)と出会う。ルーパーはグッジャルに復讐するため、この二人の力を借りようと考え接近する。キシャンはルーパーに惚れてしまい、いいように操られる。だが、キシャンがルーパーと結婚しようとするとルーパーはそれを拒絶する。怒ったキシャンは彼女を突き放すが、今度はシャンカルが責任感を感じ、彼女の復讐に協力することになる。 シャンカルはルーパーと共にチャンダンプル村へ行く。グッジャルはルーパーが生きているという話を聞き、頻繁に村を訪れては彼女の居所を聞いていた。シャンカルは村にやって来たグッジャルの部下たちを皆殺しにする。当然、グッジャルは村に襲い掛かり、多勢に無勢でシャンカルは危機を迎えるが、そこにキシャンが助けに入る。キシャンは、パッカル・スィン警部補(ジョニー・リーヴァル)からグッジャルの話を聞き、ルーパーが言っていたことは本当だったと知って、彼女を追ってきたのだった。キシャンとシャンカルはグッジャルを撃退する。 二人はグッジャルを村に誘き寄せるためにメーラー(祭り)を開催する。待ち伏せも何のそのでグッジャルは再び大軍を引き連れてチャンダンプル村を襲撃する。大乱戦となり、一時ルーパーが誘拐され、キシャンとシャンカルも捕まるが、村人たちの加勢もあって、グッジャルは倒された。そしてキシャンとルーパーは結婚する。その後、シャンカルはチャンパーカリー(アイシュワリヤー・ラーイ)と出会う。
「Mela」は2000年というミレニアムの変わり目の年の初めに公開された映画である。それを強く意識しているのは、アーミル・カーンが「Dekho 2000 Zamana Aa Gaya(見ろ、2000年がやって来た)」というド派手なダンスシーンと共に登場するところからも見て取れる。しかし、「Mela」は新しい時代を切り拓くタイプの映画ではなく、どちらかといえば1980年代の空気を引きずったコテコテのマサーラー映画である。アクション、コメディー、ダンスなどが入れ替わり立ち替わりスクリーンを席巻し息をつく間もない。ダンスシーンの数も多めで、特に序盤はほとんどダンスシーンだけでストーリーが進んでいく。トゥインクル・カンナーは四六時中泣き叫んでいてうるさいし、悪役グッジャルを演じたティヌー・ヴァルマーも暑苦しい。だが、フロップになるほど悪い組み合わせではない。むしろ、ワクワクしながら鑑賞することができた。もっと正当に評価されていい映画なのではないかと感じる。
もし「Mela」の欠点を挙げるとしたら、どこかで観たような映画の切り貼りに感じられることだ。監督自身は「Caravan」(1971年)をインスピレーション源として挙げているが、それ以外にも「Sholay」(1975年)の強い影響を感じずにはいられない。グッジャル・スィンのキャラは完全に「Sholay」のガッバル・スィンのコピーだと断言できるし、他にも「Sholay」との共通点が散見された。
ヒロインにあまり感情移入できないのも敗因かもしれない。トゥインクル・カンナーがオーバーアクティング気味だったのは置いておいて、キシャンの心を弄んでグッジャルへの復讐を成し遂げようとしたルーパーの利己的な行動はヒロインにあるまじきものであり、この映画がターゲットとする男性観客には好まれないと思われる。ルーパーから拒絶されたことで一転して彼女を憎むようになったキシャンが、最後にルーパーから一言二言言われただけで彼女との結婚を決断してしまうのも何とも急すぎる展開だ。
「Mela」の音楽は、まだヒンディー語がほとんど分からなかった頃に聴いて耳に残ったのだが、今聴いてもなかなかいい。「Mela Dilon Ka…(心の祭りが・・・)」の繰り返しがとてもよく利いている。「Mela」のサントラCDの中で本当は一番好きなのは「Chori Chori Gori Se」だ。「Mela」の中ではこの曲はエンディングで少し使われているのみだが、その後「The Guru」(2002年)という英国映画で大々的に使われた。ちなみに、アヌ・マリク、ラージェーシュ・ローシャン、レスリー・レーウィスが作曲している。
ロケ地を観ると、インドのあちこちで撮影されている。ラージャスターン州のジャイサルメール、マハーラーシュトラ州のパンチガニー、カルナータカ州のベンガルールからマイスール近辺、タミル・ナードゥ州のウータカマンド(ウーティー)などである。スイスで撮影されたシーンもある。はっきり言ってそれだけあちこちで撮影する必要性を感じなかったのだが、風景にバラエティーは出た。
「Mela」は個人的に思い出深い映画で、どうしても思い出補正が入ってしまうのだが、極力客観的に評価しても、興行的に失敗に終わったのが信じられない。アーミル・カーン主演であるし、あらゆる娯楽要素を贅沢に詰め込んであるし、音楽もいい。もっと評価されていい作品である。