1984年12月3日未明、マディヤ・プラデーシュ州の州都ボーパールの近郊で稼働していた米ユニオンカーバイド社の農薬工場から有毒ガスが漏れ、3,500人以上の住民が死亡し、数万人の人々が後遺症を負った。この事故は世界最悪の産業事故として記録されており、インドの産業史に暗い影を落としている。
アジアンドキュメンタリーズで配信中の「Bhopali(ボーパール市民)」は、その題名から分かるように、ボーパール化学工場事故を取り上げたドキュメンタリー映画である。監督は米国人のヴァン・マクシミリアン・カールソンで、事故から25年が経った2009年を中心に撮影が行われている。2011年1月23日に米国のスラムダンス映画祭でプレミア上映されたが、インドでは公開されていない。
「Bhopali」では、1984年12月3日未明に何が起きたか、その原因は何だったかについても簡単に説明されている。だが、事故の真相を解き明かすのがこの映画の目的ではない。むしろカールソン監督が強調していたのは、事故から25年が経った今でも事故の余波が続いているということだ。
現在、ユニオンカーバイド社の工場は廃墟となっているが、周辺地域で土壌汚染や水質汚染が起こっており、住民たちの健康被害が続いている。ボーパールでは奇形の子供が生まれる確率も高い。しかし、州政府も中央政府もこの問題について無関心で、工場は無害だと主張している。また、ユニオンカーバイド社は米ダウ・ケミカル社に吸収合併されたため、住民たちは現在、ダウ社に対して抗議活動を繰り広げている。
映画は、政府やダウ社に対して、工場の浄化を求める住民たちの声を広く知らしめようとしている。また、事故や汚染の影響で障害を持って生まれた子供たちのケアをするチンガーリー基金の紹介もしている。
ボーパール化学工場事故の様子を再現した映画には「Bhopal: A Prayer for Rain」(2014年)がある。この「Bhopali」と併せて観ることで、この事件の過去と現在を知ることができるだろう。