EMI Liya Hai To Chukana Padega

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EMI Liya Hai To Chukana Padega
「EMI Liya Hai To Chukana Padega」

 インドに住み、携帯電話を持つと、途端にいろんなところからセールスの電話がかかって来る。その多くは銀行からのローンのオファーである。裏を返せば、セールス人員を雇い、携帯電話保有者に片っ端から電話を掛けても利益が出るだけ、現代インドにはローンの潜在的顧客数が増大して来ているということであろう。そして遂にその社会現象はヒンディー語映画のテーマにもなってしまった。本日(2008年11月7日)より公開の「EMI」である。「EMI」とは「Equated Monthly Installments」の略で、「等分割月賦」とでも訳そうか。言わば月払いのローンのことである。映画の正式タイトルは「EMI」のみのようだが、それだけだと記憶に残りにくいので、副題も含め、「EMI Liya Hai To Chukana Padega(ローンを借りたら返さなければならないだろう)」として紹介する。

監督:サウラブ・カーブラー
制作:スニール・シェッティー、シャッビール・E・ボックスワーラー、ショーバー・カプール、エークター・カプール
音楽:チランタン・バット
歌詞:サリーム・モーミン、ハムザー・ファールーキー
振付:ボスコ=シーザー、ハルシャル&ヴィッタル
出演:サンジャイ・ダット、ウルミラー・マートーンドカル、アルジュン・ラームパール、マラーイカー・アローラー・カーン、アーシーシュ・チャウダリー、ネーハー・ウーベローイ、プシュカル・ジョーグ、クルブーシャン・カルバンダー、マノージ・ジョーシー、ダヤーシャンカル・パーンデーイ
備考:PVRアヌパム4で鑑賞。

 舞台はムンバイー。DJのライアン(アルジュン・ラームパール)は、様々な銀行でクレジットカードを作り、それで大金を引き出しては悠々自適の生活を送っていた。彼のモットーは「死ぬまでに金を借りるだけ借りる」というものであった。ライアンはセクシーな女性ナンシー(マラーイカー・アローラー・カーン)と出会い、同棲し始める。

 アニル(アーシーシュ・チャウダリー)とシルパー(ネーハー・ウーベローイ)はこれから結婚するカップルで、銀行から借りたお金を使って結婚式から新婚生活からハネムーンまで全てをアレンジした。

 チャンドラカーント(クルブーシャン・カルバンダー)は定年退職した老人だった。彼の妻は既に亡くなっており、一人息子のアルジュン(プシュカル・ジョーグ)の行く末のみが心配だった。アルジュンはロンドンに留学したいという希望を持っていた。チャンドラカーントは銀行で100万ルピーのローンを組んで、アルジュンの留学費用を捻出した。

 プレールナー(ウルミラー・マートーンドカル)の夫は、借金苦のために自殺してしまった。夫は生命保険に入っていたが、銀行は自殺者の遺族には保険金を支払わないと言う。保険金を手に入れるためには警察のレポートが必要であったが、警察も夫の死の原因を自殺と断定していた。もし保険金が下りればその額は2千万ルピーになるはずで、彼女はそのお金が必要だった。そこでプレールナーは、自殺を殺人に切り替えるためにマフィアのところへ行く。マフィアはその仕事のために100万ルピーの前金を要求する。プレールナーは仕方なくそのお金を銀行から借りて支払う。

 1年が過ぎ去った。上記全てのローンは返済が滞っていた。

 ライアンのところにはあちこちの銀行から借金返済の電話がかかって来ていた。ずる賢いライアンは口先だけでそれをかわしていたが、ナンシーに愛想を尽かされて逃げられてしまう。

 アニルとシルパーは既に仲違いして別居しており、離婚のための調停を進めていた。だが、離婚をするためにもお金が必要だった。二人は結婚前に借りたお金も返しておらず、どうしようもない状態に置かれていた。

 チャンドラカーントの息子のアルジュンはロンドン留学から帰って来たが、自然写真家になる夢を持っており、まだ定職には就いていなかった。チャンドラカーントは借金を返済するために再び仕事を始める。

 未だにプレールナーの夫の死因は殺人にはなっていなかった。もうすぐ裁判所の判決が出るはずだったが、敗訴する可能性もあった。しかも、その仕事を頼んだマフィアが死んでしまう。プレールナーはさらにお金に困ることになった。

 これらの借金を取り立てるため、銀行はプロの取り立て屋に仕事を依頼する。サッタールバーイー(サンジャイ・ダット)率いるグッドラック・リカバリー・エージェンシーであった。サッタールバーイーの部下たちは、負債者のところを次々と訪問し、借金返済を要求する。

 だが、最近サッタールバーイーは政治家になる夢を持っていた。親分のユースフから、人々から尊敬されなければ政治家にはなれないと忠告され、サッタールバーイーは少しソフトな人間になる。サッタールバーイーはアニルに対し、妻に謝れば全てうまく行くとアドバイスし、その通り二人の仲は回復する。父親が借金取り立て屋に脅迫されているのを知ったアルジュンは責任を感じ、自分が借金を返すと言い出す。ライアンはサッタールバーイーの紹介で音楽会社に採用され、成功を手にする。また、サッタールバーイーはプレールナーに一目惚れし、彼女を口説く。プレールナーが抱えていた案件もサッタールバーイーの尽力で解決し、二人は結婚するのであった。

 悪人が世直しや人助けに一肌脱ぐという、「Munna Bhai」シリーズの流れを汲む作品であった。無計画な借金を諫めるメッセージもあったが、基本的にはコメディー映画である。借金取り立て屋のサッタールバーイーは、負債者から金をただ搾り取るだけではなく、彼らの悩みを聞き、その解決法を提示する。そのおかげで負債者が人生で抱えていた問題が解決し、皆ハッピーになるというストーリーであった。「Munna Bhai」シリーズと同じくサンジャイ・ダットが主人公を演じていたため、類似性はどうしても否定できない。

 それでも、中盤までは軽快に進み、流行のクロスオーバー映画(娯楽映画とアート映画の中道)の雰囲気があって好意的に見ていた。しかし、話がサッタールバーイーとプレールナーの恋愛に辿り着いたところで一気に冷めてしまった。急に二流映画のテイストになってしまったのである。少なくともサッタールバーイーは終わりまで硬派に構えているべきであった。プレールナーとのデートシーンなどは全く場違いで、映画全体を崩壊させていた。下手に「Munna Bhai」シリーズを真似た悪影響であろう。

 サンジャイ・ダットは押しも押されぬスーパースターであるが、それ以外のキャストはほとんどB級と言える。最近上り調子のアルジュン・ラームパールが再び好演をしていたことと、普段はアイテムガール出演しかしないマラーイカー・アローラー・カーンが通常の役で出演していたことを除けば、特筆すべきことはなかった。

 音楽はチランタン・バット。「Mission Istaanbul」(2008年)でデビューした音楽監督だが、ヒンディー語映画界で受ける曲を作る才能がありそうで、この映画のサントラCDも悪くはない。サンジャイ・ダットが歌うタイトルソング「EMI」やムンバイーの場末の雰囲気がよく出た「Vote For Sattar Bhai」、アルジュン・ラームパールとマラーイカー・アローラー・カーンが踊るベリーダンス風「Chori Chori Dekhe Mujhko」など、なかなか見所が多い。これから注目して行きたい音楽監督である。

 「EMI Liya Hai To Chukana Padega」は、4組の負債者のストーリーを、借金取り立て屋役を演じるサンジャイ・ダットがとりまとめた、準オムニバス形式映画である。作り方によっては軽妙なクロスオーバー映画になったと思うが、脚本が弱く、無理に娯楽映画的な要素を詰め込んでしまった印象を受け、亀裂が生じていた。全体的な評価としては中の下である。