2014年3月28日公開の「Dishkiyaoon」は、ムンバイーを舞台にしたギャング映画である。題名は拳銃の発射音で、敢えて日本語に訳せば「ドキューン」になるだろうか。
この映画はストーリーそのものよりもその周縁部分に話題性がある。まず、一時代を築いたスター女優シルパー・シェッティーがプロデューサーを務めている点が目立つ。2009年に結婚して以来、銀幕からは遠ざかっていたシルパーだったが、この作品でプロデューサーとして復帰し、エンドクレジットのダンスナンバー「Tu Mere Type Ka Nahi Hai」にもアイテムガール出演している。
主演はハルマン・バーウェージャー。彼を見たのも久しぶりだ。「Love Story 2050」(2008年)で華々しいデビューを飾ったときは、リティク・ローシャンのそっくりさんとして話題になり、しかもプリヤンカー・チョープラーと付き合っていて、大物感たっぷりだった。しかし、主演作は鳴かず飛ばずですぐに業界から見捨てられ、しばらく何をしているか分からない状態だった。
ハルマンほど出番は多くないが、一番おいしいところを持っていっているのはサニー・デーオールである。彼の方はコンスタントに映画に出演しているが、何と言っても大ヒット映画「Gadar: Ek Prem Katha」(2001年)の頃がキャリアの絶頂期で、その後は二度とその高みに登ることができなかった落ち目のスターだ。
この映画に参加している顔ぶれを見ると、カムバックを切望する面々といった感じだ。その割には、監督は新人のサナムジート・スィン・タルワールで、ヒロインも新人のアーイシャー・カンナーである。他には、アーディティヤ・パンチョーリー、プラシャーント・ナーラーヤナン、アーナンド・ティワーリー、スミート・ニジャーワン、ハサン・ザイディー、ラジト・カプールなどが出演している。
舞台はムンバイー。幼い頃に母親を亡くし、仕事に忙しい父親からも放っておかれたヴィッキー(ハルマン・バーウェージャー)は、港の顔役モーター・トニー(プラシャーント・ナーラーヤナン)に可愛がられるようになり、アンダーワールドに入り込む。父親からは勘当され、トニーを父親と慕うようになる。 トニーは、マフィアのドン、イクバール・カリーファー(スミート・ニジャーワン)と組んで、かつてのボスであるグッジャルに反旗を翻す。ヴィッキーはトニーに付いていくが、カリーファーの右腕ロッキー・チュー(アーナンド・ティワーリー)とは馬が合わなかった。また、ヴィッキーはミーラー(アーイシャー・カンナー)という美女と出会い、恋に落ちる。ミーラーは、ヴィッキーがギャングであることを知りながら彼を受け入れる。また、ヴィッキーは幼馴染みの親友で会計士のケータン(ハサン・ザイディー)をカリーファーのギャングに誘う。 ヴィッキーは密かにカリーファーの地位を奪取しようと野心を燃やしていた。トニーは一度カリーファーに歯向かい、彼に銃を突き付けたことがあった。それが原因でトニーはロッキーに殺される。ヴィッキーは復讐を誓うが、表向きはカリーファーに服従していた。カリーファーの命令により、トニー殺しの罪をかぶり、刑務所に4年間入る。この刑務所で彼はラクワー(サニー・デーオール)という謎の人物と出会う。 出所したヴィッキーはカリーファーからムンバイー郊外に土地をもらい、有毒廃棄物処理のビジネスを始める。だが、地元住民とトラブルがあり、ナワーブ・カーン警部(アーディティヤ・パンチョーリー)の娘が死んでしまう。カーン警部が激怒してギャング一掃に乗り出したため、カリーファーは逃走する。そのとき、ヴィッキーはカリーファーの金を持ち出してイランに逃れるが、やがてラクワーの手引きによりムンバイーに戻る。ヴィッキーはカリーファーの金を何倍もの価値のあるヘロインに替えて持参していた。 ヴィッキーとロッキーの間で対立が深まった。ヴィッキーはカーン警部をおびき出してカリーファーに突き出し、ロッキーに殺させる。ヴィッキーはミーラーとよりを戻していたが、ロッキーの罠にかかり、ミーラーに嫌われてしまう。ヴィッキーはカリーファーとロッキーを殺し、マフィアのドンの地位に就くが、そこへ現われたラクワーとケータンに殺される。
主人公ヴィッキーの目標は明確だった。彼は、ムンバイーのアンダーワールドを支配するカリーファーを排除して自分がドンになろうとしていた。そして、父親のように慕うゴロツキのトニーを通してカリーファーと接触し、彼のギャングの一員になる。
そこまでは理解できたのだが、ストーリーテーリングが下手で、その後の展開はチンプンカンプンだった。登場人物が多い上にそれぞれがどういう人物なのか説明が不足しており、しかもそれぞれの思惑で行動する。後半になると、ヴィッキーは何をしているのか分からなくなる。その分からなさはとうとう最後まで解消されなかった。物語の重要な鍵を握るラクワーについても、どうも彼が真のグッジャルだったようなのだが、唐突すぎて付いて行けなかった。
主演ハルマン・バーウェージャーは渋さが出ており、演技にも切れが出ていたが、既に旬は過ぎているのは否めず、自身の運命を変えるほどの演技をすることはできていなかった。ハルマンは運動神経がよく、それをアピールするため、出演作の中では必ずパルクールのような軽い身のこなしを見せる。この「Dishkiyaoon」でもそういうシーンが用意されていたが、それも大した足しにはなっていなかった。
演技面ではロッキーを演じたアーナンド・ティワーリーが良かった。「Go Goa Gone」(2013年/邦題:インド・オブ・ザ・デッド)などに出演していた俳優で、どちらかというとコメディー要員のことが多いが、今回はギャングの一員を、シリアスとコミカルを絶妙に織り交ぜた演技で作り上げていた。童顔だが、演技力でカバーしており、非常にうまい俳優だ。トニーを演じたプラシャーント・ナーラーヤナンもアーナンドに次ぐ好演であった。
アクションスターのイメージが強いサニー・デーオールは、ハリヤーンヴィー方言をしゃべる謎の人物ラクワーを演じており、アクションシーンの見せ場はなかった。出番は少なかったものの、演技力を要する役に挑戦しており、悪くはなかった。
「Dishkiyaoon」は、ハルマン・バーウェージャーの久々の主演作で、サニー・デーオールが重要な役で出演していたり、シルパー・シェッティーがアイテムガール出演していたりと、話題性はある。しかしながら、ストーリーテーリングが下手で、後半になると何がどうなっているのか分からなくなってしまう。新人監督には荷の重すぎる作品だった。