Rog

2.5
Rog
「Rog」

 2000年代、ヒンディー語映画の一般的な課金を伴う楽しみ方は、まず映画の公開1ヶ月前くらいに発売されるサントラCDを買って音楽に聴き入り、次に映画館で上映される映画を観て悦に入り、もし気に入ったら、それから数ヶ月後に発売されるDVDを買って家で心ゆくまで見倒すというものだった。ただ、サントラCDを買ったからといって必ずその映画を観たかというとそういうわけでもない。例えば、2005年1月7日公開の「Rog(病気)」という映画は、サントラCDだけ買って映画本編は観なかった例に数えられる。フロップに終わって映画館からすぐに外されてしまったために観る機会を逸したと思われる。ずっと気になっている映画であったが、YouTubeにZee Music Companyが公式でアップロードした映画本編を見つけたため、2022年10月18日に鑑賞する機会に恵まれた。

 監督はヒマーンシュ・ブラフムバット。過去に「Vishwasghaat」という映画を撮っているが、有名な監督ではない。プロデューサーはプージャー・バット、脚本はマヘーシュ・バットであり、いわゆるバット・キャンプの映画である。音楽はベテランのMMカリームだ。MMカリームの音楽が聴きたくてこの映画のサントラCDを買ったのだった。

 主演はイルファーン・カーン。ヒロインは新人のアイリーン・ハーマン。南アフリカ共和国出身のモデルで、インド人の血は流れていない。「Rog」の後に国内外の映画などで女優として活躍した形跡もない。

 他に、ヒマーンシュ・マリク、スヘール・セート、シャーモーリー・ヴァルマー、マニーシュ・マキージャー、デンジル・スミスなどが出演している。

 舞台はムンバイー。不眠症に悩まされる独身の警察官、ウダイ・スィン・ラートール警部補(イルファーン・カーン)は、有名なモデル、マーヤー・ソロモン(アイリーン・ハーマン)殺人事件の担当になる。マーヤーは自宅で何者かにショットガンで撃たれ死亡した。

 ウダイ警部補は相棒のムンナー(マニーシュ・マキージャー)と共に、何人かの容疑者候補に話を聞く。マーヤーのパトロンであり、有名なジャーナリストのハルシュ・バット(スヘール・セート)、マーヤーの恋人アリー(ヒマーンシュ・マリク)、アリーのパートナー、シャーモーリー(シャーモーリー・ヴァルマー)などである。また、ウダイ警部補はマーヤーの写真を見ている内に彼女に惹かれていった。ハルシュは男を引き寄せる魔力を持ったマーヤーを「病気」と呼んでいたが、正にウダイ警部補はマーヤーの虜になってしまったのだった。

 ある晩、マーヤーの自宅でウダイ警部補が眠れない夜を過ごしていると、突然マーヤーが入って来る。なんとマーヤーは生きていた。過去4日間、彼女はビーチハウスにいたとのことだった。殺されたのは、アリーの女友達ニーナであった。ただ、アリーの語るところでは、ニーナを殺したのは彼ではなかった。アリーがマーヤーの留守中に彼女の家でニーナと情事に耽っていたときに何者かがやって来てニーナを殺したのだった。

 ニーナが殺されマーヤーが生きていたことで、マーヤーにニーナ殺害の疑いが行くのは必然だった。ウダイ警部補はマーヤーを信じ、彼女を逃がそうとする。だが、ハルシュがマーヤーを殺しに現れたため、真犯人が分かる。ハルシュはアリーと結婚しようとするマーヤーに我慢がならず、彼女を殺そうとしたが、誤ってニーナを殺してしまったのだった。マーヤーも殺されそうになるが、ウダイ警部補に助けられる。乱闘の末にハルシュはマーヤーに撃たれて死ぬ。

 題名の「病気」とは、ヒロインであるマーヤーの、男性を片っ端から虜にしてしまう魔性の魅力を一言で表現したものである。マーヤーを演じるのはインド人離れした外見、というよりインド人ではない南アフリカ人アイリーン・ハーマンであり、確かに妖艶な魅力を持った女優である。マーヤー役の人選はこの映画の肝であるが、敢えて既存の女優ではなく、海外から演技未経験のモデルを連れて来たのも、ミステリアスさを醸し出したかったからだと予想される。もちろん、台詞は彼女自身がしゃべっているわけではないだろう。

 ただし、マーヤーは魔性の魅力を持っているとはいえ、次々と男を籠絡させる魔性の女ではない。自宅のドアを開けっぱなしにして寝るほど無邪気で純真な女性であり、それ故に主人公ウダイ警部補の心をも掴んだ。外面的な魔性性と内面的な純粋性を同居させた非現実的な女性キャラの設定を堂々とするあたり、脚本を書いたマヘーシュ・バットは本当によく分かっている。

 バット・キャンプの映画にありがちだが、ベッドシーンや露出シーンなどを適度に盛り込み、男性観客にアピールしたB級映画の作りになっている。確かにアイリーン・ハーマンの身体は細見ながらグラマラスで、このあたりも狙い澄ました起用である。

 後に名優として賞賛されるイルファーン・カーンもこの頃にはまだまだ駆け出しの男優であるが、優れた演技力の片鱗は既に見られる。彼がアドリブで演技をしていると思われるシーンがいくつかあり、うだつの上がらない警察官の肉付けを上手にしている。

 イルファーンの演技とアイリーンの存在は特筆すべきであるが、それ以外の部分で大きな見所があった映画ではなかった。サスペンス映画の部類に入るが、登場人物が限られているため、犯人の特定は容易で、サスペンス性が希薄である。屋内で撮られているシーンがほとんどで広がりがなく、いかにも低予算映画といった低予算映画になってしまっている。アリーを演じたヒマーンシュ・マリクの棒読み演技も褒められたものではなかった。

 MMカリームの音楽は一長一短だ。いいものもあれば、手抜きと思われるものもあった。いくつかの曲はテルグ語映画「Okariki Okaru」(2003年)の挿入歌のメロディーを再利用している。

 「Rog」は、イルファーン・カーン主演のサスペンス映画であるが、典型的な低予算映画であり、彼の演技とヒロインであるアイリーン・ハーマンの妖艶な顔とボディー以外には特に見所のない映画である。無理して観る映画ではない。