2015年10月30日公開の「Main Aur Charles(私とチャールズ)」は、実話に基づいた犯罪映画である。多くの女性を魅了しつつ、アジア各国で殺人や強盗などの犯罪を犯し、殺した女性をビキニ姿のまま放置する手口を繰り返したため、「ビキニ・キラー」と称された、聡明でスタイリッシュな犯罪者、チャールズ・ソーブラージを巡る物語になっている。
チャールズ・ソーブラージは1944年、サイゴン(現ホーチミンシティー)に生まれた。父親はインド人、母親はヴェトナム人であった。だが、父親に捨てられ、母親も再婚し、彼は蔑ろにされるようになった。この出自の影響からか、彼は無国籍な人間になった。
幼少時、フランスと東南アジアを往き来している内に犯罪に手を染めるようになり、盗んだパスポートを使って国から国へと移動していった。初めて殺人に手を染めたのはタイであり、その後もネパール、インドなどで殺人を繰り返した。彼は西洋人ヒッピーをよくターゲットにし、殺した女性をビキニ姿のまま放置したため、「ビキニ・キラー」と呼ばれるようになった。
しかし、1976年にデリーで逮捕され、懲役12年を言い渡される。刑務所でチャールズは持ち前のカリスマ性を発揮し、囚人ばかりか看守たちとも親密になった。服役10年目のときに彼は大きなパーティーを開いたが、食事に睡眠薬を混ぜ、刑務所の人々を眠らせて、悠々と脱獄する。後にチャールズはゴアで逮捕されるが、この脱獄と逮捕も実は彼の計画の内だった。タイで犯した殺人の罪が時効となるまで、インドの刑務所に入っている必要があったのである。脱獄の罪により彼の刑期は10年延長された。チャールズがようやく刑期を全うしたのは1997年である。
自由の身となった彼はフランスに戻って悠々自適の生活を始めた。ただ、2003年にネパールに入国したところ、過去に彼が同国で犯した殺人の罪が時効になっておらず、逮捕されて終身刑となる。その後彼はネパールの刑務所に収監され続けている。
世界各国を股に掛けて犯罪を犯したチャールズは世界中でセレブリティーのような存在であり、彼は伝記出版権など、自分の人生を切り売りすることで莫大な富を築いた。彼の伝記は今まで3冊出版されている。また、彼と接した女性は必ず彼に魅了されてしまうという。彼は多くの女性を殺したが、多くの女性から愛されもした。結婚も何度もしている。ネパールでは、彼の事件を担当した女性通訳と結婚したとされている。
「Main Aur Charles」の監督はプラワール・ラマン。過去に「Gayab」(2004年)などを撮っている。主人公チャールズを演じるのはランディープ・フッダー。他に、リチャー・チャッダー、アーディル・フサイン、アレックス・オニール、ティスカ・チョープラーなどが出演している。また、歌手のカニカー・カプールが「Jab Chaye Mera Jadoo」で特別出演している。
デリーの中央刑務所に服役していた国際的な犯罪者チャールズ(ランディープ・フッダー)が脱獄した。デリー警察アモード・カーント(アーディル・フサイン)は、チャールズの協力者と目される法学生ミーラー・シャルマー(リチャー・チャッダー)などを事情聴取し、チャールズの行方を追う。また、チャールズ逮捕に貢献したムンバイー警察のスダーカルに協力を要請する。 スダーカルはチャールズの行方を追ってゴアに辿り着き、そこで彼を逮捕する。チャールズの協力者リチャード(アレックス・オニール)も一緒だった。チャールズはゴアからマハーラーシュトラ州に移送され、そこから飛行機でデリーに運ばれる。 だが、このままではチャールズの刑期はせいぜい3年であった。アモードは、チャールズのような犯罪者にはさらに重い罰を与えなければならないと考え、彼に関する証拠をもう一度洗い直す。その中で彼は殺人に関わった証拠を見つけることに成功する。
序盤は断片的な映像のつなぎ合わせが多く、いまいち何が起こっているのかよく分からない。だが、物語が進むにつれて断片的な映像が意味を持つようになり、終盤でようやくチャールズの行動の全容が分かる。スタイリッシュなストーリーテーリングではあるが、序盤に我慢を強いられる時間帯が長く続くため、分かりやすさを求める観客には不評になるだろう。だが、こういう映画に慣れている層には響くものがある犯罪スリラー映画に仕上がっている。
主人公チャールズのモデルになったチャールズ・ソーブラージはまだ存命中であるが、どうも彼自身から映画化の許可を得て作られた映画ではないようだ。代わりに、チャールズ逮捕に貢献した警察官アモード・カーントから映画化の権利を獲得している。よって、題名もアモードの視点から「私とチャールズ」になっている。劇中でもアモードは実名で登場し、アーディル・フサインが演じている。また、チャールズ役を務めたランディープ・フッダーは、カトマンズ刑務所に収監されているチャールズと面会したようである。
メインストリームの映画の中では渋い役どころを演じることの多い演技派男優のランディープは、今回かなりチャールズの話し方や振るまいをコピーして演技をしているように見える。チャールズはインド人の父親を持っているものの、あまりヒンディー語が得意ではないようだ。ランディープの母語は当然ヒンディー語であるが、役作りのため、今回敢えて片言のヒンディー語を話していた。ただ、なぜ実際のチャールズがそんなに女性からもてるのか、彼のその挙動からは分からなかった。それでも、彼は女性への手紙を欠かさず、女性の心を勝ち取るような細かい心遣いに長けていた。おそらくそういう行動が彼の周囲に多くの女性を集めたのだろう。
A級のスターはいないものの、ランディープをはじめとして、演技に定評のある俳優たちが多数共演しており、映画を盛り上げている。リチャー・チャッダー、アーディル・フサイン、ティスカ・チョープラーなどである。また、ヒンディー語映画界で活躍している米国人俳優アレックス・オニールも重要な役柄を演じていた。
「Main Aur Charles」は、国際セレブ犯罪者チャールズ・ソーブラージの伝記映画といえる作品である。ただ、チャールズ自身は映画化権を誰にも売っていない。チャールズを逮捕した警察官の視点から、彼の人生が語られるという構成にしている。ランディープ・フッダーやアーディル・フサインなど演技派俳優たちの激突が見所であるが、あまりにスタイリッシュに物語を描き過ぎているため、筋を追いにくいところがある。だが、最後まで我慢して観れば、謎は氷解する。観る人を選ぶ映画である。