Loins of Punjab Presents

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Loins of Punjab Presents
「Loins of Punjab Presents」

 本日(2007年9月21日)からインド映画が3本公開された。まずは、ニューヨークで開催されたファーストラン映画祭2007で最優秀長編映画賞を受賞したヒングリッシュ映画「Loins of Punjab Presents」を観に行った。

監督:マニーシュ・アーチャーリヤ
制作:マニーシュ・アーチャーリヤ
出演:シャバーナー・アーズミー、アジャイ・ナーイドゥ、アーイシャー・ダールカル、スィーマー・レヘマーニー、ダルシャン・ジャリーワーラー、ラブリーン・ミシュラー、イーシター・シャルマー、ジャミール・カーン、クナール・ロイ・カプール、マイケル・レイモンディ、コリー・バセット、マニーシュ・アーチャーリヤ、シャーン(特別出演)、アヌシュカー・マンチャンダー(特別出演)
備考:PVRナーラーイナーで鑑賞。

 米国ニュージャージー州の田舎町で、インド映画音楽をテーマにしたのど自慢コンテスト「デーシー・アイドル」が開催された。主催者は、東海岸一の豚肉業者ローインス・オブ・パンジャーブ。コンテストには多くの参加者が集まった。「ロングアイランドのマザー・テレサ」と呼ばれる女性慈善事業家リター・カプール(シャバーナー・アーズミー)、バーングラー・ヒップホップ歌手のバルラージ・ディーパク・グプター(アジャイ・ナーイドゥ)、通称ターバノートリアスBDG、ヒンディー語映画女優志望のサーニヤー・レヘマーン(スィーマー・レヘマーニー)、グジャラートの一族郎党を引き連れて参加のプリーティ・パテール(イーシター・シャルマー)、白人ながらインド文化マニアのジョシュア・コーヘン(マイケル・レイモンディ)とその恋人オパマ(アーイシャー・ダールカル)、ITエンジニアのヴィクラム・テージワーニー(マニーシュ・アーチャーリヤ)などである。

 オーディションが行われ、リター・カプール、サーニヤー・レヘマーン、プリーティ・パテール、ジョシュア・コーヘンなどが選考に残った。当日のイベントは大盛況で、シャーンやアヌシュカー・マンチャンダーなどのプロのシンガーもゲストで呼ばれていた。

  10人の候補者が歌を歌った結果、2人が最終的に残った。リター・カプールとプリーティ・パテールである。どうしても賞金を手に入れたかったリターはプリーティに、モデルの仕事をオファーし、わざと負けることを持ち掛ける。リターは決勝前に姿を消す。リターが行方不明になったことにより、ジョシュアが繰り上がる。だが、観客からは白人がインド人ののど自慢コンテストの決勝に残ることに不満の声が上がる。それを見たジョシュアはインドの国歌「Jana Gana Mana」を歌う。そのおかげでジョシュアは優勝する。

 最近インドでは「インディアン・アイドル」というスター発掘番組が人気だが、その舞台を米国のインド人移民社会に移し、そのイベントの裏舞台の人間模様やドタバタ劇を描いた映画であった。参加者はヒンディー語映画音楽を歌うのだが、映画自体にマサーラー・ムービー独特のテイストはほとんどなく、薄味な展開だった。個性的な参加者たち・・・といいたいところだが、いまいちその個性を磨き切れておらず、映画の世界に入り込むことができなかった。この映画が映画祭で映画賞を取ったというのは信じがたい。

 映画の中で唯一興味深かったのは、白人がインド映画音楽のど自慢大会に出演し、出演者や観客から「なぜデーシー(インド人)の大会に白人が出るのか」とブーイングを受けるという展開である。しかも彼の恋人はインド人で、それでまたからかわれていた。もしかしたらインド人の間にはそういう感情があるのかもしれない。特に賞金がかかっているので、普段よりも心が狭くなることはありうる。しかし、普通に考えたら、インドの文化に興味を持ち、インド映画音楽のど自慢大会にまで出演しようとする外国人がいたら、誇り高いインド人は温かく歓迎するはずだ。それを考えると非現実的であった。ブーイングの嵐を、インド国歌「Jana Gana Mana」を歌って収めるという展開は、王道というか、陳腐というか、完全に予想できた展開だった。

 イベント当日、サーニヤー・レヘマーンがヒンディー語がほとんどできないことが発覚し、出場資格を取り消されてしまう一幕もあった。これは有力候補を蹴落とそうとするリター・カプールの陰謀に他ならなかったが、出場規定には十分なヒンディー語能力が要求されており、出場資格停止はやむを得ないことであった。ところが、オーディション中にサーニヤーと仲良くなり、当日会場に応援に来ていたヴィクラムは、「ヒンディー語ができないインド人は山ほどいる」と主張して観客を味方につけ、主催者に彼女の出場を認めさせる。このプロットの裏にどのような制作者の意図があるのか分からなかったが、もしかしたら「ヒンディー語はインド人の国民性の象徴にはなりえない」というメッセージが込められていたのかもしれない。

 シャバーナー・アーズミーなどを除けば、映画に出演しているのは米国のインド系移民社会で割と有名な俳優たちのようだ。監督のマニーシュ・アーチャーリヤも重要な役で出演している。

 言語はほとんど英語。ヒンディー語映画の挿入歌を歌うので、歌は当然のことながらヒンディー語である。それ以外にもセリフの中にヒンディー語、パンジャービー語、グジャラーティー語などが混ざるが、ごくわずかである。ヒングリッシュ映画の中でも英語のシェアが高い映画に分類されるだろう。

 ちなみに、「Loins」とは「Lions(ライオン)」の誤表記。誤表記とは言えど、パンジャーブ人の間で十分に普及した「訛った英語」であり、パンジャーブらしさが出ている。

 上映時間は1時間半ほど。2時間半~3時間のインド映画に慣れていると、非常にあっけなく終わってしまうように感じる。日本では、この映画の展開に非常に似た「のど自慢」(1998年)という映画も制作されており、日本人にも目新しさはあまりないだろう。「Loins of Punjab Presents」という題名からは何やら謎めいたものを感じるが、特に題名が何か重要な秘密を持っていたということもない。総じて、鑑賞する価値のある映画とは思えない。