An Unfold Fact Lateef

1.5
An Unfold Fact Lateef
「An Unfold Fact Lateef」

 2015年5月15日公開の「An Unfold Fact Lateef」は、インド社会に蔓延する若者のドラッグ中毒を取り上げた作品である。ナワーズッディーン・スィッディーキーが主演だが、とても若く見える。「Chocolate」(2015年)の映画ポスターが見えたことから、おそらく10年くらい前に撮影された映画なのではないかと思われる。ナワーズッディーンの声も本人の声ではなかった。きっと、「Gangs of Wasseypur」(2012年)などでナワーズッディーンの名が売れたため、それにあやかって、彼の過去の出演作でお蔵入りになっていたものが引っ張り出されて公開されたのだろう。

 監督はイスラール・アハマド。過去にいくつか映画を撮っているが、全く知らない作品ばかりである。主演のナワーズッディーン・スィッディーキーの他、ムラリー・シャルマー、ムケーシュ・ティワーリー、カーダル・カーン、プラティマー・カーズミー、アキレーンドラ・ミシュラーなどが出演している。

 舞台はムンバイー。ナーラーヤン・ダット・アグラワール大臣、通称NDA(アキレーンドラ・ミシュラー)と、麻薬密売マフィアのザファル・ドーングリー(ムラリー・シャルマー)は結託して街にドラッグを蔓延させていた。正義感が強い警察官サーワント警部(ムケーシュ・ティワーリー)は黒幕に気付き、若者たちをドラッグ中毒から救うため、根本から絶とうと動き出す。

 一方、ラティーフ(ナワーズッディーン・スィッディーキー)はホームレスの麻薬中毒者だった。彼は元々医学生だったが、誤って麻薬所持の濡れ衣を着せられて7年間刑務所に入れられる。出所したラティーフは悲しみを紛らわせるためにドラッグに手を出し、そのまま中毒者になってしまっていた。ラティーフの姉は、出所後も戻ってこないラティーフを待ち続けていた。サーワント警部の部下パーンデーイ警部補はラティーフとその仲間を探し出し、彼らに麻薬を止めるように言う。

 また、NDAの娘ディヴィヤーは、父親がマフィアと密通していることに気付き、彼を糾弾する。NDAは、ディヴィヤーの恋人を惨殺する。それを機にディヴィヤーはサーワント警部補に通報する。サーワント警部補はザファルを逮捕し、次にNDAを逮捕する。

 ラティーフの姉はラティーフを見つけるが、彼は禁断症状により絶命した後だった。また、NDAは無罪放免となり、選挙にも勝利した。サーワント警部は自分の無力さを思い知る。

 2010年代に公開された映画だが、作りは完全に2000年代のB級・C級映画であり、ナワーズッディーン・スィッディーキーの存在も全く活かされていなかった。冒頭で、ムンバイーで多くの若者がなぜ麻薬中毒になっているのか、真相を究明すると大見得を切っておきながら、内容はよくある政治家とマフィアの癒着であり、まともにリサーチをしたのかすら怪しい。

 ただ、ナワーズッディーン・スィッディーキーが演じた主人公ラティーフの人物像は興味深いものだった。まずは「गर्दुल्लाガルドゥッラー」、つまり麻薬中毒者として描かれるが、途中で彼が流暢な英語を話すことが明らかになり、単なる貧困者ではないことが分かって、俄然彼の生い立ちに関心が集まる。インドでは英語は教養者と無教養者を分ける強力なリトマス試験紙であり、ラティーフはきちんとした教育を受けた人間であること、そして、教育が受けられるだけの最低限の経済的余裕がある家庭に生まれ育ったことが暗示される。ラティーフを必死で探す姉の存在も、彼にちゃんと家族がいることが提示されている。

 終盤でラティーフはパーンデーイ警部補に、なぜ麻薬中毒になったのか、生い立ちを語り出す。彼は医学生だったが、たまたま路上で乗せてもらった自動車の乗客がドラッグを持っており、それが警察に見つかってしまって、ラティーフもろとも逮捕されてしまった。ラティーフは麻薬所持の罪で7年の実刑を食らい、それが原因で母親を失ってしまう。人生に絶望したラティーフは、出所後に悲しみを紛らわすためにドラッグに走り、麻薬中毒者になってしまったのである。

 もしかしたら誰かの実体験なのかもしれないが、劇中で特にこれが実話にもとづく物語だとは示されていなかった。

 ナワーズッディーン・スィッディーキーの他にも、ムラリー・シャルマー、ムケーシュ・ティワーリー、アキレーンドラ・ミシュラーなど、いい俳優が揃っている。だが、監督の力が圧倒的に不足していて、素人に毛が生えたレベルの古風な映画で終わっていた。興行的にも全く鳴かず飛ばずだったようだ。

 「An Unfold Fact Lateef」は、名優ナワーズッディーン・スィッディーキーが主演していることもあって、もしかしたら面白い映画なのかもしれないと思ってしまうが、まず、これはナワーズッディーンがまだ無名の頃に作られた映画であり、おそらくは10年ほど前に撮影されたと見られる。これでナワーズッディーンの演技が優れていたら言う事はないのだが、残念ながらまだ未熟で、しかも声が違っている。ストーリーは本当に稚拙なものだ。ほとんど見所のない映画であり、ナワーズッディーンのファンにすらも勧められない。