Jamun

3.5
Jamun
「Jamun」

 2021年1月21日からEros Nowで配信開始された「Jamun」は、斜視の娘を持つ父親の奮闘記である。題名の「ジャームン」とは、ムラサキフトモモの木およびその実のことであり、インドで人気のミターイー(お菓子)「グラーブ・ジャームン」でお馴染みの単語だ。ただ、この映画にジャームンの木、実、またはお菓子が出て来ることはない。主人公の名前がジャームンなのである。

 監督はガウラヴ・メヘラー。ほぼ無名の映画監督である。主演はラグビール・ヤーダヴとシュエーター・バス・プラサード。他に、サニー・ヒンドゥージャー、サウラブ・ゴーヤルなどが出演している。

 舞台はムンバイー。ホメオパシーの診療医をするジャームン・プラサード(ラグヴィール・ヤーダヴ)には、息子のアマル(サニー・ヒンドゥージャー)と娘のチェートナー(シュエーター・バス・プラサード)がいた。妻は既に亡くなっていた。アマルは工科大学を卒業してしばらく経っていたが無職だった。アマルの行く末も心配だったが、ジャームンにとって最大の悩みの種はチェートナーの結婚だった。器量は悪くなかったが、彼女は斜視で、お見合い相手は皆、彼女の目を見て拒絶してしまっていた。斜視の手術のためには25万ルピーが必要だったが、ジャームンの手元にそんな大金はなかった。また、チェートナーは看護学校に通っていた。

 アマルは友人とドバイへ行って働こうとしており、その渡航費を手に入れるため、肝臓を売ろうとしていた。だが、その手術中に命を落としてしまう。ストレスからジャームンの手の震えが止まらなくなり、医師からパーキンソン病と診断された。チェートナーは看護学校を卒業し、看護婦になる。

 チェートナーは、父親の治療の過程でハンサムな医師ケーワル(サウラブ・ゴーヤル)と出会う。ケーワルはチェートナーの斜視を気にせず、彼女をデートに誘う。ジャームンのパーキンソン病は深刻化していくが、ケーワルとチェートナーの仲は深まっていく。ジャームンも二人の仲に気付き、ケーワルの家に挨拶に行く。

 映画の冒頭で提示される問題は2つ、長男アマルが無職であることと、長女のチェートナーが斜視のために結婚相手を見つけられずにいることだった。アマルは父親からの承認欲求が強く、ドバイで出稼ぎをするため、手っ取り早く大金を手に入れようとする。彼が手を出したのは違法な肝臓密売だった。だが、運悪くアマルはその手術が原因で死んでしまう。アマルの死は不幸な出来事であったが、映画の冒頭で提示された問題の1つはこれで霧消し、残るはチェートナーの斜視と、彼女の結婚問題だけになったかに思われた。

 これだけの物語だったら、どちらかというとチェートナーが主人公の映画に感じられただろう。彼女は斜視であることを隠すために普段は眼鏡を掛けて過ごしていた。だが、お見合いのときには眼鏡を外さなければならず、そうすることでお見合い相手はことごとく逃げて行ってしまった。彼女にとって斜視は最大のコンプレックスで、その影響で引っ込み思案な性格になっていた。ただ、家族思いのいい女性だった。

 しかし、中盤からジャームンにパーキンソン病の症状が現れ、一気にフォーカスはチェートナーからジャームンに移る。パーキンソン病はどんどん進行し、ジャームンは歩くことしゃべることもままならなくなる。その病状を、名優ラグヴィール・ヤーダヴが絶妙なバランスで演じる。オーバーアクティングにならないギリギリのところで自然にパーキンソン病を演じており、さすがだと唸らされた。

 同時に、チェートナーにはケーワルという恋人候補が現れる。きっかけは父親のパーキンソン病だった。父親を診察してくれたのがケーワルだったのである。そして、ケーワルはチェートナーの斜視を全く気にせず、彼女をデートに誘ってくれた。また、ケーワルの父親は家族を捨てて逃げており、彼は家族思いの女性を求めていた節があった。献身的に父親を看病するチェートナーは彼にとって理想の女性であった。ジャームンの心配は、皮肉にも、自分がパーキンソン病になったことで、解決に向かったのである。

 しかしながら、前半でアマルの死を見せているため、物語の方向がどちらの方向に向かっているのか分からなくなる。ハッピーエンド要素とアンハッピーエンド要素が交錯するのである。どちらの方向に向かわせることもできた。映画の中で起こる出来事は方向付けが明確でなく、散発的に事件が起こるような感じで、もどかしい時間帯もあった。だが、最後はインド映画らしく、ケーワルとチェートナーの結婚がほのめかされ、ハッピーエンドを迎える。

 主要な登場人物は、プラサード家の3人、ジャームン、チェートナー、アマルであるが、どの視点からでもこの映画を鑑賞することができた。個人的には、前半で死んでしまったものの、アマルの視点がもっとも深みがあったと感じた。パーキンソン病と斜視という、今までそれほど取り上げられてこなかった病気が取り上げられていたことは特筆すべきである。

 「Jamun」はOTTリリースのため、あまり話題にならなかった映画だが、斜視、臓器売買、パーキンソン病と、バラエティーに富んだ医療関係の出来事が続き、ユニークだ。心情描写も優れていたし、ラグヴィール・ヤーダヴやシュエーター・バス・プラサードなどの演技も素晴らしかった。ハッピーエンドに向かうのかアンハッピーエンドに向かうのか、最後までハラハラさせられるが、後味はとてもいい。地味だが無視できない映画だ。