2019年8月21日からZee5で配信開始された「Posham Pa」は、実際に起こった連続子供誘拐殺人事件を題材にしたサイコスリラー映画である。1996年11月19日に逮捕されたアンジャナーバーイー・ガーヴィトとその娘スィーマー・ガーヴィトとレーヌカー・シンデーの母娘は、40人以上の子供を誘拐し、12人を殺したとして2001年に死刑判決を受けた。その後、2014年に最高裁判所もその判決を支持し、死刑が確定したが、現在まで刑は執行されていない。
「Posham Pa」の監督はベンガル語映画界で活躍するスマン・ムコーパーディヤーイ。ヒンディー語映画の監督は初のはずである。キャストは、マーヒー・ギル、サヤーニー・グプター、ラーギニー・カンナー、シヴァーニー・ラグヴァンシー、イマード・シャー、ランディール・ラーイなどである。
ニカト・イスマーイール(シヴァーニー・ラグヴァンシー)とグンディープ・スィン(イマード・シャー)は、政府からの依頼で、多くの子供を殺して死刑判決を受けたレーガー・サーテー(サヤーニー・グプター)とシカー・デーシュパーンデー(ラーギニー・カンナー)のドキュメンタリー映画を作っていた。レーガーとシカーは別々の刑務所に入っており、彼女たちの母親プラジャクター(マーヒー・ギル)は既に死んでいた。ニカトとグンディープはレーガーとシカーに会いに行き、話を聞く。 長女のレーガーは元々ナーグプルに住んでいた。母親のプラジャクターは、男を誘惑しては殺し、金品を奪っていた。彼女はいつも腹を空かせており、母親からも度々暴行を受けた。プラジャクターはアウランガーバードで軍人のダルメーシュ・デーシュパーンデー(ランディール・ラーイ)と結婚し、シカーが生まれる。彼女たちにとって束の間の幸せだったが、プラジャクターが泥棒をしていることを知ったダルメーシュは妻子を家から追い出す。以後、彼女たちは乞食と泥棒をして生活をするようになった。 その後、プラジャクターはレーガーとシカーを連れてダルメーシュの元に戻るが、彼は既に再婚しており、ヴィニートという子供も生まれていた。ある日、プラジャクターはヴィニートを誘拐して殺したが、近所の通報により逮捕される。プラジャクターは刑務所で死に、レーガーとシカーには死刑判決が下された。 ニカトとグンディープは彼女たちへのインタビューの他に、周辺関係者にも会いに行く。そして、一度レーガーとシカーを電話で話させ、さらに引き合わせることもする。だが、その直後にレーガーは自殺してしまう。 2ヵ月後、ドキュメンタリー映画は完成し、高い評価を受けた。シカーの恩赦を求める機運も高まった。3人の母娘の中ではシカーがもっとも正常に見えたからだ。ところが、実際はシカーがもっとも冷酷な殺人鬼だったことが後で分かる。
実話に基づいた物語ではあるものの、フィクションを交えて構成されており、事件の完全な再現ではない。ドキュメンタリー映画を製作中のニカトとグンディープが、死刑囚のレーガーとシカー姉妹本人と事件の関係者にインタビューをする中で、事件の真相に迫るドキュメンタリー・タッチの映画だった。
一見するとレーガーは気が触れており、シカーの方がまともであった。レーガーは精神的に不安定で、髪の毛を引っこ抜いてばかりいたため、頭がはげ上がってしまっていた。レーガーはほとんど口を聞かず、言葉を発するとしたら罵詈雑言のみだった。また、彼女は母親プラジャクターの亡霊を見ていた。ニカトもお世辞にも清潔な風貌ではなかったが、彼女の話す内容は筋が通っており、レーガーよりも信頼できた。ニカトは、シカーのインタビューをする中で、もっとも年下だったシカーは殺人に関与していないのではないかと信じるようになる。彼女の作るドキュメンタリー映画は、シカーに肩入れする形になった。
ところが、映画公開後に、アウランガーバード時代に強姦された娘が、シカーではなくレーガーである事実が分かった。シカーは、自分が被害者だと言っていた。そこからシカーの発言に信憑性がなくなり、観客には新事実が明かされる。プラジャクター、レーガー、シカーの3人の中で、もっとも冷酷な殺人鬼はシカーだったのである。プラジャクターの元夫ダルメーシュの再婚相手との子供ヴィニートを殺したのもシカーだった。
ストーリーはとてもよくまとまっており、しかもスリリングな展開になるように工夫されていた。それに加えて、実力派の俳優陣の演技が素晴らしかった。マーヒー・ギルの堂々とした悪女振りには圧倒されたが、何よりも死刑囚の姉妹、レーガーとシカーを演じたサヤーニー・グプターとラーギニー・カンナーが素晴らしかった。二人ともハートの弱い女優にはできないようなサイコな役柄を演じ切っており、映画に大きく貢献していた。
ところで、題名の「Posham Pa」とはインドの童歌の一節だ。日本の「さよならマーチ」に似た、遊びながら歌う歌で、最後に誰かが捕まってしまう。映画の中で何度か印象的に使われていた。「Posham Pa」という言葉自体には特に意味はないと思われる。参考までに歌詞を掲載しておく。
पोशम पा भाई पोशम पा
डाकुओं ने क्या किया?
सौ रुपए की घड़ी चुराई
आठ आने की रबड़ी खाई
पोशम पा भाई पोशम पा
अब तो जेल में जाना पड़ेगा
जेल का खाना खाना पड़ेगा
जेल का पानी पीना पड़ेगा
अब तो जेल में जाना पड़ेगा
ポーシャム・パー
盗賊たちが何をした?
100ルピーの時計を盗んだ
8アーナーのラブリーを食べた
ポーシャム・パー
もう牢屋に行かなければならない
牢屋の食べ物を食べなければいけない
牢屋の水を飲まなければならない
もう牢屋に行かなければならない
「Posham Pa」は、多くの子供を誘拐して殺した母娘3人の実話を脚色したドキュメンタリー・タッチのサイコスリラー映画である。ダークな映画ではあるが、ストーリーテーリングが巧みで、思わず画面に釘付けになってしまう引きのある作品だ。観る価値は十分にある。