21世紀に入り、本格的にホラー映画が作られるようになったヒンディー語映画界には、いくつかホラー映画のシリーズも生まれている。ヒンディー語映画界にホラー映画というジャンルを確立した立役者となった「Raaz」(2002年)のシリーズ、「Phoonk」(2008年)のシリーズ、「Ragini MMS」(2011年)のシリーズなどである。その中でも「1920」(2008年)のシリーズが意外に伸びている。第2作となる「1920: Evil Returns」(2012年)に続き、第3作「1920: London」が2016年5月6日に公開された。大ヒットしているシリーズではないのだが、ヴィクラム・バットが気に入っているようで、同じようなホラー映画を作り続けている。
「1920: London」の監督は新人のティーヌー・スレーシュ・デーサーイー。過去に「Baby」(2015年)で助監督を務めたことがある。キャストは、シャルマン・ジョーシー、ミーラー・チョープラー、ヴィシャール・カルワル、ミーナル・カプール、ガジェーンドラ・チャウハーン、スシュミター・ムカルジー、スレーンドラ・パールなどである。
時は1920年。ラージャスターン地方のスィーカル藩王国の王族出身シヴァーンギー(ミーラー・チョープラー)は、夫のヴィール・スィン(ヴィシャール・カルワル)と共にロンドンに住んでいた。だが、ある日突然ヴィールは原因不明の病に冒される。医者は破傷風だと診断するが、侍女のケーサル・マー(スシュミター・ムカルジー)は黒魔術だと言う。 シヴァーンギーはスィーカルに戻り、家族と共に魔術師(ガジェーンドラ・チャウハーン)を訪ねる。だが、魔術師は自分には手に負えないと言い、メーワル・バーバーを紹介する。メーワル・バーバーの本名はジャイ・スィン・グジャル(シャルマン・ジョーシー)、シヴァーンギーのかつての恋人だった。 シヴァーンギーはジャイに会いに行き、夫を助けるように頼む。最初は拒絶するジャイであったが、最後にはシヴァーンギーと共にロンドンへ行くことを許諾する。 ロンドンに着いたジャイは、インドから送られて来たペンダントが呪いの原因だと断定し、ヴィールに取り憑いた魔女を追い払おうとする。だが、実はそのペンダントはジャイが送り付けたものだった。 ジャイとシヴァーンギーは恋仲にあったが、身分の違いから結婚に踏み出せずにいた。シヴァーンギーの叔母の夫はシヴァーンギーに言い寄っており、彼女とジャイの仲を引き裂こうとする。ジャイは彼に怪我をさせてしまい、裁判に掛けられる。シヴァーンギーはジャイの命を救うため、裁判の場で敢えてジャイを突き放す。ジャイは5年の懲役刑となる。牢屋でジャイは黒魔術師から黒魔術を学び、シヴァーンギーに復讐しようとしたのだった。 ヴィールを助けるためにはペンダントが必要だったが、ジャイは既にペンダントをテムズ川に捨ててしまった。 ジャイが黒幕であることに気付いたシヴァーンギーは、ロンドンを去ろうとしていたジャイを追い掛け、彼を追及する。シヴァーンギーが自分の命を救うために全てを行ったことを知ったジャイは改心し、ヴィールに取り憑いた魔女を追い払おうとするが、彼が考えるよりも魔女の力は強大であった。ジャイは、死んだ師匠と交信し、魔女を退治するためのダガーを手に入れる。そのダガーを使ってジャイは向こうの世界へ行って魔女からペンダントを奪い返し、シヴァーンギーがそれを燃やす。しかし、ジャイは向こうの世界から帰って来られなくなる。
「1920」と「1920: Evil Returns」は、ヒマーラヤ地方山間部の邸宅を舞台にしたホラー映画だったが、第3作「1920: London」は、その題名が示す通り、大半がロンドンを舞台としていた。実際にロンドンで撮影が行われたわけではないだろうが、タワーブリッジやテムズ川は出て来た。それに加えてラージャスターン地方も舞台になっていたが、こちらも実際の撮影がラージャスターン州で行われたとは限らない。グジャラート州ジュナーガルにあるマハーバト・マクバラー・コンプレックスなどが見えたので、もしかしたら実際にはグジャラート州で撮られたのかもしれない。
ヴィクラム・バットがプロデュースした映画らしく、終始B級映画のノリである。前作「1920: Evil Returns」は救いようのない映画だったが、今作はシャルマン・ジョーシーの演じるジャイの立ち位置がコロコロ変わるなど、多少ツイストがあって、まあまあ楽しむことができた。それでも、インド映画界でもホラー映画の質が上がってきている中で、昔ながらの強引な手法で観客を驚かせることに執着している「1920」シリーズは、時代遅れのホラー映画になりつつある。
ただ、3作が作られたことで、シリーズの特徴も明確になっている。英領時代の1920年の物語であるという共通点は容易に抽出可能だが、他にも、悪霊による憑依がストーリーの中心になっていることや、憑依された人間がブリッジしながら歩く姿がハイライトになっていることなど、お約束の設定が生まれている。こういうのは大事にしていくべきであろう。
ヒロインを演じたミーラー・チョープラーは、プリヤンカー・チョープラーやパリニーティ・チョープラーの又従姉妹である。パリニーティはプリヤンカーに劣らずスター性と演技力を持っているが、ミーラーからはスター性はおろか演技力のかけらも感じなかった。
シャルマン・ジョーシーは「3 Idiots」(2009年/邦題:きっと、うまくいく)などで有名な男優で、お人好しな脇役を得意とするが、「Hate Story 3」(2015年)辺りから今までのイメージを脱却すべく、影のあるキャラも演じるようになっている。「1920: London」で一番面白いキャラだったのは、彼の演じたジャイである。ヒロインのシヴァーンギーの元恋人であり、黒魔術師となって彼女の夫ヴィールに魔女を憑依させた張本人であり、しかもその魔女を追い払う役割も果たす。ジャイの自作自演が一本の映画になっていたといっても過言ではない。最後まで悪役に徹していれば、また違ったテイストの映画になっただろうが、最後にはシヴァーンギーを本当に助ける立場となり、強大な魔女と戦うことになる。
「1920: London」は、ヒンディー語映画界で意外に長寿のホラー映画シリーズになっている「1920」シリーズの最新作である。ホラー映画の発展に寄与するような新鮮味のある作品ではなく、無理に観る必要はない。