今日はPVRバンガロールで、2005年12月23日公開の新作ヒンディー語映画「Vaah! Life Ho Toh Aisi」を観た。題名の意味は、「わぁ!人生はこうでなくっちゃ」という感じ。監督はマヘーシュ・マーンジュレーカル、音楽はヒメーシュ・レーシャミヤー。キャストは、サンジャイ・ダット、シャーヒド・カプール、アムリター・ラーオ、アルシャド・ワールスィー、スハースィニー・ムレー、モーニーシュ・ベヘル、エークター・ベヘル、マスター・アーディル、プレーム・チョープラー、シャラト・サクセーナー、ラジャト・ベーディー、アマン・ヴァルマーなど。
自動車修理工場で働くアーディ(シャーヒド・カプール)は、3世代が同じ屋根の下で過ごす大家族の一員だった。祖母(スハースィニー・ムレー)、叔父(プレーム・チョープラー)、長男夫婦(飛行機事故で死亡)の子供たち、次男夫婦(モーニーシュ・ベヘルとエークター・ベヘル)とその子供たち、妹が一緒に住んでおり、しかも家庭教師のピヤー(アムリター・ラーオ)も家族同然となっていた。そして、アーディとピヤーはお互いに惹かれ合っており、結婚も決まっていた。次男は事業に失敗して飲んだくれており、アーディだけが一家の大黒柱であった。 妹の縁談が進んでいた。だが、花婿側の家族は500万ルピーのダウリー(持参金)を要求して来た。アーディは太陽電池で動く自動車を開発しており、それが大手自動車会社に採用されれば、まとまった金が手に入る予定だった。アーディは金貸しから屋敷の権利書を担保に500万ルピーを借りて花婿側の家族に手渡す。ところが、その後すぐにアーディは突然交通事故に遭って死んでしまう。 気付くとアーディは、ビンテージカーに乗ってデザイナースーツを着た男の隣にいた。彼はヤムラージ(サンジャイ・ダット)、つまり閻魔だと名乗った。車の行き先は天国であった。同じ車には、同日に死んだシャクティ(マスター・アーディル)という子供も乗っていた。アーディはヤムラージに、地上へ返してくれるよう頼み込む。情にもろいヤムラージは、アーディとシャクティを地上に返す。ただし2つの条件があった。ひとつは、地上に戻った2人を誰も見ることはできず、二人の言うことを誰も聞くことができない、というものであった。もうひとつは、1週間後に天国へ連れて行く、というものであった。 地上に幽霊となって戻ったアーディとシャクティは、霊媒師ファキーラー(アルシャド・ワールスィー)と出会い、ハヌマーンの力を借りてスーパーパワーを手に入れる。その力を使えば、物に触れたり身体を伸縮させたりすることが可能だった。 自宅に戻ったアーディであったが、屋敷が悪徳実業家ヒーラーチャンド(シャラト・サクセーナー)に狙われていることに気付く。ヒーラーチャンドはいつの間にかアーディの屋敷の権利書を手に入れており、借金の形に屋敷を差し押さえようとしていた。アーディと同居していた叔父もグルだった。だが、アーディはスーパーパワーを使って彼らを撃退する。この他にもいろいろな出来事があり、アーディの家族はアーディの幽霊が自分たちを守ってくれていることを感じ取っていた。また、この間度々ヤムラージはアーディを訪ねて来た。2人はすっかり大の仲良しになると同時に、ヤムラージは酒の味を覚えてしまう。 やがて1週間が過ぎてしまった。最後に5分だけ、ヤムラージはアーディに家族の前に姿を現すことを許す。姿を現したアーディは家族と感動の再会を果たす。だが、ヤムラージは酒を飲んで酔っ払ってしまい、しかもアーディに同情して彼を地上に帰すことに決める。家族はヤムラージにも姿を現すように頼む。照れながらも姿を現したヤムラージであったが、その顔はサンジャイ・ダットにそっくりであった!
基本的に子供向けのファンタジー映画であり、しょうもないシーンがいくつもあったが、最後は不覚にもホロリとさせられてしまった。家族みんなで映画館に観に行くのに最適な、クリスマスシーズンにピッタリの映画だ。また、「モダンな閻魔様」と自分自身を演じるサンジャイ・ダットにも注目である。
監督のマヘーシュ・マーンジュレーカルは、ヒンディー語映画界で最も意味不明の人物である。彼は悪役俳優であると同時に、様々なジャンルの映画を撮っている。「Rakht」(2004年)というハートフルなホラー映画を撮ってみたり、「Padmashree Laloo Prasad Yadav」(2005年)というお馬鹿なコメディー映画を撮ってみたり、「Viruddh」(2005年)というシルバーロマンス映画を撮ってみたり、全くパターンが読めない。今回は、「ゴースト ニューヨークの幻」(1990年)や「ジョー・ブラックによろしく」(1998年)をベースに、インド映画的味付けをした幽霊ファンタジー映画に挑戦である。ますます訳が分からない。
まず冒頭で、アーディの家族の簡単な説明が漫画と共に流れる。いわゆるジョイント・ファミリーであり、「タイガース」と呼ばれる子供たちの群れを中心として多くの登場人物が出て来るので、ここで聞き逃すとストーリーについていけなくなってしまうかもしれない。重要なのは、プレーム・チョープラー演じる叔父はアーディの祖父でも直接の血縁でもないことと、アムリター・ラーオ演じるピヤーは家族の一員ではなく子供たちの家庭教師であることだ。それさえ分かれば流れはつかめるだろう。
この映画が子供向けである最大の理由は、10人もの子供たちが出て来て、一人一人の役割は小さいものの、集団でけっこう活躍するからだ。「Makdee」(2002年)で双子を1人で演じたり、「Iabal」(2005年)で見事な助演をしたシュエーター・プラサード、「Pitaah」(2002年)に出演したタンヴィー・ヘーグデーなど、名を知られた子役俳優の他、主演シャーヒド・カプールの弟のイーシャーン・カプール、マヘーシュ・マーンジュレーカル監督の息子のサティヤ・マーンジュレーカルなどが出演していた。おそらく最も観客の記憶に残るのは、食いしん坊の末っ子を演じたダルシル、シャクティを演じたマスター・アーディル、そして手品好きの子供を演じたイーシャーンであろう。タイガースがアーディやピヤーと共にみんなでボーリング大会に参加するシーンや、最後に悪者どもをコテンパンにやっつけるところなどが、子供たちの最大の活躍の場だ。ちなみに最近ヒンディー語映画にボーリングがよく出て来るような気がするが、一般のインド人はボーリングのルールなどを理解しているとは思えないのだが・・・。デリーにも小さなボーリング場がいくつかあるが、遊んでいるのはリッチな人々ばかりだ。それともムンバイーのインド人の間ではボーリングはけっこうポピュラーな娯楽になっているのだろうか?
子供たちの活躍も痛快であったが、やはりこの映画の最大の主役はサンジャイ・ダットであろう。サンジャイ・ダットが演じるヤムラージは、日本語で言う閻魔様(サンスクリット語の「ヤマ」が日本語の「閻魔」になった)。だが、日本人が考えるほどインドの閻魔様は権力のある存在ではなく、彼の仕事は寿命が来た人間を連れに来るだけである。人間の寿命を決定するのはチトラグプトという神様で、映画中のセリフにもチラリと登場する。「Vaah! Life Ho Toh Aisi」の中のヤムラージは、従来のヤムラージのイメージを覆すモダンなスタイル。派手なスーツを身に付け、ビンテージカーを乗り回す。しかもこのヤムラージ、情にもろくてしかも大酒飲み。ナイトクラブで酒を飲んで踊り狂うミュージカル「Teri Yaad Yaar」では、ミニスカートの女の子の足元から上を覗き込んだり、キスをするカップルの間に入り込んだりと大暴れ。そしてエンディングでは「ヤムラージはサンジャイ・ダットに顔が似ている」ということになってしまう。サンジャイ・ダットはヤムラージの他、サンジャイ・ダット自身として映画の最後に特別出演する。しかも、サンジャイ・ダットが過去に主演した「Khal Nayak」(1993年)、「Vaastav」(1999年)、「Munna Bhai M.B.B.S.」(2003年)関連のちょっとしたパロディーが出て来る。サンジャイ・ダットがいかにインド人に愛されているかを感じ取ることができるだろう。
サンジャイ・ダットや子供たちに押され気味ではあったが、シャーヒド・カプールはいい演技をしていた。やたらアイドルアイドルしたアイドルスマイルが毎度気になるが・・・。サンジャイ・ダットと踊るミュージカル「Teri Yaad Yaar」では軟体動物のようにしなやかに、かつ激しく身体を動かして踊っていた。アムリター・ラーオは、「Main Hoon Na」(2004年)の頃のお転婆娘のイメージを払拭するようなピュアな女の子の役を演じていた。だが、何となく普通の若手女優になってしまったようで残念に感じた。見るたびに身体が華奢になっていくのは気のせいだろうか?祖母を演じたスハースィニー・ムレーは、「Lagaan」(2001年)でブヴァンのお母さんを演じた女優で、2003年3月に日本で行われた「Lagaan」の試写会に来ていた。「Vaah! Life Ho Toh Aisi」はこういう映画であるため、大人の俳優たちも童心に帰って演技をすべきだと思うのだが、スハースィニー・ムレーは最も表情が固く、この映画の趣旨をよく理解していないように思えた。その点、サンジャイ・ダットやシャラト・サクセーナーなどの馬鹿演技振りは見事であった。「ゴースト ニューヨークの幻」でウーピー・ゴールドバーグが演じていたような霊媒師役をアルシャド・ワールスィーが演じていたが、ムンバイーの下層民がしゃべるタポーリー・バーシャーと呼ばれるヒンディー語の一方言をまくしたてていて、理解が困難であった。だが、誰が何と言おうとそれが彼の持ち味なのである。
アルシャド・ワールスィーが演じたファキーラーが、霊魂となって地上に戻って来たアーディとシャクティにスーパーパワーを与えるシーンは、この映画の中で最も馬鹿馬鹿しいと同時に最も面白い。まず、そのスーパーパワーは「ラーマーヤナ」に出て来る猿の将軍ハヌマーンの賛歌「ハヌマーン・チャーリーサー」を唱えることにより得られる。シャクティが「ハヌマーン・チャーリーサー」に文句を言うと、ファキーラーは「馬鹿!スーパーマンもバットマンもスパイダーマンも、ハヌマーンから力を授かってるんだ。ハヌマーンこそがスーパーヒーローたちの親分なんだ」と言う。そしてシャンカル・マハーデーヴァンが歌い、大量のサードゥたちが登場してスローダンスを踊るミュージカル「Hanuman Chalisa」となる。ミュージカルの最後には、天空にハヌマーンが登場し、アーディとシャクティに力を授ける。ちょうど2ヶ月前にハヌマーンを主人公にしたアニメ映画「Hanuman」が公開され、インド製アニメ映画としては異例のヒットとなっているが、今年はハヌマーンに縁のある年なのか。
「Vaah! Life Ho Toh Aisi」は、子供向けのファンタジー映画であり、深く考えてしまう人には向いていないかもしれない。だが、サンジャイ・ダットのファンなら必ず観るべき映画だろう。