2014年にナレーンドラ・モーディーが首相に就任して以来、数々の政策を打ち出してきているが、その中で「Make in India」キャンペーンは製造業の促進を目的としたものだった。海外の大手企業の工場を誘致することで海外直接投資(FDI)を呼び込み、産業を振興して雇用を創出しようとしており、成果が出て来ている。
2021年12月31日からZee5で配信開始された「Waah Zindagi(わあ、人生)」は、副題に「Make in India」とある。国産品を愛用し、インドを中国企業のダンピングから救うメッセージが込められた、ユニークな娯楽映画である。
監督は「Turtle」(2018年)のディネーシュ・S・ヤーダヴ。キャストは、ナヴィーン・カストゥーリヤー、プラービター・ボールタークル、ヴィジャイ・ラーズ、サンジャイ・ミシュラー、マノージ・ジョーシーなどである。
舞台はラージャスターン州。アショーク(ナヴィーン・カストゥーリヤー)はインド工科大学(IIT)入学を目指す青年だった。アショークの生まれた村では、アショークが生まれてから干魃に襲われるようになったため、アカーリー(干魃を呼ぶ者)とされていた。アショークは幼年時にリーナー(プラービター・ボールタークル)と幼児婚をしていた。祖父のラームカラン(サンジャイ・ミシュラー)は家族共々村を追い出されてしまった。井戸を掘るための金を用意しなければ村に帰れず、リーナーとも正式な夫婦になれないことになっていた。だから、アショークはIITを卒業してエンジニアになり、大金を稼ごうとしていたのである。 町に住んでいたアショークは親友のボビーと共にネズミ講に手を出し、封建領主のバンナー(ヴィジャイ・ラーズ)から目を付けられる。アショークはグジャラート州のアハマダーバードに逃げ、リーナーとも音信不通となる。アハマダーバードでアショークはタイル産業で働き出し、自分のデザインを売り出そうとするが、中国製タイルでインドの市場を独占しようとするジャガト・シャー(マノージ・ジョーシー)の妨害に遭い、詐欺の容疑を掛けられて逮捕されてしまう。 ボビーとリーナーは、バンナーから300万ルピーを借りてアショークを釈放させる。バンナーが300万ルピーの返金を求めたため、アショークは30日以内に返すと約束する。もし返せなかったら、リーナーはバンナーと結婚する条件だった。アショークはタイルを売ってお金を作ろうとするが、再びジャガトに妨害され、借金返済に失敗する。絶望したアショークは自殺しようとするが、遊行者に助けられ、そのまま一緒に遊行の旅に出る。 遊行中に達観したアショークは遊行を辞めて再び俗世に戻り、国産タイルで中国製タイルに対抗しようとする。アショークの事業は成功し、一財産を築く。こうして生まれ故郷に井戸を掘ることができた。また、バンナーはリーナーとは結婚しておらず、彼女をアショークに返す。
幼児婚から国産品愛用まで、多岐に渡るテーマを一本の映画に詰め込んだ野心的作品だった。しかし、まだ経験の浅いディネーシュ・S・ヤーダヴ監督にこれだけ壮大な物語を扱う力はなく、四方八方に散らかった散漫な映画になってしまっていた。
やはりまずは映画の最大のテーマといっていい、「Make in India」と国産品愛用のメッセージが興味深かった。名指しで敵にされていたのが中国製品で、焦点が当てられていたのがタイル産業だった。中国から安価なタイルが大量に輸入されたことで、インド国内のタイル企業が大打撃を被っていた。それを見た主人公アショークは、インドの文化に立脚した愛国的な国産タイルを販売し、国民の支持を得る。映画の最後には、国産品を買って中国製品を排斥すべきという一文がダメ押しで発信されていた。
幼児婚が好意的にストーリーに織り込まれていたのも注目すべきである。アショークとリーナーは幼児婚をしていた。幼児「婚」とはいえ、実際には婚約みたいなもので、一緒には暮らさず、友人として仲よくしていた。だが、アショークは干魃をもたらす「アカーリー」だと決め付けられ、最終的には家族共々村から追い出されてしまう。以後、アショークとリーナーは離れ離れになる。大学生になった二人は町で再会するが、様々な出来事があり、なかなか一緒にはなれない。しかも、300万ルピーの借金が原因で封建領主のバンナーにリーナーを取られてしまう。それでも、最後にはアショークとリーナーは結ばれる。冒頭の注意書きには幼児婚には反対だと書かれていたが、「Waah Zindagi」のストーリー自体からは、幼児婚に対する批判めいた主張は全く感じなかった。
冒頭の村のシーンは、ディネーシュ・S・ヤーダヴ監督の前作「Turtle」のダイジェスト版である。よって、「Waah Zindagi」は「Turtle」の続編と位置づけてもいい。「Turtle」の結末では、アショークの家族は村から追放され町に住むことになるが、「Waah Zindagi」では、成長したアショークの物語がメインとなっている。「Turtle」は水不足問題に集中した映画だったが、「Waah Zindagi」ではその要素は希薄である。
それらに加えて、手っ取り早く金を稼ぐためにアショークがネズミ講に手を出したり、リーナーをバンナーに取られたアショークが自殺未遂を経て遊行者になったりと、かなり波瀾万丈のストーリーとなっている。それらが物語の主軸と有機的に結合していれば高品質の映画になったであろうが、そこまでは到達していなかった。
「Make in India」キャンペーンに準じた内容もそうだし、アショークの兄が、インド人民党(BJP)の母体である民族義勇団(RSS)のシャーカー(支部)の長である点もそうだが、かなりBJP寄りの政治色を感じる映画でもあった。しかしながら、モーディー首相の肖像も、BJPのシンボルマークも目にしなかったので、その辺りはわきまえていたようである。
主演のナヴィーン・カストゥーリヤーとヒロインのプラービター・ボールタークルはまだまだ若手の俳優で、オーラもなかった。それよりも脇役であるサンジャイ・ミシュラーやヴィジャイ・ラーズの存在感の方が際立っていた。
「Waah Zindagi」は、中国製品排斥と国産品愛用を訴える、政治的メッセージ色の強い映画である。それ以外にも幼児婚やら迷信やら遊行やらネズミ講やら様々な事象に触れられており、雑然とした映画になってしまっていた。わざわざ観る価値のある映画ではないが、興味深い点はあった。