Accused

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Accused
「Accused」

 2026年2月27日にNetflixで配信開始された「Accused」は、英国を舞台にし、インド系のレズビアン産婦人科医が匿名の女性患者からセクハラで訴えられるという出来事を描いたLGBTQ系スリラー映画である。日本語字幕付きで配信されており、邦題は「ある告発」になっている。

 監督はアヌラーグ・カシヤプの妹で「Doctor G」(2022年)などのアヌブーティ・カシヤプ。産婦人科医を主人公にした映画を続けて撮っている点にも注目したい。プロデューサーはカラン・ジョーハルなど。キャストは、コーンコナー・セーンシャルマー、プラティバー・ラーンター、マシュフール・アムローヒー、アーディティヤ・ナンダー、スカーント・ゴーエル、モニカ・マヘーンドル、カリロイ・ツィアフェタなど。名女優コーンコナーと並んで主演級の役柄を務めるプラティバーは「Laapataa Ladies」(2023年/邦題:花嫁はどこへ?)で注目された若手女優である。

 英国のチャペルストーン総合病院で産婦人科医として勤務するギーティカー・セーン(コーンコナー・セーンシャルマー)はレズビアンで、10歳以上年下の小児科医ミーラー(プラティバー・ラーンター)と同性婚して暮らしていた。ギーティカーは部長昇進が内示されており、人生の絶頂期にあった。新しい病院への転勤となるため、ミーラーと共に引っ越しの準備を進めていた。

 そんなあるとき、病院に一通の苦情メールが寄せられる。匿名の患者からで、ギーティカーに性的虐待を受けたとの告発だった。ギーティカーの良き理解者である人事部長のスィムラン(モニカ・マヘーンドル)は、形式的に調査をすると安心させるが、同じようなメールが何通も寄せられ、病院のSNSにも告発文が書き込まれて炎上したこともあって、第三者委員会が設置された。元記者のジャイディープ・バールガヴ(マシュフール・アムローヒー)がギーティカーの調査を担当することになった。

 一方、ミーラーはギーティカーが元恋人ソフィー(カリロイ・ツィアフェタ)と密かに会っていることを察知し、嫉妬心を募らせる。ソフィーは街角でインド料理レストランを経営していた。ミーラーは同じ病院に勤めるアンガド(アーディティヤ・ナンダー)に紹介された私立探偵マンスール(スカーント・ゴーエル)にギーティカーの身辺調査を依頼する。

 これまで匿名の告発者しかいなかったが、とうとう実名の告発者が現れる。かつてギーティカーの下で働いていたキャサリン・シモンズという医師であった。一連の出来事によって、ギーティカーとミーラーが計画していた養子縁組は破談となり、ギーティカーの昇進も中止となって、部長には同僚のローガンが就任することになった。

 マンスールの調査の結果、ギーティカーがソフィーと頻繁に会っていることが分かり、ミーラーはギーティカーから距離を置くようになる。既に勤務する病院には退職願を出していたため、より大きな病院の求人に応募し採用された。だが、ギーティカーはソフィーの弟でハッカーのマークに頼んで、病院に送られたメールのIPアドレスを調査していた。その結果、それら複数のメールは同一人物から送られた可能性が濃厚となる。また、マンスールとミーラーの間に入っていたアンガドが、彼女への恋心から、全ての情報をミーラーに渡していないことも分かる。こうして、ギーティカーの家に侵入したデーヴィッドという男の存在が浮上し、ギーティカーが調べた結果、彼は胃がんを患ってチャペルストーン総合病院で治療中で、主治医はローガンであることが発覚した。

 今回のことは、ギーティカーの出世を面白く思わないローガンがギーティカーを追い落とすために仕組んだことだった。ローガンは逮捕され、ギーティカーの昇進が再び内示される。だが、ギーティカーはもっと私生活に時間を割こうと決意し、昇進を断って、ミーラーの帰郷に同行することにする。

 英国は元々インドの宗主国だったという歴史的経緯もあってインド人移民が多く、英国を舞台にしたインド映画もよく作られる。「Accused」も英国舞台のインド映画であった。ただ、理由なく英国を舞台にしていたわけではなかった。主人公となる女性2人、ギーティカーとミーラーは同性婚をしたカップルであり、ストーリー上でもこの要素が重要な役割を果たす。インドではまだ同性婚が合法化されていないため、全土で合法化された英国が舞台に選ばれたというわけだ。

 物語の始点となるのが、レズビアンであることを公言している産婦人科医のギーティカーが、匿名の女性患者からセクハラで告発されるという出来事である。レズビアンのギーティカーにとって、性的対象は女性になる。その彼女が産婦人科医をし、女性の身体を触る仕事をしている。そうなると、そこに性的搾取が生まれる可能性があるのだろうか。そんな素朴な疑問からこの物語が生まれたものと容易に推測できる。

 通常、セクハラで告発されるのは男性である。告発されるのが女性になることでどのようなツイストがあるのか。それが「Accused」の一番の見どころとなる。

 それに加えてギーティカーの「私生活」にもメスが入れられる。ギーティカーは出世欲の強い野心的女性として描かれており、どちらかといえば男性的なキャラクターである。一方、ギーティカーのパートナーであるミーラーは、キャリアよりもギーティカーとの関係を重視する、より女性的なキャラクターだ。そして、ギーティカーの「浮気」を疑うのもミーラーの役割になる。ミーラーは、匿名の苦情メールによって窮地に陥っているギーティカーを助けたいと思いつつも、彼女が元恋人ソフィーと密会しているかもしれないという疑念の方に神経をとがらせてしまいがちになる。

 告発メールの中では、ギーティカーは「プレデター(捕食者)」と書かれており、物語の前半でもギーティカーが過去に多くの女性たちと関係を持ってきたことがほのめかされる。ギーティカーとミーラーの年齢差にも焦点が当てられる。よって、セクハラ告発が真実である可能性も担保されつつ物語が進行する。誰が真実を語っているのか分からない時間帯が長く続き、一定のスリルとサスペンスが得られる作品であった。とはいえ、女性が女性からセクハラで告発されるという出来事は新鮮なのだが、結局ギーティカーが男性的なキャラクターであるため、「女性ならでは」「レズビアンならでは」の展開にうまく発展させられていなかったようにも感じた。

 最終的にギーティカーをはめていた黒幕は、彼女の昇進に嫉妬した年配男性医師であった。ここまで女性にこだわった作品ならば、黒幕も女性にした方がスッキリしたと思うのだが、最後の最後で悪役を男性にしたことで、肩の力が抜けてしまった。しかも、女性の昇進を妬む男尊女卑的な心理が動機として設定されており、いつの間にか「ガラスの天井」を糾弾する古典的な家父長制批判映画に変身していた。結局、男性社会で女性が昇進するためには、男性以上に男性っぽく立ち振る舞わなければならないのだろうか。ギーティカーが昇進レースから降りた結末は、女性には男性とは別の生き方があるというメッセージにも受け止められた。

 実力派女優コーンコナー・セーンシャルマーは、男性顔負けの優秀かつ冷徹な女医ギーティカー役を迫真の演技で演じ切っていた。この役柄を演じるには身長の低さが不利に働くはずだったが、迫力でカバーしていた。ミーラー役のプラティバー・ラーンターははまり役で、独善的なギーティカーに振り回される健気なパートナーを自然体で演じられていた。

 「Accused」は、女性が女性からセクハラで告発されるという斬新な導入部から始まるスリラー映画である。主人公がどんどん追いつめられていく様子が緊迫感あふれる映像と脚本で描き出されており、そこは優れた点だ。ただ、女性内の闘争で終わらず、結局背後には男性が黒幕として君臨しており、短絡的に「ガラスの天井」批判に帰着していたのはあまりにありきたりで残念であった。一定のスリルは得られるが、後に何かが残る作品ではない。