2024年10月25日からJioCinemaで配信開始された「The Miranda Brothers」は、サッカーに人生を賭けた2人の兄弟の熱い物語である。
監督は「Kaante」(2002年)や「Shootout at Wadala」(2013年)などで有名なサンジャイ・グプター。主演はハルシュヴァルダン・ラーネーとミザーン・ジャーファリー。他に、マーナスィー・ジョーシー・ロイ、ジェニファー・ピッチナート、セヘル・バンバー、ラーフル・デーヴ、サンジャイ・スーリーなどが出演している。
舞台はゴア。夫の死後、ベーカリーを経営して家計を支えるスーザン・ミランダ(マーナスィー・ジョーシー・ロイ)には2人の息子がいた。ジュリオ(ハルシュヴァルダン・ラーネー)とその弟リガロ(ミザーン・ジャーファリー)であった。ジュリオはスーザンの実子であったが、リガロは教会の前に捨てられていた捨て子で、ジュリオの希望によって拾い育てた養子であった。ジュリオとリガロは実の兄弟のように仲が良く、二人とも有能なサッカー選手であった。ジュリオは、カーター(サンジャイ・スーリー)がコーチを務めるサッカーチームのキャプテンを務め、リガロも得点王として活躍していた。ゴアのサッカーリーグでプレイすることが兄弟の、そしてスーザンの夢であった。直近の試合をスカウトが見に来ており、ジュリオとリガロはプロ入りの実現が迫っていることを実感する。
ジュリオは、地元をアンダーワールドを牛耳るマフィア、モロッコ(ラーフル・デーヴ)と親身にしていた。モロッコの甥マックスとも仲が良かった。一方、スーザンは発電所建設に反対する活動も行っていた。ジュリオにはイサベラ(ジェニファー・ピッチナート)という恋人がいた。リガロは花屋を営むソル(セヘル・バンバー)に恋していたが、彼女には彼氏がいた。
ある日、リガロの目の前でスーザンが自動車にひかれて死んでしまう。加害の自動車はそのまま走り去ってしまった。ジュリオは怒り狂い、運転手を探し出そうとする。母親を失った今、彼にとってサッカーで身を立てることなどどうでもよくなっていた。一方、リガロはトライアウトで高評価を受け、プロ入りが決まる。だが、契約の段階でリガロは、ジュリオと一緒でなければサインしないと言い出す。
ジュリオとマックスは、モロッコの縄張りで麻薬の密売をしていたチンピラを捕まえ、彼をスーザン殺しの犯人だとして殺害する。だが、リガロは犯人が彼でないことを知っていた。その夜、リガロはマックスに会いに行き、なぜスーザンを殺したのか問いただす。マックスは交通事故を起こしたことを認めるが、相手がスーザンだとは気付かなかったと弁明する。リガロはあえてそのことをジュリオに明かさなかった。
アマチュアリーグの決勝戦があり、スカウトも観戦に来ている中、ジュリオとリガロは活躍する。先制点は許したものの、後半で同点に追いつき、勝ち越した。だが、途中でジュリオは激しい攻撃を受けて負傷し、いったんフィールドの外に出る。ジュリオを失ったことで戦力が落ち、同点に追いつかれてしまう。カーターは、もし試合に勝ったらスーザン殺しの真犯人を教えるという。カーターはリガロから真犯人を聞いていたのである。リガロが真実を知っていながら黙っていたと知ってジュリオは怒り、試合に戻ったものの、リガロを無視して一人で速攻する。ジュリオはそのまま決勝点を決める。
リガロは、マックスがスーザンをひいたのは単なる交通事故ではなくて、政治家やモロッコの指示を受けた暗殺だったと気付く。ジュリオが怒りに任せて行動する前にリガロはマックスを蹴り倒し殺してしまう。リガロは逮捕されるが、ジュリオはプロに選ばれた。
ジュリオとリガロは兄弟であるが、血は通っていない。リガロの方が元捨て子であり、スーザンとジュリオによって拾われたのだった。この事実は既にリガロも知っていることであり、セリフの中でもリガロが養子であることが何度も触れられる。よって、後からリガロが自分の出生の秘密を知ってショックを受ける、といったようなドラマは用意されていない。
むしろ、この映画が主題にしているのは、救われたのは養子の方のみなのか、という点である。普通に考えたら、捨て子として死ぬに任されていたリガロはたまたま通りがかったスーザンとジュリオによって救われたということになる。拾っただけで終わりではなく、ジュリオは常に兄としてリガロを守ろうとしていた。だが、実はリガロの方がジュリオを守っていた一面もあった。特に母親が死んでからはリガロは大きな責任を感じるようになる。そしてジュリオが復讐心に駆られて殺人を犯さないように細心の注意を払っていた。母親を殺した犯人の顔を見ていながら、ジュリオにはそれを黙っていた。なぜならそれを知ったら彼は絶対に彼を殺してしまうからである。
プロのサッカー選手になるという夢も、リガロは一人でかなえようとは考えていなかった。彼はジュリオと共にプロのサッカー選手になり、貧しい生活から抜け出そうとしていた。最初にチャンスが巡ってきたのはリガロの方であったが、彼は決して一人で契約書にサインしようとしなかった。ジュリオもサッカー選手にして、マフィアの道を歩み始めていた彼を救い出そうとしていたのである。
お互いがお互いをそれぞれの方法で思いやる二人の兄弟の愛情がテーマになっており、いわゆる「ブロマンス映画」のひとつに位置づけることも可能である。サッカーの要素もないではないが、一般的なスポーツ映画よりもスポーツに対する比重は低い。サッカーをしていない時間帯の方が長いし、重要である。もちろん、女手ひとつで二人を育て上げた母親スーザンの存在も大きく、母子の物語ともいえる。
ジュリオの恋人イザベラはほとんど飾りであったが、リガロが恋していた女性ソルには一定の重要性が見出せる。ソルは別の男性と付き合っていたが、妊娠してしまい、それをリガロに相談する。ソルは堕胎を考えていた。リガロは、自分が捨て子だったことをソルに明かし、どんな子供であっても、ましてや血のつながった子供ならなおさら、殺してはいけないと諭す。ソルは一転してその子供を生むことを決め、両親にも正直に打ち明ける。
ジュリオ役を演じたハルシュヴァルダン・ラーネーは決してメジャーな俳優ではないが、ワイルドな外観をした渋い俳優だ。運動神経もよく、サッカー選手役として見劣りしない身体能力を発揮していた。リガロ役のミザーン・ジャーファリーはジャーヴェード・ジャーファリーの息子であり、やはりまだ売り出し中の俳優であるが、しっかりした顔立ちをしていて、将来性はある。この二人のスクリーン上での相性も良かった。
ちなみに、インドで一番人気のスポーツといえばクリケットだが、一部地域ではサッカーも人気がある。ゴア州はサッカーが人気の地域のひとつであり、当地の若者たちがサッカーで身を立てようとする「The Miranda Brothers」のストーリーは全く変ではない。ただ、やはりクリケットがもたらす金と名声にかなうスポーツはない。ソルの恋人もクリケット選手という設定であり、サッカーを見下すような発言もあった。このあたりはインドのスポーツ界に存在するヒエラルキーを生々しく反映している。
「The Miranda Brothers」は、プロのサッカー選手を目指す兄弟が、母親の死をきっかけに別々の道を歩むことになるまでを描いたブロマンス映画である。弟の方が養子であるという点がポイントになる。ハルシュヴァルダン・ラーネーとミザーン・ジャーファリーの相性が良く、二人の熱い兄弟愛を楽しむことができる。