
「TAPS」は、2023年6月8日にカシシュ・ムンバイー国際クィア映画祭でプレミア上映された15分ほどの短編映画である。言語はほとんど英語で、たまにヒンディー語が入る。2025年2月20日からYouTubeで配信開始された。有名な監督・俳優による作品ではないが、女優リチャー・チャッダーと男優アリー・ファザルがプレゼンテーターを務めている点で特筆すべきである。2020年に結婚した二人はプッシングボタン・スタジオを立ち上げ、映画のプロデュースに乗り出している。つい先日、「Girls Will Be Girls」(2024年)が公開されたばかりだ。
監督は新人のアルヴィンド・チャウラーギー。キャストは、ローヒト・メヘラー、新人のウッラース・サムラート、そしてラーケーシュ・ヤーダヴである。
短い映画であり、断片的なセリフからストーリーを解釈するしかないが、おそらくこういったストーリーのはずである。
アクシャイ(ローヒト・メヘラー)とローハン(ウッラース・サムラート)はゲイ・カップルで同棲していた。アクシャイは米国ボルチモアに1年間留学することになり、ローハンは彼の荷物をパッキングしていた。ローハンは、アクシャイがダンの近くにいくことが許せず、憂鬱な気分だった。そんな彼の態度に腹を立てアクシャイは出て行ってしまう。すぐにローハンは心配になり、彼に電話をする。二人は何とか仲直りし、アクシャイはタクシーに乗って空港へ向かう。
一口にゲイ・カップルといってもその関係性は千差万別であろうが、見たところ「TAPS」のアクシャイとローハンは、通常の夫婦のように役割分担ができていそうであった。アクシャイの方が男性的で、ローハンの方が女性的に感じた。これから米国に留学しようとしているアクシャイのパッキングをローハンがしてあげている点、また、アクシャイが向こうで浮気しないか気を揉んでいる点などから、ローハンの女性性が感じられた。
おそらく「TAPS」はゲイ・カップルの日常をフィルターなしに提示しようと試みた作品であろう。そこに同性愛を特別視する眼差しは皆無で、それをごく普通のものとして描写している。そこにあるのは人間と人間の関係であり、感情である。そんな当たり前のことがなかなか自然に描かれない。「TAPS」はその隙間に入り込んだ作品である。
説明的な映画ではなく、それはそれでいいのだが、題名になっている「TAPS」に込められた意味も観客の推測に任されていたのは行き過ぎだと感じた。終盤にローハンがタクシーに乗ったアクシャイに向けて下腹部を5回叩くシーンがあった。おそらくこれが、ホワイトボードに赤字で書かれていた「5 TAPS for Rohan」であろう。それが何を意味するのか、2回見直してもよく分からなかったのだが、どうやら二人の中で大事な仕草だったらしい。
「TAPS」は、既にヒンディー語映画界では普通になり、1ジャンルを築き上げているといってもいいクィア映画のひとつである。同性愛をごく一般的なものとして描こうとする静かな努力を感じた。