「Jantar(お守り)」は、全編がウッタル・プラデーシュ州リーワー(Rewa)で撮影されたことを売りにしているホラー映画である。レーワーでは2023年5月21日に劇場公開されたようだが、同時にAmazon Prime、MX Player、Hungama PlayなどのOTTプラットフォームでもリリースされた。
監督はアスラム・ラザーで、彼は主演も務めている。他に、アーフターブ・ラザー、アーフターブ・アーラム、ムスカーン・ティワーリー、シュバーシュ・グプター、アーシーシュ・クシュワーハー、シャイレーンドラ・ドイヴェーディーなどが出演している。全く無名の監督と俳優たちで、おそらく皆、レーワー在住の素人だと思われる。
2003年、村長(シュバーシュ・グプター)の家で働いていたハリヤー(アーシーシュ・クシュワーハー)が行方不明になる。ハリヤーの妻サヴィター(ムスカーン・ティワーリー)は夫を探しに村長の家まで行くが、手掛かりは得られなかった。その帰り、サヴィターは夫が地面に埋められているのを発見する。村長はサヴィターも殺すが、死ぬ間際に彼女は全員を殺すと呪いを掛ける。 2007年、町に出稼ぎに出ていたシャラド(アスラム・ラザー)が久々に村に戻ってくる。だが、両親は家におらず、村人たちの話では、幽霊に殺されたとのことだった。また、シャラドは女性の幽霊と対面する。シャラドは、村人たちから尊敬されている呪術師(アーフターブ・アーラム)のところへ行く。呪術師は、封印していた幽霊が再び出現したと言い、シャラドと協力して幽霊を倒すことにする。 シャラドは幽霊をおびき出そうとするが、幽霊は真実を語り出す。実はその幽霊は4年前に殺されたサヴィターだった。しかも、サヴィターと彼女の夫ハリヤーを殺すように仕向けたのは呪術師であった。さらに、サヴィターを助けようとしたバーブーラール(シャイレーンドラ・ドイヴェーディー)とその妻を殺し、幽霊に殺されたと見せ掛けたのも呪術師であった。バーブーラールとその妻はシャラドの両親だった。 それを聞いたシャラドは呪術師に殴りかかる。サヴィターの幽霊は、自分たちの遺灰をガンガー河に流して欲しいと頼む。シャラドはその願いを聞き入れる。
50分ほどの映画であり、稚拙な点も散見されるが、何とか鑑賞に耐えられるレベルの出来にはなっていた。ホラー映画ということで、ホラーシーンの完成度も注目される。インドのホラー映画にありがちだが、この「Jantar」についても、CGと音響で無理矢理怖がらせているだけだ。それでも、幽霊が完全な敵ではなく、最終的には共感を呼び主人公と同じ側に立つことになるという点で、インドのホラー映画の良い面も受け継いでいると感じた。とてもピュアなホラー映画であった。
かつて、マハーラーシュトラ州マーレーガーオンはB級映画の宝庫として知られていた。「Superman of Malegaon」(2012年)というドキュメンタリー映画にその様子が収められている。当時はカメラなどの機材が高価で、編集にも特別なスキルが必要だったが、現在は撮影機材も安価になり、デジタル編集が普及したことで、ポストプロダクションのコストも大幅に抑えられるようになった。しかも、OTTプラットフォームでの映画リリースという道が新たに出現し、作っただけで終わることなく、世間に公表することまで可能になった。その結果、インド各地の中小都市で、ごくごくローカルな映画を作る動きがより盛んになっているように感じる。いわば、インドのあちこちに第二、第三のマーレーガーオンが生まれつつある。レーワーで作られたこの「Jantar」もその好例である。
ムンバイーなどの伝統的な映画製作拠点で作られる大予算型の映画に比べたらあらゆる面でスケールが小さいものの、インドにおいて、映画製作人口の裾野がどんどん広がっているといえる。映画好きなインド人のこと、誰もが人生で一度は映画を作ってみたい、映画で演技をしてみたいという願望を持っていると思われる。そんな切な願いが今、叶う時代になっているのである。
「Jantar」は、あくまで低予算の稚拙なホラー映画だ。そこに一定以上の娯楽性、社会的メッセージ、あるいは先進性などを見出すことはできない。しかしながら、この映画が作られた背景をきちんと理解して観ることで、違った見え方がしてくる。