Saregama Carvaan

 少し前から気になっていた製品がSaregama社の「Carvaan」である。Saregama社はインド最古のミュージック・レーベルで、「Yoodlee Films」というブランド名で映画製作も行っている。同社が2017年に発売したのが「Carvaan」という製品だ。

Saregama Carvaan
Saregama Carvaan

 「Carvaan」の外観は昔懐かしいラジオやカセットプレーヤーの形をしている。中には、Saregama社が版権を持つ5,000以上のヒンディー語映画音楽が内蔵されており、これらの曲を半自動で再生することができる。基本的な機能はそれだけだ。だが、それがいい。

 2022年末から2023年初めにかけてインドを旅行した際に入手し、日本に持ち帰った。Carvaanにはいくつか種類があり、WiFiを搭載しネットラジオを聴くことができる上位版「Carvaan 2.0」、小型の廉価版「Carvaan Mini」や「Carvaan Go」、そしてカラオケ版「Carvaan Karaoke」なども発売されているが、手に入れたのは初代の通常版「Carvaan」である。また、「Carvaan」にはヒンディー語版のみならず、タミル語版、テルグ語版、ベンガル語版、マラーティー語版も用意されているが、ヒンディー語版のみを購入した。

 インドの機器を日本で使うにあたり電源が心配だが、「Carvaan」にはバッテリーが内蔵されており、Micro USB Type B (2.0)で充電するため、日本でもUSBケーブルを通して難なく充電ができる。

 電源を入れるとすぐに音楽が再生される。ランダムで再生されるが、「アーティスト」「ムード」「ギートマーラー」の3モードを選ぶことができ、再生される曲をある程度操作することが可能になっている。

 「アーティスト」モードには、ラター・マンゲーシュカル、キショール・クマール、アーシャー・ボースレー、ムハンマド・ラフィー、ムケーシュ、ヘーマント・クマール/ギーター・ダット、マンナー・デー、ジャグジート・スィン、タラト・メヘムード、SDブルマン、RDブルマン、ラクシュミーカーント・ピャーレーラール、カリヤーンジー・アーナンドジー、ナウシャード、シャンカル・ジャイキシャン、OPナイヤル、グルザール、マダン・モーハン、カイフィー・アーズミー/ジャーヴェード・アクタル、サーヒル・ルディヤーンヴィー、アーナド・バクシー、マジローフ・スルターンプリーなどがある。歌手、作曲家、作詞家などがごちゃ混ぜになっているが、自分の好みの曲を抽出することが可能だ。

 「ムード」モードはもっと大まかな操作になり、ロマンス、サド、ハッピー、ガザル、シャクティ、スピリチュアル、フィルム・インストルメンタル、スーフィー、ヒンドゥスターニー・クラシックから選ぶことができる。

 「ギートマーラー」とは、アミーン・サヤーニーがホストを務めるヒンディー語映画音楽専門ラジオ番組のことだ。1952年から1988年までスリランカのラジオ・セイロンで放映されたラジオ番組「Binaca Geetmala」が元になっており、その後インドのオール・インディア・ラジオ(AIR)に移り続けられた。この番組はインドを含むインド亜大陸全土で大人気となり、ヒンディー語映画音楽の普及に多大な貢献をした。

 スリランカのラジオがヒンディー語の映画音楽を流し、それがインドで大人気になるというのは不思議に思えるが、その裏には当時のインド政府の政策が関係していた。当時インドにもAIRという国営ラジオ局があったが、情報放送大臣のBVケースカルがインド音楽と西洋音楽をごちゃ混ぜにした映画音楽を「低俗」と考え毛嫌いしていたため、インドのラジオから映画音楽が消えてしまった。その代わり、スリランカのラジオ・セイロンが毎週ヒンディー語映画音楽を特集した「Binaca Geetmala」を放映し始め、それがインド人視聴者の心を掴んだというわけだ。

 「Carvaan」にはAIR時代のアミーン・サヤーニーのMC入り「ギートマーラー」音声素材が収録されており、それを「ギートマーラー」モードで聴くことができる。タイムスリップして当時の時代の雰囲気を感じることができる非常に貴重な素材だ。

 ヒンディー語映画ファンが上記のアーティスト一覧を見れば容易に想像できるだろうが、「Carvaan」に収録されているのはいわゆる「エバーグリーン」と呼ばれる昔の楽曲だ。全てを聴いてみないと分からないが、おそらく独立後から1980年代くらいまでの楽曲が収められていると思われる。よって、最近のヒンディー語映画音楽を聴きたい人には向かない製品だが、インドの高齢者層にはドンピシャの製品だ。

 日本円にすると1万円前後の買い物になるが、インド好きな人のための新たなインド土産として非常にオススメである。最近、CDやDVDなど音楽関係のアイテムを購入できる実店舗が激減してしまったのだが、デリーならば、コンノートプレイスのPVRプラザ前にあるRadio & Gramophone Houseで売られているのを見つけた。