「Birha(別離)」は、2022年から23年にかけてニューヨーク・インド映画祭、ロサンゼルス映画祭、オタワ・インド映画祭などで受賞したパンジャービー語の短編映画である。プレミア上映がいつ行われたのかいまいち正確な情報がないのだが、2022年8月にハリウッド短編映画祭で外国語短編映画賞を受賞したニュースが初出になる。
監督はプニート・プラカーシュ。「Sankat City」(2009年)で助監督を務めたことがあり、過去に何本か短編映画も撮っている。キャストはラジト・カプール、マーナヴ・ヴィジ、スィーマー・カウシャル、サーヒル・メヘターなどである。
パンジャーブ州の田舎町。閑散とした自宅にインダル(マーナヴ・ヴィジ)が帰ってくる。若い頃、インダル(サーヒル・メヘター)は母親(スィーマー・カウシャル)から金を盗んでカナダに渡った。それ以来、20年振りに自宅に戻ってきたのだった。既に母親は亡く、年老いた父親(ラジト・カプール)が一人で暮らしていた。父親はインダルを許そうとしないが、泣いて詫びる息子を見て、とりあえず今日は寝るように言う。 翌朝、父親が目を覚ますと、警察官が来て手紙を置いていった。それはインダルの訃報だった。カナダで交通事故に遭って死んだとのことだった。昨晩彼が見たインダルは幽霊だったのだ。
母親から金を盗んでカナダに渡り、以来故郷に戻らなかったインダルは、そのまま異国の地で交通事故に遭って命を落とした。だが、インダルが両親のことを思わなかった日はなく、若い頃にしでかしてしまった行為をずっと悔いていた。その後悔の念が、死んだ後に幽霊となって故郷に現れ、父親の前で泣き崩れる。種明かしをすればそのような物語だった。
当初はインダルの視点から映像が映し出されるので、彼が幽霊だと観客は気付かない。インダルは、父親が自分の作ったチャーイを好んで飲んでいたことを思い出す。家に帰ってきた父親は当初インダルを拒絶するが、彼が出て行く前にチャーイを作りたいと言うと、「チャーイを作るために遠くから来たのか」と愚痴りながらもそれを許す。父親は、インダルが失踪してからチャーイを飲むのを止めていた。それだけあって、20年振りに飲んだ息子特製のチャーイを口にし、その味に感動する。
インダルの深い後悔や望郷の念、そしてチャーイを通して結び付く父子の様子が、彼らの人生の中でもっとも重要な瞬間を切り取ることで、静かに、だが力強く描出されていた。幽霊が出て来ることで非現実的ではあるのだが、じっくり描かれているために、非現実性は感じない。優れた短編映画である証拠だ。
当然のことながら、ラジト・カプールやマーナヴ・ヴィジといったベテラン俳優たちの迫真の演技もこの映画に深い感動をもたらしている。若い頃のインダルを演じたサーヒル・メヘターは現在売り出し中の男優である。
パンジャービー語映画というと脳天気なイメージがあるのだが、短編映画「Birha」は、ベンガル語映画などに通じる叙情的な作りをしており、短いながらも深い感動を味わえる作品だ。