Filmsaagar一周年

 2021年7月にこの「Filmsaagar」をグランドオープンして以来、1年が過ぎた。この1年間で400本以上の映画評を書き、インド映画の理解に役立つような記事も掲載してきた。

 また、ちょうど1年前、「これでインディア」時代から数えてちょうど1,000本目の映画評を書き上げた。1,000本の映画評を書くために20年掛かったため、そのときは、2,000本目の映画評までまだ膨大な時間が掛かると考えていた。しかし、意外に早く2,000本も達成できそうである。

 別に映画評論が本業でもないのにこれだけ超人的なペースで映画評を書けているのは、ほぼ毎日インド映画を観て映画評を書いているからであるが、もうひとつ大きな理由がある。それは、インターネット上で膨大な数のインド映画が定額で配信されており、それを好きなときに鑑賞できるようになったことだ。

 もしこれだけの数の映画を映画館で観ていたら、もしくはDVDやBlu-rayなどの媒体で観ていたら、とてつもない金額になっただろうし、毎日観ることも不可能だっただろう。

 また、観る映画の幅が広がったのも、このOTT(ネット配信)時代の恩恵である。

 基本的にヒンディー語映画しか観てこなかったため、他言語の映画には疎かった。それは興味がなかったというよりも、自分の強み、つまりヒンディー語の語学力を活かせないからである。

 だが、定額でインド映画を鑑賞できるようになり、金銭的なリスクが解消されたことで、ヒンディー語映画以外の映画を観てみようという気持ちになった。最近好調の南インド映画では、ヒンディー語吹替版がますます盛んに作られるようになっているため、ヒンディー語の語学力でもって南インド映画を鑑賞できるようになっていることも追い風であった。

 考えてみれば、これが正にインド本土のヒンディー語圏で起こっていることである。今までヒンディー語映画しか観てこなかった観客が、OTTプラットフォームのユーザーになることで、南インド映画を容易に味見できるようになった。そして、意外にそれが面白いことに気付き、南インド映画にはまる人が急増しているのである。

 個人的にありがたいのは、OTTプラットフォームのおかげで細かい良作に触れることができるようになったことだ。OTT時代到来前、インド本国で大ヒットした映画のDVDは比較的入手しやすかったのだが、地味な作品はDVD化もされず、映画館で見逃したらそのまま鑑賞する機会を失ってしまうということが結構あった。日本に住んでいたら尚更そのような作品に触れられなくなってしまう。

 だが、小規模な作品はOTTプラットフォームと相性が良く、興行的には大した成績を上げられなかったものの光るものがある作品を観るチャンスが格段に増えた。映画産業には一定の潮流があり、その流れを形成するのは大ヒット映画や大予算型映画のみではない。フロップはフロップなりに時代に影響を与えるし、各俳優の大事な成長も小さな作品に隠されていることが多い。そのような細かい作品に最大限触れるのは、時代の流れを感じ取る上でとても重要なことだ。

 その一方で、とんでもない底なし沼にはまってしまったとも感じている。「Filmsaagar」を立ち上げたとき、とりあえずOTTプラットフォームで配信されているインド映画は全て観てレビューを書こうと考えていたのだが、すぐに、そこにはあまりに膨大な数の作品があることに気付いた。ヒンディー語映画ですらまだ見切れていないが、最近は何となくゴールが見え始めた気がする。しかし、ドラマはほとんど手つかずの状態だし、他言語のインド映画にはまだまだ足を踏み入れたばかりだ。さらに、次々に新作が公開されるので、ゴールはどんどん遠ざかっていく。

 奇しくもこのサイトの題名は「映画の海」を意味する。はまったのは底なし沼どころではなく、確かに海である。インド留学時代に見つけた生き甲斐に、こうしてインドから遠く離れた日本にいながらも再びどっぶりと浸かることができるのは、何だかんだ言ってやはりこの上ない幸せだ。そんな幸せを噛み締めてきた1年間だった。今後も可能な限り積極的に更新していきたい。