Rashtra Kavach Om

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Rashtra Kavach Om

 2022年7月1日公開の「Rashtra Kavach Om」は、アーディティヤ・ロイ・カプール主演のアクション映画である。アーディティヤ・ロイ・カプールといえば、「Aashiqui 2」(2013年)などのロマンス映画で知られた俳優である。今回、彼は初めて本格的なアクション映画で主演を務めており、その点がもっとも話題になっている。

 監督はカピル・ヴァルマー。過去20年間にわたって「ステディカム・オペレーター」を務めてきた撮影のプロであるが、長編映画の撮影は今回が初である。主演は前述の通りアーディティヤ・ロイ・カプール。ヒロインは「Dil Bechara」(2020年)のサンジャナー・サーンギーである。他に、ジャッキー・シュロフ、プラーチー・シャー・パーンディヤー、プラカーシュ・ラージ、アーシュトーシュ・ラーナーなどが出演している。また、イラン系ドイツ人女優エルナーズ・ノロウズィーがアイテムナンバー「Kala Sha Kala」でアイテムガール出演している。

 題名を直訳すると「国の鎧オーム」になる。劇中では、核兵器を無効化する防衛システムのことを「ラーシュトラ・カヴァチ(国の鎧)」と呼んでおり、「オーム」は主人公の名前である。

 インド人科学者デーヴ・ラートール(ジャッキー・シュロフ)が開発した「ラーシュトラ・カヴァチ」を取り戻すため、プロジェクトチームのリーダーであるムールティ(プラカーシュ・ラージ)の承認の下、軍人ジャイ・ラートール(アーシュトーシュ・ラーナー)は息子のオーム(アーディティヤ・ロイ・カプール)を太平洋上の目標地点に送り込む。だが、オームは頭に銃弾を受け、海に沈む。

 数ヶ月後、オームは山間の小屋で目を覚ます。この間、プロジェクトチームの一人カーヴィヤー(サンジャナー・サーンギー)が看病していた。目を覚ましたオームは記憶を失っており、自分のことをリシと名乗る。小屋は襲撃を受け、二人は逃げ出すが、フラッシュバックしてくる映像を手掛かりにヒマーチャル・プラデーシュ州カサウリーへ行き、そこでオームは焼け焦げたかつての自宅を見つける。

 チームの本拠地に戻ったカーヴィヤーはジャイからオームの真実を告げられる。実は、オームの本当の名前はリシであり、ジャイの兄デーヴの息子だった。ある日、デーヴは誘拐され、ジャイがリシを引き取った。ジャイの家が何者かに襲撃を受けたとき、ジャイの実子オームが死に、リシは生き残った。ジャイはリシを救うため、オームが生き残ったことにし、以後、オームとして育ててきたのだった。オームは父親と同じく軍人になり、ラーシュトラ・カヴァチを取り戻す作戦に従事することになった。政府は、デーヴを誘拐されたのではなく、私利私欲のためにラーシュトラ・カヴァチの技術を持ち逃げした裏切り者だと考えていたが、ジャイは兄のことを信じていた。

 ジャイから口止めされていたものの、カーヴィヤーはオームにその真相を話す。だが、その後すぐジャイは何者かに殺されてしまう。ジャイが残した手掛かりを元に、オーム、カーヴィヤー、そしてコンピューター専門家のローヒトと共にアルメニアに渡る。オームはそこでデーヴと再会する。デーヴは、脅されてラーシュトラ・カヴァチを開発していただけで、本当の裏切り者はムールティであることを明かす。そこでオームたちは、デーヴをアルメニアにおびき出して捕まえる作戦を立てる。オームの活躍によってムールティ逮捕に成功するが、デーヴは彼を無慈悲に殺してしまう。そしてオームをも撃つ。やはりデーヴは裏切り者であった。だが、それを事前に察知していたオームはデーヴを殺す。

 ストーリーに論理性がない上にストーリーテーリングが下手なため、観ている内に登場人物たちが何をしているのか分からなくなってくる。これでアクションシーンの出来が良ければ救いようがあったが、近年のアクション映画と比べれば地味な部類に入ってしまい、ほとんど見所のない映画で終わってしまっていた。

 最大の敗因は悪役が二転三転するところである。主人公オームは、実の父親である科学者デーヴが裏切り者なのかどうか迷いながらも、彼と共に国外のバイヤーに流出する寸前の重要兵器ラーシュトラ・カヴァチを取り戻そうと追跡する。中盤では、デーヴが悪役として確立したかに見えるが、オームと再会した後、デーヴはやはり善玉だったということになり、黒幕としてプロジェクトを率いていたムールティが浮上する。しかし、ラストのラストでやはりデーヴが真の悪役だったことが発覚するという目まぐるしい展開だった。

 この行ったり来たりが丁寧に描写されていれば欠点にはならなかったかもしれないが、残念ながら「Rashtra Kavach Om」ではそれがもっとも欠けていた。また、デーヴとオームが実の父子という点も、この二転三転のまずさに影響していた。インド映画の基本的な価値観では、家族は何よりも最優先される。だが、「Rashtra Kavach Om」では、デーヴが容赦なく実の息子オームを撃ち、オームは容赦なくデーヴを殺す。デーヴはラーシュトラ・カヴァチの開発を家族よりも優先した一方、オームは「血よりも国」の教えを守って国賊者の父親を撃ち殺したのである。そのため、後味の悪さが残る映画になっていた。

 ラーシュトラ・カヴァチという兵器にしても、一体どういう仕組みで核兵器を無効化できるのか、説明されることはなかった。ただ、デーヴの生体認証によって起動するということだけが分かっていた。大きさもブリーフケースひとつに収まるぐらいであり、これがどうやって核ミサイルを止められるのか、全く不明である。子供が考えたような幼稚な設定であった。

 また、おそらくこの映画最大のツイストとしては、オームは実は記憶喪失ではなく、記憶喪失の振りをしていたという点にあるだろう。オームはラーシュトラ・カヴァチと裏切り者に辿り着くために演技をしていたのだ。だが、その点も最後に一瞬だけ示されるだけで、きちんと説明されていなかった。

 アーディティヤ・ロイ・カプールは初のアクション映画主演ということで、きちんと体作りもしており、気合十分でこの映画に臨んでいた。ただ、脚本のまずさがその努力を台無しにしていた。ヒロインのサンジャナー・サーンギーもマーシャルアーツの訓練を受けたのだろう、華麗な身のこなしを披露するシーンもあったが、中盤以降はほとんど存在感が消えていた。

 どちらかといえば、ジャッキー・シュロフ、アーシュトーシュ・ラーナー、プラカーシュ・ラージといったベテラン俳優陣に支えられていた映画であった。

 「Rashtra Kavach Om」は、ロマンス映画の常連というイメージが強いアーディティヤ・ロイ・カプールが、そのイメージを覆すべく挑戦した初のアクション映画である。しかしながら、監督や脚本家の力不足により、散らかったストーリーになっており、肝心のアクションシーンにも魅力がなかった。興行的にも失敗に終わっている。わざわざ観る必要のある映画ではない。