「Coming Out With The Help Of A Time Machine」は、2021年10月16日に米シアトルのタスヴィール南アジア映画祭でプレミア上映された短編映画だ。低予算で作られてはいるが、SFとLGBTQを組み合わせコメディーでまとめたアイデア勝負の作品になっている。
監督はナマン・グプター。過去に何本か短編映画を撮っているが、知名度のある監督ではない。キャストはカラン・ソーニー、サンギーター・アガルワール、ラグラーム・シェッティーなど。カランはマーベルの「デッドプール」(2016年)や「名探偵ピカチュウ」(2019年)などに出演していた俳優だ。彼らはインド系だが、主に米国で活躍しており、インド映画には出演していない。
ある晩、スィド(カラン・ソーニー)はカフェに両親(サンギーター・アガルワールとラグラーム・シェッティー)を呼び寄せる。彼は両親にゲイであることをカミングアウトしようとしていた。スィドは時間を巻き戻せる腕時計を持っており、うまくいかないとリセットボタンを押してやり直していた。何度目かの挑戦でスィドは両親の理解を得ることに成功するが、父親が誤ってリセットボタンを押してしまう。
題名が示唆するように、この映画にはタイムマシンが登場する。主人公スィドの左手首に巻かれた腕時計であり、これは時間を巻き戻す機能を持っていた。なぜスィドがそのような代物を持っていたのかは一切説明されていないが、スィドが両親から溺愛された聡明な子供だったことを考えると、彼が自分で発明したのだろうことが想像される。
スィドはそのタイムマシンをカミングアウトに使おうとしていた。舞台は米国のようだったが、両親は保守的なインド人である。一人息子が同性愛者だと知ろうものなら普通は拒絶反応を示す。スィドは好ましくない展開になるとタイムマシンのリセットボタンを押し、時間を巻き戻して、最適な結果になるように何度もやり直す。
この過程は、同性愛者がカミングアウトすることにどれだけの勇気を要するのかを示している。タイムマシンを発明するよりカミングアウトする方が簡単だと考えてしまうのだが、同性愛者からすれば全く逆なのかもしれない。しかもスィドのように保守的な両親を持ち、しかも彼らが自分のためにどれだけ自己犠牲を払ってきたのかを知っていると、尚更である。ちなみに、スィドを演じたカラン・ソーニーはゲイとのことである。
もっとも激しい拒否反応を示したのは母親だった。彼女は息子を医者に診せようとする。何度目かのトライでようやくそんな母親にも理解してもらえる展開になり、スィドは母親と抱き合う。ところが父親がタイムマシンのリセットボタンを押してしまったために、また一からやり直さなければならなくなるというオチである。
20分ほどの短編映画であり、しかもほとんど予算を掛けて作っていない。しかしながら、多くの要素を詰め込むことに成功しており、最後にちょっとしたどんでん返しも用意している。アイデアの勝利である。
「Coming Out With The Help Of A Time Machine」は、優れたアイデアさえあれば、どんなに予算が限られていても、どんなに上映時間が短くても、面白い映画を作ることができると証明する作品である。