Hello Charlie

4.0
Hello Charlie
「Hello Charlie」

 2021年4月9日からAmazon Prime Videoで配信開始された「Hello Charlie」は、多額の借金を背負った大富豪がゴリラの着ぐるみをかぶってインドから逃げようとするというドタバタのコメディー映画である。

 監督はパンカジ・サーラスワト。TVドラマなどの監督で、今回初めて映画を撮る。プロデューサーはリテーシュ・スィドワーニーとファルハーン・アクタル。ストーリーは、「Sankat City」(2009年)などの監督で、将来を嘱望されながら2010年に急逝したパンカジ・アードヴァーニーのようである。

 キャストの顔ぶれはかなり個性的だ。ジャッキー・シュロフに加え、ラージ・カプールの孫アーダル・ジャイン、新人のシュローカー・パンディト、イラン人女優エルナーズ・ノーローズィー、コメディアン俳優ラージパール・ヤーダヴなど、統一感のないメンバーが揃っている。さらに、ギリーシュ・クルカルニー、スィッダールト・カプール、バラト・ガネーシュプレー、ダルシャン・ジャリーワーラーなどが出演している。

 MDマクワーナー(ジャッキー・シュロフ)はムンバイー在住の著名な実業家であったが、事業に失敗し、銀行から受けた巨額の融資の返済ができず、インドを逃げ出そうとしていた。マクワーナーの首には150万ルピーの懸賞金が掛けられていた。マクワーナーは愛人のモナ(エルナーズ・ノーローズィー)に助けを求める。モナは、マクワーナーにゴリラの着ぐるみを着せ、港町ディーウから海路で逃亡する手はずを整える。ゴリラとなったマクワーナーは「トートー」というニックネームを付けられた。

 インダウルからムンバイーに、父親の借金を返すための出稼ぎにやってきたチャーリー(アーダル・ジャイン)は、叔父カルサン・パテール(ダルシャン・ジャリーワーラー)の家に滞在する。カルサンはトラックを購入したばかりだった。チャーリーはカルサンの留守中にモナから勝手に仕事を引き受け、トートーをトラックに乗せてディーウに運ぶことになる。モナは単独でディーウに向かった。

 ムンバイーからディーウに向かう途中のダーバー(食堂)で、ダイヤモンド・サーカスのオーナー、プリエーシュ・パテール(ギリーシュ・クルカルニー)にトラックごとトートーを奪われてしまう。チャーリーはサーカスに忍び込み、花形ダンサーのパドマー(シュローカー・パンディト)を連れてトートーと共に脱出する。

 途中、悪路のためにトートーが頭を打って気絶してしまう。チャーリーはトートーを獣医のガナートラー(バラト・ガネーシュプレー)に診せる。回復を待っている間、チャーリーはパドマーを家まで送って行くが、トートーは逃げ出してしまう。ちょうど同じ頃、ウガンダからインドに向かっていた飛行機が森林に墜落し、運ばれていたゴリラが脱走する。トートーとゴリラはいつの間にか入れ替わってしまう。

 モナと合流したチャーリーは本物のゴリラの方を見つけ出し、ディーウの待ち合わせ場所まで連れて行く。そこにはトートーも来ており、鉢合わせする。我慢しきれなくなったマクワーナーは着ぐるみを脱ぎ捨てて正体を現す。駆けつけた警察官ジャイデーヴ警部補(スィッダールト・カプール)はモナの兄で、グルだった。そこにはカルサンも駆けつけ、騒然とするが、マクラーナーとモナは混乱を抜け出し、ボートに乗って逃げようとする。だが、結局逃げ切れなかった。

 マクワーナーを発見した功績によりチャーリーは150万ルピーの懸賞金を受け取る。

 ゴリラが登場する映画ということで子供向け映画かと思ったが、大人から子供まで楽しめる優れたコメディー映画だった。ストーリー原案のパンカジ・アードヴァーニーは時代を先取ったスリラー映画を撮っていた人物で、ヒンディー語スリラー映画の発展に多大な寄与をした人物である。生前の彼はコメディー映画を撮っていないと思うが、作ろうと思えば一級品のコメディー映画も作れたであろうことが、この「Hello Charlie」からうかがわれる。

 笑いの中心は何といってもゴリラである。UBグループの元会長で、事業に失敗して英国に亡命したヴィジャイ・マッリヤーを思わせる大富豪、MDマクワーナーをジャッキー・シュロフが演じるのだが、彼が生身の姿で登場するのはわずかで、大半のシーンではゴリラの着ぐるみをかぶっている。果たして中身までジャッキー・シュロフが演じていたのかは分からないが、身振り手振りをしたり踊ったりと、かなり忙しく立ち回っていた。しかも、着ぐるみのゴリラだけではなく、本物のゴリラも登場してしまうところから、さらに笑いに拍車が掛かっていた。

 ゴリラを巡る数々のギャグをさらに加速させるため、アーダル・ジャイン演じるチャーリーも相当な天然ボケのキャラに設定していた。彼の行くところ行くところトラブルが起こるトラブルメーカーでもあった。彼の運転するトラックに輸送されることになり、ゴリラの着ぐるみをかぶったマクワーナーにはいくつもの災厄が降りかかる。

 それ以外にも、ダイヤモンド・サーカスの悪徳オーナー、ヤブ獣医、変人レンジャーなど、個性的なキャラが登場する。また、チャーリーは途中で出会ったダンサーのパドマーと恋に落ちるオマケ付きだ。

 MDマクワーナーは前述の通り、ヴィジャイ・マッリヤーがモデルになっているのは確実なのだが、彼の逃亡劇については、カルロス・ゴーン元会長が日本からレバノンに逃げた出来事にも通じるものがある。ゴーン元会長は音響機器用の箱の中に隠れて税関をくぐり抜け、プライベートジェットで高飛びしたとされている。

 グジャラート州カーティヤーワル半島の先っぽに位置する港町ディーウが出て来たのは珍しかった。ディーウは元々ポルトガル領であり、グジャラート州とは別の、ダードラー& ナガル・ハヴェーリーとディーウ&ダマンという連邦直轄地に組み込まれている。禁酒州のグジャラート州に囲まれた飛び地にあって酒を安く飲める場所ということで、酒飲みのグジャラート人には重宝されている。

 「Hello Charlie」は、一見すると子供向け映画に見えるが、鬼才パンカジ・アードヴァーニー監督の遺したストーリー構想は奇想天外ながら面白く、抱腹絶倒のコメディー映画に仕上がっている。新人監督が新人俳優を起用して作ったフレッシュな映画でもあった。観て損はない。