
2020年2月7日公開のテルグ語映画「Jaanu」は、大ヒットしたタミル語映画「’96」(2018年)のテルグ語リメイクである。「’96」でデビューしたCプレーム・クマール監督が別キャストながら自ら「Jaanu」を撮っているため、セルフリメイク作品になる。
主演はシャルワーナンドとサマンサ・ルース・プラブ。音楽はゴーヴィンド・ヴァサンタ。他に、シャランニャ・プラディープ、サーイー・キラン・クマール、ガウリー・G・キシャン、ハスィーニー・アンヴィー、ヴェンネラ・キショール、ラグ・バーブー、ヴァルシャー・ボッランマー、タニケッラ・バラニなどが出演している。
Kラーマチャンドラ、愛称ラーム(シャルワーナンド)は旅行写真家であり、ハイダラーバードを拠点に写真を教えていた。あるときラームは故郷ヴィシャーカパトナム(ヴァイザーグ)を訪れ、母校に立ち寄る。それがきっかけで10年生のときの仲間たちと連絡を取り、2ヶ月後にハイダラーバードで同窓会を行うことになった。
同窓会の日、ラームは学生時代から恋い焦がれてきたジャーナキー・デーヴィー、愛称ジャーヌ(サマンサ・ルース・プラブ)と再会する。ラームは何度もジャーヌに告白しようとしたが、極度の恥ずかしがり屋だったために勇気が出なかった。だが、ジャーヌはラームの気持ちに気付いており、彼女もラームのことが好きだった。11年生の進級時にラームの家族は突然ハイダラーバードに引っ越すことになり、ラームはジャーヌにお別れも告げられずにヴィシャーカパトナムを去ったのだった。一方、ジャーヌは既に結婚しており、夫と娘と共にシンガポールに住んでいた。今回、同窓会に出席するためにわざわざハイダラーバードに来ていた。
同窓会が終わり、ラームはジャーヌをホテルまで送ることになった。いったんはホテルに着いたものの、ジャーヌはラームを連れて夜の街へドライブに出掛ける。彼女はラームを床屋に連れていき、彼の髭を剃らせる。ジャーヌはラームが未婚であることを知り、また、その理由が彼女への愛だったことにも気付く。さらに、ジャーヌは、彼女が大学2年生の頃にラームが彼女に会いに大学まで来ていたことを知り、ショックを受ける。彼女は勘違いから彼の訪問に気付かなかった。それを聞いたジャーヌはホテルの部屋で泣きじゃくる。
ラームはジャーヌを部屋まで追いかけてきていた。ラームとジャーヌはさまざまなことを話す。そして、再び散歩に出掛ける。立ち寄った喫茶店でラームは教え子と出くわしてしまう。学生たちはジャーヌをラームの妻だと勘違いし、ジャーヌもそれに合わせる。ジャーヌが語るなれ初めの話は、もし大学2年生の頃に彼女に会いに来たラームに会っていたらというものだった。
ラームはジャーヌを自宅に連れて行く。そこで思い出の品を見せる。やがて出発の時間が来て、ラームはジャーヌをホテルまで送り、そしてそこから空港まで送る。もう少し一緒にいたいというジャーヌの要望に応え、ラームはチケットを買い、空港に入る。そして、彼女を見送る。
学生時代から始まり、17年間の空白期間を挟み、30代になって同窓会をきっかけに再会した男女の、20年以上に及ぶ長い時間を掛けて熟成されるスローペースの純愛物語である。
ラームはジャーヌに恋い焦がれ、引っ越しや勘違いによる失恋などを経ながらもずっとその恋心を大事に保ち続け、結婚をしなかった。一方、ジャーヌはずっとラームを待ちながらも家族の圧力によって別の男性と結婚し、シンガポールに住んでいた。この二人が同窓会で再会する。
下手をすると同窓会不倫の物語になってしまいそうだったが、Cプレーム・クマール監督は二人の微妙な心情を上品に描写し、ギリギリのところで一線を越えないように配慮した。結局、二人が結ばれることはないため、少し不完全燃焼なトーンで映画は終わるが、道徳的にはこれで正しかった。
「Jaanu」の強みでもあり弱みでもあるのはテンポのスローさである。同窓会が始まってからジャーヌがハイダラーバードを去るまでの時間を、ラームとジャーヌの心情描写を中心に、異常なほどゆっくりと丁寧に描く。おかげでラームとジャーヌのお互いに求め合う気持ちが高まっていくのを映像によって感じ取ることができる。だが、あまりにゆっくり過ぎる上に、同窓会が終わってからいろいろなことが起こりすぎるため、ストレスも感じてくる。ラームがジャーヌを最初にホテルに送るまでで切り上げていても十分に成立した純愛物語だ。長ければいいというものでもない。
いくつか素朴な疑問を感じた点もあった。ひとつは、10年生で引っ越したラームを、学校の警備員やクラスメイトたちがよく覚えていてくれたということだ。ラームは、学年の変わり目で誰にも別れを告げず突然転校してしまった謎の人物だ。普通ならばそういう人は同窓会に呼びにくいし来にくいものなのではなかろうか。また、ヴィシャーカパトナム時代にラームの親友だったムラリーなどとはWhatsAppでつながっていたようで、そうであるならばもっと早くラームとジャーヌの再会をアレンジできたのではないかとも思う。もうひとつ疑問に感じたのは、ラームがジャーヌの結婚を知っていたということだ。ラームはハイダラーバードに転校した後もジャーヌの情報を何らかの形で入手していた。つまり、ラームはジャーヌのことを逐一知っていた。彼女の結婚式にまで来ていた。それなのに彼は何もできなかった。本当の人生の転機はそこにあったはずだ。ロマンス映画のヒーローとしては失格である。同窓会でジャーヌと再会して、初めて彼女の結婚を知ったような顔をしていたが、その反応は嘘だったのだろうか。今さら何を嘆く必要があるのだろうか。
ジャーヌの結婚生活についてほとんど情報がなかった。彼女は自分の結婚生活について、「幸せというよりは平和」と答えていた。彼女もラームのことを結婚後も忘れられなかったが、シンガポールという新天地での生活やアレンジド・マリッジによって結婚した夫との生活に慣れようと努力し、実際に慣れたものだと思われる。だが、ラームとの別れ際に感情に流される場面もあり、彼女の本心や結婚生活の実態は分からなかった。夫が登場することはなく、娘も写真のみだった。ジャーヌの視点で物語を見返すと、あまり現実感のないストーリーになるように感じる。あくまでラームの視点から描かれた物語だといえるだろう。
「Jaanu」は、Cプレーム・クマール監督が自身のタミル語映画「’96」を忠実にリメイクしたテルグ語映画である。「’96」を既に観ている人にとっては目新しいものはほとんどない。同窓会がきっかけに再会した男女の、追憶が混じった上品かつスローテンポな恋愛物語であり、心情描写が優れている。こういうインド映画もあっていいのではないだろうか。