The Body

3.5
The Body
「The Body」

 2019年12月13日公開の「The Body」は、スペインの同名映画(2012年)のリメイクである。日本では劇場公開されていないが、BDは販売されており、その際の邦題は「ロスト・ボディ」であった。死体安置所から遺体がなくなるという出来事から始まるスリラー映画である。

 監督はマラヤーラム語の傑作スリラー映画「Drishyam」(2013年)を撮ったジートゥー・ジョセフ。主演はリシ・カプール、イムラーン・ハーシュミー、そしてショービター・ドゥーリパーラーである。他に、ヴェーディカー、アーリフ・ザカーリヤー、ルクサール・レヘマーン、アヌパム・バッターチャーリヤなどが出演している。また、ナターシャ・スタンコビッチとスカーレット・メリッシュ・ウィルソンがアイテムソング「Jhalak Dikhla Jaa Reloaded」にアイテムガール出演している。ただし、この曲は本編では使われていない。

 モーリシャスの首都ポート・ルイスに住むインド系実業家マーヤー・ヴァルマー(ショービター・ドゥーリパーラー)が心臓発作で急死した。マーヤーの遺体は検死のためにラボに送られたが、そこの死体安置所から遺体が消えてしまった。警備員はマーヤーの遺体がエレベーターに乗るのを目撃した。ジャイラージ・ラーワル警視(リシ・カプール)はラボに駆けつけ、事件の捜査を始める。

 マーヤーの夫アジャイ・プリー(イムラーン・ハーシュミー)は愛人リトゥ・ジャー(ヴェーディカー)の家にいたが、警察から連絡を受け、ラボに直行する。ジャイラージ警視はアジャイを疑い、彼にあれこれ質問をする。アジャイは次第に怒りと焦りを募らせていく。

 実はアジャイはリトゥと共謀してマーヤーに毒を盛って殺害したのだった。その毒はTH-16という劇薬で、摂取から8時間後に心臓発作と似た症状により死亡する効果があった。ジャイラージによってラボにとどめおかれている間にアジャイは異常な体験をするようになり、まだマーヤーは生きているのではないかと疑うようになる。そうなると、リトゥの命も危なかった。アジャイはリトゥに連絡するが、彼女の身に何かが起こったことが分かる。アジャイは彼女を助けに行こうとするが、警察に制止される。

 翌朝、女性の遺体が見つかった。アジャイはジャイラージ警視に連れられて現場に検証に行く。彼が確認したところ、その遺体はマーヤーであった。しかも、警察の調べで、リトゥという女性は存在しないことが分かる。アジャイは逮捕されるが、逃げ出す。だが、走っているうちに息が切れてきて倒れる。そこにやって来たジャイラージ警視は、10年前の出来事を思い出させる。10年前、ジャイラージ警視の家族は交通事故に遭い、彼は妻を失っていた。その交通事故を起こしたのはアジャイとマーヤーであった。たまたま娘のイーシャーが通う大学に客員教授として来ていたのがアジャイであり、ジャイラージ警視とイーシャーは復讐を計画した。イーシャーはリトゥを名乗ってアジャイに近づき、恋仲となって、彼がマーヤー暗殺を口にしたところで復讐を実行に移したのだった。アジャイはリトゥによってTH-16を飲ませられ、それが今、効いてきたのだった。

 死体安置所に保管されていた遺体が突然消えるという奇妙な出来事から物語は始まる。その遺体は実業家マーヤーのもので、その日に心臓発作で死んだばかりだった。だが、その死因には怪しい点が多く、これから検死が行われるところであった。マーヤーの夫アジャイの関与が疑われる。実は彼が彼女を毒殺していたのだが、アジャイはまだマーヤーが生きているのではないかと考えて戦々恐々とする。果たしてマーヤーは生きているのか。もし死んでいるとしたら、誰が遺体を持ち出したのだろうか。そんなサスペンスが始終持続される、よくできたスリラー映画である。

 結末もあっと驚くものだった。この遺体消失事件を担当し、やたらとアジャイを犯人だと決め付ける、エキセントリックなジャイラージ警視が実は黒幕だったのだ。ジャイラージ警視は10年前に妻を交通事故で亡くしており、それ以来彼は異常な行動を取るようになっていた。だが、これは伏線であり、その交通事故を起こしたのはアジャイとマーヤーであったのだ。さらに、アジャイがマーヤーの目を盗んで密会を繰り返していた大学生リトゥは、実はジャイラージ警視の娘だったという追加のサプライズもあった。親子は、アジャイとマーヤーに復讐するために全てを仕組んでいたのだった。

 脚本も見事だったが、リシ・カプール、イムラーン・ハーシュミー、ショービター・ドゥーリパーラーの演技も素晴らしかった。リシは2020年に亡くなっており、この映画は生前に公開された彼の最後の作品となった。人生最期の老練な演技を見せていた。ミスコン出身で、「Raman Raghav 2.0」(2016年)で映画デビューしたショービターは相変わらず眼力の強い女優であり、支配的な女性を力強く演じていた。

 この3人に比べて、リトゥ役を演じたヴェーディカーの演技は弱かった。彼女はカンナダ語を母語としており、ムンバイーで育ったようだ。主に南インド映画に出演しており、ヒンディー語映画への出演は本作が初である。ヒンディー語ができないことはないと思うのだが、彼女の声は別の声優によって吹き替えられている。それが彼女の演技の弱さにつながったのかもしれない。

 「連続キス魔」の異名を持つイムラーンは、今回やはりショービターとヴェーディカーとキスをしていた。大富豪の妻を持っておきながら教え子と不倫をする役は彼のイメージにピッタリである。

 「The Body」は、同名スペイン映画をリメイクしたスリラー映画であり、モーリシャスで撮影されたこともあって、あまりインドらしさはないが、リシ・カプール、イムラーン・ハーシュミー、そしてショービター・ドゥーリパーラーという3世代の俳優たちが素晴らしい演技を見せており、見応えのある作品になっている。リシの遺作の一本でもある。興行的には大失敗に終わったようだが、観て損はない映画だ。


The Body Full Movie | Emraan Hashmi, Rishi Kapoor, Sobhita Dhulipala, Vedhika