Junglee

3.5

 ハリウッドの映画監督がインド映画を撮るという酔狂な試みは、かつてサルマーン・カーン主演「Marigold」(2007年)で行われ、大失敗に終わった。外部の人間が、形ばかりのインド映画を作ったところで、本当のインド映画らしさは出ない。その点、ダニー・ボイル監督の「Slumdog Millionaire」(2009年)は、インド映画のエッセンスを上手に抽出して国際的なフォーマットの映画に昇華できており、アカデミー賞を受賞するまでの作品に大化けした。とは言え、「Slumdog Millionaire」は元々映画館で上映することを前提にしていない小規模の企画だったと言われており、「Marigold」以来、ヒンディー語映画界のスター俳優を前面に押し出してハリウッドの映画監督が映画を作る試みは途絶えてしまっていたと言ってよい。

 そうかと思っていたら、2019年3月29日に「Junglee」という映画が公開された。これは、「マスク」(1994年)などの娯楽映画で知られる米国のチャック・ラッセル監督がヒンディー語映画界のキャストを起用して撮ったヒンディー語映画である。どうもストーリー原案者であるローハン・スィッピーがラッセル監督を招いて作ったようである。日本では「ガネーシャ マスター・オブ・ジャングル」という邦題と共にDVDが発売された。

 主演を務めるのは、アクションに定評のあるヴィデュト・ジャームワール。スター俳優とまではいかないものの、スタントアクションができる俳優としてヒンディー語映画界で独自の地位を確立している人物である。他に、マラーティー語映画女優プージャー・サーワント、新人アーシャー・バット、ベテラン俳優アトゥル・クルカルニー、ヴィヴェーク・オーベローイの従兄弟アクシャイ・オーベローイ、マクランド・デーシュパーンデー、タライヴァーサル・ヴィジャイなどが出演している。

 題名の「Junglee」とは、「森林」という意味のヒンディー語「जंगल/Jangal」から派生した形容詞で、「野性的な」「ワイルドな」などの意味になる。英語の「jungle(森林)」の語源になった言葉である。

 ムンバイーで獣医をしていたラージ・ナーイル(ヴィデュト・ジャームワール)は、母親の十回忌を期に、故郷のチャンドリカー象保護区に帰って来る。チャンドリカー象保護区は、父親のディーパーンカル・ナーイルが妻と共に立ち上げた保護区だったが、母親の死の原因は父親の文明嫌いにあると考えたラージは、10年前に家を飛び出したのだった。

 ラージは、女象使いのシャンカラー(プージャー・サーワント)に迎えられ、保護区を久々に訪れる。ラージとディーパーンカルの間のわだかまりは相変わらず解消されていなかった。ラージが子供の頃から一緒に遊んでいた雄象ボーラーは、今では立派な牙を蓄えたボス象に成長していた。雌象ディーディーはボーラーの子を身籠もっていた。

 ラージが共にカラリパヤットゥを習った兄弟弟子のデーヴ(アクシャイ・オーベローイ)は森林警備隊となっていたが、デーヴの父親でカラリパヤットゥの師匠ガジャグル(マクランド・デーシュパーンデー)は酔っ払いになってしまっていた。チャンドリカー象保護区の取材をしに、ムンバイーからジャーナリストのミーラー・ラーイ(アーシャー・バット)が来ていた。

 象牙の密輸に手を染める密猟者ケーシャヴ(アトゥル・クルカルニー)は、ボーラーの象牙に目を付けており、チャンドリカー象保護区に侵入していた。そしてある嵐の晩、ボーラーを殺し、象牙を奪い取る。また、駆けつけたディーパーンカルもケーシャヴに殺されてしまう。

 ラージは復讐を誓うが、警察が密猟者とグルになっており、ラージは密猟者との内通の濡れ衣を着せられて逮捕されてしまう。だが、ラージはシャンカラー、ミーラー、そしてディーディーの助けにより脱出に成功する。まだ象牙がジャングル内にあると予想したラージは、ガネーシャ寺院へ行く。そこはかつてデーヴと共にカラリパヤットゥを訓練した場所だった。ラージは古い入れ物の中に象牙が隠されているのを発見する。そこにデーヴが現れるが、実はデーヴが密猟者と内通していたのだった。ラージとデーヴは戦いを繰り広げるが、そこにケーシャヴと手下たちが現れ、二人を襲う。デーヴは殺され、ラージは重傷を負う。また、救援に駆けつけたシャンカラーが誘拐されてしまう。

 目を覚ましたラージは、傷が癒えないままシャンカラーとボーラーの象牙を追う。そしてシンガポールから来たマフィアの手に渡る前に象牙を取り返し、シャンカラーを救い出す。ケーシャヴはディーディーに踏み潰される。

 こうしてジャングルに平和が戻った。チャンドリカー象保護区は、ミーラーの宣伝活動のおかげで寄付金が集まり、存続できることになった。ディーディーの子も生まれ、チャンドリカー象保護区の新たな希望となった。

 善玉と悪玉が明確で、単純な筋書きのアクション映画だった。子供向け映画に分類してもいいだろう。見所となるのは、主演ヴィデュト・ジャームワールのアクションと、実際の象を使った動物映像だ。ヴィデュトはインド武術カラリパヤットゥの使い手であり、スタントマンでもある。今回は全てのアクションシーンを自身で演じたと言う。また、象のシーンは全てタイで撮影されたと言う。近年、インドでは動物愛護のための規制が厳しくなっており、動物を使った撮影は難しくなっている。

 久々にハリウッド映画の監督が作ったインド映画ということで、どういう作りになるのか期待半分怖さ半分であったが、正直言って通常のインド映画とほとんど変わらなかった。言われなければ監督が米国人とは分からないほどだ。ダンスシーンの入り方も自然で、ヒンディー語映画の文法に従っていた。逆に、チャック・ラッセル監督がどこまで関与したのか疑問に感じるほどである。

 細かい部分を見て行くと詰めの甘さも感じられる。舞台となったチャンドリカー象保護区はオリシャー州にあることになっていたが、そこでケーララ州に伝わるカラリパヤットゥが教えられているのには違和感を感じた。もちろん、カラリパヤットゥの師匠が流れ流れてオリシャー州にいたとしても全く変ではないのだが、いっそのことチャンドリカー象保護区はケーララ州にあることにした方がしっくり行っていたかもしれない。

 子供向け映画だと感じたのは、ロマンスが浅くしか描写されていなかったからだ。「Junglee」にはヒロインが2人いる。プージャー・サーワント演じるシャンカラーとアーシャー・バット演じるミーラーである。ただ、どちらもメインヒロインとしては決定打に欠けるキャラで、ラージとの関係も恋愛に発展しそうで発展しないというもどかしいものだった。エンディングにはラージの息子らしき子供が映っていたが、誰との子供なのか、詳細な説明はなかった。

 「Junglee」が主題としていたのは象の密猟である。インドには2万5先頭以上のアジアゾウがいるとされているが、象牙などを目的とした密猟の横行にも悩まされている。映画の中では15分に1頭が殺されていると述べられていたが、さすがにそれは多すぎである。とあるデータによると、過去10年間で429頭が密猟されたとされている。少なくない数字ではあるが、15分に1頭は大げさすぎる。

 「Junglee」は、米国人映画監督チャック・ラッセルが撮った、象の密猟がテーマのアクション映画である。主演ヴィデュト・ジャームワールのアクションと、本物の象を使った映像が大きな見所だ。基本的に子供向け映画なので、そういうつもりで鑑賞することをオススメする。