
2019年1月18日公開のマラヤーラム映画「Mikhael」は、戦闘力の高い医者が主人公のアクション映画である。
監督はハニーフ・アダニー。音楽はゴーピー・スンダル。主演はニヴィン・ポーリ。他に、ウンニ・ムクンダン、スィッディーキー、JDチャクラヴァルティー、スーラジ・ヴェンジャラムードゥ、マンジマー・モーハン、ナヴァニ・デーヴァーナンド、Vジャヤプラカーシュ、スデーヴ・ナーイル、アショーカン、シャーンティ・クリシュナなどが出演している。
金密輸マフィアのジョージ・ピーター(スィッディーキー)と運転手が何者かに殺された。ムハンマド・イーサ警部(JDチャクラヴァルティー)とイサーク・ジョン警部補(スーラジ・ヴェンジャラムードゥ)は凶器が医療用メスであることを突き止め、その出所を探る。一方、ジョージの弟マルコ・ジュニア(ウンニ・ムクンダン)はシンジケートのパートナーであるウィリアム・デーヴィス(Vジャヤプラカーシュ)を怪しみ、会いに行く。そしてウィリアムの長男アブラハムを殺す。
次に、ウィリアムの秘書をしていたパトリックが何者かに撃たれ、病院で殺される。イーサ警部とイサーク警部補は犯人が医者であるという疑いをますます強くする。イサーク警部補はイーサ警部が何かを隠しているのではないかと疑い、彼の電話記録を調べ上げ、スター病院に勤務する研修医マイケル・ジョン(ニヴィン・ポーリ)と頻繁に通話をしていることを突き止める。イサーク警部補はイーサ警部を逮捕しようとするが、彼はマイケルのことについて語り出す。
マイケルの父親ジョンは格闘家であったが、交通事故に遭って死んでしまった。母親のアンシー(シャーンティ・クリシュナ)はその死をマイケルのせいにしたため、マイケルは母親に心を閉ざしてしまった。アンシーはアントニー(アショーカン)と再婚し、二人の間にはジェニファー(ナヴァニ・デーヴァーナンド)が生まれた。ジェニファーは空手を習っていたが、同じ学校に通うジェラルドに因縁を付けられ、彼を公衆の面前で打ち負かす。ショックを受けたジェラルドは校舎から飛び降りて死んでしまう。ジェラルドの父親がジョージであった。ジョージは息子の死を誘発したジェニファーを恨み、彼女にジェラルドと同じ場所から飛び降りて死ねと命令する。さもなければ家族を殺すと脅す。精神的に追いつめられたジェニファーは飛び降り自殺しようとするがマイケルに止められる。まず犠牲になったのはアンシーで、次にアントニーも暴行を受けた。さらにマイケルも集団リンチに遭い殺されそうになるが何とか生き延びる。ついに我慢できなくなったマイケルはジョージとその運転手を抹殺する。イーサ警部はマイケルから話を聞き、彼に同情していたのだった。パトリックを殺したのもイーサ警部の指示であった。
マルコ・ジュニアとウィリアムの間で抗争が始まっていた。ウィリアムとその息子フランシーはジェニファーを誘拐して人質にし、マイケルに対しマルコ・ジュニアを殺すように命令する。だが、マイケルは彼らに反撃しジェニファーを救出する。イーサ警部はウィリアム、フランシー、マルコ・ジュニアを逮捕しひとつの場所に幽閉して殺し合いを誘発しようとするが失敗する。釈放されたマルコ・ジュニアはジェニファーを誘拐し、マイケルを誘き寄せる。彼らは高層階のヘリパッドで死闘を繰り広げる。マイケルはマルコ・ジュニアを脳死状態にし、臓器ドナーとしてしまう。
アクション映画ではあるが、無意味に冗長なスローモーションシーンが多く、非常にテンポの悪い映画だった。何でもスローモーションにすればかっこよくなると思っていないだろうか。「ゴッドファーザー」シリーズのような血で血を洗うギャング抗争映画を匂わす始まり方をするのだが、実際にはマフィアと一般人の間の報復合戦というスケールの小さな争いで終わってしまっていたことも肩透かしに感じた。話が現在と過去を行ったり来たりするところも上手に提示できておらず、筋を追いにくかった。
主人公の多くがキリスト教徒であり、キリスト教の教義や聖書がストーリーに絡んでくるところはいかにもマラヤーラム語映画らしい。主人公のマイケルが既にキリスト教徒であり、彼のキャラクターは大天使ミカエルを想起させるものだ。タイトルロールでは大天使ミカエルが悪魔サタンを倒す様子が場違いな3Dアニメーションで描かれており、神話とのつながりを意識させる。マイケルは、本当は格闘技の使い手であったが、妹ジェニファーの前ではなぜかそれを隠していた。そして、暴力を受けても「右の頬を打たれたら左の頬をも差し出しなさい」という聖書の言葉を持ち出して反撃しない。だが、覚醒したマイケルは一転してハンムラビ法典の「目には目を歯には歯を」にもとづいた行動を始め、悪者を一網打尽にする。
映画には何人かの悪党が登場するが、ラスボス扱いされていたのはウンニ・ムクンダン演じるマルコ・ジュニアであった。狙った獲物は逃さず、大胆不敵な行動に出ることもいとわない危険人物として描かれていた。主人公のマイケルより目立つインパクトを持っていた。
ジェニファーは「空手」を習っていたが、例によって怪しい空手であった。その使い手としてジャッキー・チェンやブルース・リーの名前が出て来るところからも信憑性はゼロだ。
「Mikhael」は、「ゴッドファーザー」シリーズばりのギャング抗争映画と見せかけておいて、一人の医者が妹を守りながらマフィアと戦うというアクション映画であった。安っぽさが目立ち、それをテクニックで回避することにも成功していなかった。無理して観る必要はない映画である。