2019年1月9日からZee5で配信開始されたヒンディー語映画「Cabaret」は、キャバレーダンサーを主人公にしたクライムサスペンス映画である。主役はリチャー・チャッダーが演じているが、クリケット選手のSシュリーサントが重要な役で出演しているのも注目に値する。
監督は新人のカウスタヴ・ナーラーヤン・ニヨーギー。主演は先述の通りリチャー・チャッダーだが、グルシャン・デーヴァイヤーも主演級の役を演じている。他に、グルシャン・グローヴァー、アクシャイ・アーナンド、シャラド・カプール、マノージ・パーワーなどが出演している。
2007年、ジャールカンド州グムラー。恋人キシャンを警察に殺されたラージシュリー(リチャー・チャッダー)は、警察を殺してムンバイーに逃げる。そこから友人と共にドバイに渡り、「ローザー」を名乗ってキャバレーダンサーとして働き始める。ローザーはマフィアのドン、サリーム(グルシャン・グローヴァー)から気に入られ、自宅に呼ばれるが、サリームを殺し、逃亡する。 ムンバイーに戻ったローザーは、慈善事業をする富豪チェッター(Sシュリーサント)に匿われ、引き続きキャバレーダンサーとして働く。4年ほど働いた後、彼女は子供にダンスを教える学校を開くという夢を思い出し、チェッターに引退を申し出る。そのとき、ローザーの電話には、死んだはずのサリームから電話が掛かってくる。命の危険を感じたローザーは引き続きチェッターに匿われ、キャバレーダンサーとして世界各地を飛び回っていた。 麻薬密輸王ナンド・シャーを追っていたジャーナリスト、ガウラヴ(グルシャン・グローヴァー)は、特ダネを報じる直前に友人たちをナンド・シャーに惨殺され、失意の中で暮らしていた。ガウラヴはローザーの取材を依頼されるが、彼女の人生に興味を持ち、深い関係になる。ローザーがサリームから命を狙われているというインタビュー記事を出したことでチェッターの雇った弁護士から訴えられるが、ガウラヴはチェッターに直談判し、サリームからローザーを守るように懇願する。そのとき、ガウラヴは何者かに撃たれるが、一命は取り留める。 回復したガウラヴは、ローザーが貴金属や宝石の密輸に関係している疑いを持つ。そして元諜報員の友人ヴィクラム・バトワール(シャラド・カプール)と共に捜査をする。その間、ローザーがサリームの一味に誘拐され、身代金5千万ルピーを要求されるが、ヴィクラムと協力し合ってローザーを助け出す。 ガウラヴは、一連の事件の中で、チェッターこそがナンド・シャーであることを突き止める。引退を表明したローザーをつなぎ止めるため、ローザーのマネージャー、ヴィクター(アクシャイ・アーナンド)に死んだサリームを演じさせ、彼女を怯えさせて操っていたのだった。ガウラヴとヴィクラムはチェッターを殺すが、ローザーは自殺してしまう。 その後、ガウラヴは「Cabaret」と題したローザーの伝記を出版する。だが、死んだはずのローザーは人知れず生きており、子供たちにダンスを教える学校を開いていた。
「キャバレー」という題名からグラマラスな映画が想起される。確かに派手なキャバレーダンスのシーンがいくつか挿入されていたが、基本的にはクライムサスペンス映画であり、ジャーナリストのガウラヴの視点から、キャバレーダンサー、ローザーの過去が明らかになり、現在彼女が直面する問題の解決が図られる構成となっている。また、ローザーを演じたリチャー・チャッダーは、演技力のある女優なのだが、セックスアピールのある女優かといわれれば首肯しにくいところがあり、その点も題名負けしている印象を受けた。
明示はされていなかったものの、冒頭、ジャールカンド州のシーンで警察に殺されたキシャンは、ナクサライトの活動家だったと思われる。ナクサライトは武力革命による国家転覆を狙う極左の武装勢力であり、ジャールカンド州、マディヤ・プラデーシュ州、チャッティースガル州などの森林地帯を拠点としている。2007年頃はインド政府とナクサライトの衝突が頻発していた。
こちらも完全な一致はしないが、グルシャン・グローヴァーが演じたマフィアのドン、サリームは、1993年のボンベイ連続爆破テロ事件の首謀者ダーウード・イブラーヒームの面影がある。ドバイを拠点にし、インドの映画界にも影響力を持つ存在である点が共通しているが、時代はかなりずれている。ダーウードがもっとも強い影響力を持っていたのは1980年代から90年代である。
ローザーを匿ったチェッターことナンド・シャーが、彼女をどのように利用していたかといえば、ローザーの海外公演と共に大量の宝飾品をショーのための衣装として密輸出入し、巨額の富を得ていたのである。チェッターを演じたSシュリーサントは元々クリケット選手で、八百長に関与したことで出場禁止となり、俳優に転身した。元々オーバーなリアクションで知られていた選手だったが、意外に演技力はあり、多少オーバー気味ながら迫力のある演技をしていた。
「Cabaret」は、キャバレーダンサーを主人公にしたクライムサスペンス映画である。基本的には低予算映画の作りであり、新人監督による作品ということもあって、観客を画面に引きつけるグリップ力は弱い映画だ。それでも、元クリケット選手Sシュリーサント出演の映画という点は話題性があるし、リチャー・チャッダーやグルシャン・デーヴァイヤーも堅実な演技をしている。わざわざ観る必要のある映画ではないが、多少の見所はある映画である。