Everything is Fine

3.5
Everything is Fine
「Everything is Fine」

 2018年5月10日にニューヨーク・インド映画祭でプレミア上映された短編映画「Everything is Fine」は、結婚生活に悩む中年女性の静かな反抗を描いた小品である。

 監督はマーンスィー・ニルマル・ジャイン。主に短編映画を撮ってきている映画監督である。キャストは、スィーマー・パーワー、パローミー・ゴーシュ、スィッダールト・バールドワージなど。

 物語は、中年夫婦(スィッダールト・バールドワージとスィーマー・パーワー)がデリーに住む娘(パローミー・ゴーシュ)を訪ねるところから始まる。娘はデリーに一人で住み仕事をしていた。だが、娘は母親が夜になると屋上で泣いているの見つけ、その理由を聞く。母親は夫と別れたいと言い出す。だが、娘は何とか母親をなだめて寝させる。翌日、三人は親戚バブリーの家を訪れる。その翌朝、母親が行方不明になっていた。心配する二人を家に残して母親はデリーを自由に出歩いていた。ようやく母親から電話があり、娘は彼女と合流する。

 18分ほどの短い映画で、大切なことはほとんど語られない。だが、ちょっとしたセリフなどから真意を読み取っていく楽しさがある。映画の中心問題になるのは母親が急に夫と別れたいと言い出すことだ。それを聞いて娘は驚き、「完璧な人間はいない」と母親をなだめる。だが、そこから注意して父親の言動を見ていくと、なぜ母親が別れたがっているのかが次第に分かってくる。

 まず、母親は一人で娘を訪ねようとしていた。娘とデリーで水入らずの時間を過ごしたかったのである。だが、夫が勝手に付いてきてしまった。母親はデリーでボートに乗りたいと思っていたが、夫は親戚のバブリーに会いに行くと決めてしまう。勝手に付いてきた分際で、全ての予定を自分で決めてしまうのである。また、母親は自立して生活する娘を誇らしく感じると同時に、小切手を切ることもできない自分の世間知らずさを恥じていた。それを口にしたところ、夫は「そんなことしてどうする」と馬鹿にした発言をする。

 決して夫は暴力を振るうタイプの人間ではなかった。よって、あからさまに悪い夫でもなかった。それでも、言葉の端々から妻を常に下に見ていることが分かる。そんな毎日の小さな積み重ねが母親に離婚や別居といった方向に向かわせているのだと予想された。

 もちろん、更年期障害ということで片づけることもできるだろうが、それではこの映画が映画として成り立たない。やはり、対等な関係を築けていない夫婦に生じるゆがみという観点から解釈すべきであろう。

 デリーに来ても夫の自分勝手さや束縛から逃れられなかった母親は、無断外出という小さな反抗に出る。そこで彼女は靴を買ったり散策したりする。それによって気が済んだのか、それとも夫から離れることを決めたのか、最後まで明示はされない。だが、母親のすがすがしい笑顔からは、どちらの決断にしろ、彼女はこれから変化するということがほのめかされていた。

 母親を演じたスィーマー・パーワーは、パワフルなおばさんを演じさせたら右に出る者はいない女優である。彼女は曲者俳優マノージ・パーワーの妻でもある。今回、彼女は「スィーマー・バールガヴァ・パーワー」と旧姓付きでクレジットされていた。結婚しても自分のアイデンティティーは失わないという宣言であろうか。「Everything is Fine」での彼女は、パワフルというよりは繊細な演技を見せていたが、どういう役であろうと巧い俳優である。

 娘役のパローミー・ゴーシュは「Mukti Bhawan」(2017年/邦題:ガンジスに還る)に出演していたので記憶にあった。ただ、一線で活躍する女優にはなれていない。

 「Everything is Fine」は、夫から対等に扱われていない妻が日頃から抱えている鬱憤をよく表現した短編映画である。暴力などを受けていなくても結婚生活に幸せを感じられるわけではない。核心部分をセリフなどでストレートに表現せず、観客の判断に委ねるストーリーテーリングも見事だった。


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