2017年8月25日公開の「Muskurahatein(微笑み)」は、サンジャイ・ミシュラーやラーケーシュ・ベーディーといった玄人好みの俳優たちが出演する謎の映画である。ビハール州の田舎で診療医をする医者が、村人たちの医療状況改善のため、超音波検査機器の使い方を学びにデリーにある超音波の学校へ通い出すという突拍子もないストーリーだ。
監督、脚本、主演はJSランダーワー。全く無名の人物であるが、検索してみたらなんと本当に「Institute of Ultrasound Training」という超音波学校の校長兼医者であった。おそらく彼が自分の学校を宣伝するため、また、個人的な夢を実現するために作ったのがこの「Muskurahatein」であろう。
そのため、サンジャイ・ミシュラーとラーケーシュ・ベーディーを除けば無名の俳優たちばかりが起用されている。ソーナール・ムドガル、シャーム・マシャールカル、アンキト・ハンス、ラーキー・アガルワール、スルビ・カッカルなどが出演している。この中ではシャームがかろうじて知名度がある。
ビハール州の村で診療医をするヤクーブ・アンサーリー(サンジャイ・ミシュラー)は、超音波検査機器の必要を感じ、使い方などの訓練を受けるためにデリーの超音波学校に入学する。そこでは様々な年齢層の医者たちが超音波検査技術を習得しに来ていた。 カンヌー(ソーナール・ムドガル)は教師アーカーシュ・カプール(JSランダーワー)に一目惚れする。アーカーシュにはプレールナー(スルビ・カッカル)という妻がいたが、カンヌーの積極的なアプローチに負け、彼女と恋仲になってしまう。だが、プレールナーに二人の関係が知れてしまう。カンヌーは学校を中退しようとするが、ヤクーブが彼女の相談に乗る。ヤクーブはプレールナーに会いに行き、浮気を許すように説得する。プレールナーはカンヌーと会い、彼女を助手にする。
サンジャイ・ミシュラーの名前と、「微笑み」という意味の題名から、抱腹絶倒のコメディー映画を想像して鑑賞を始めた。確かにサンジャイを中心としたコメディーシーンはいくつか用意されていた。しかしながら、どうも主演はやっぱりJSランダーワーが演じるアーカーシュのようで、ヒロインは彼と恋に落ちるカンヌーのようだった。つまり、これはロマンス映画だったのである。サンジャイ演じるヤクーブのナレーションから始まり、彼がデリーの超音波学校に入学するところから物語が始まるのだが、途中で彼の存在感は消え去り、フォーカスはアーカーシュとカンヌーに移る。
そのように書かざるをえなかったのは、素人が脚本を書き、素人が監督をしたためであろう。登場時は脇役だと思っていたアーカーシュが途中から急に出しゃばるようになり、いつの間にか主演に成り代わっていた。しかも大してハンサムでもないのにハンサムということになっており、まだ若いカンヌーから憧れられるという無理な設定を押し通している。演技も素人レベルで、滑舌が悪いために何を言っているのか分からない場面がいくつもあった。
アーカーシュとカンヌーはW不倫関係になる。アーカーシュにはプレールナーという妻がおり、カンヌーも既婚である。それでも二人は求め合うようになり、デートを重ねるようになる。そしてそうこうしている内にプレールナーに浮気がばれてしまう。3人は人生の岐路に立たされるが、フラリと現れたヤクーブが全てを丸く収める。特にキーパーソンとなったのはプレールナーであったが、ヤクーブは彼女と直談判し、一時の感情に流されて関係者全員を不幸にするなと説得する。そしてプレールナーは夫を許し、カンヌーとも友情を結ぶ。何となく浮気をした男性に都合のいい終わり方であった。もしかしたらJSランダーワー自身の経験がもとになっているのかもしれない。
これでコメディーシーンが面白ければ救われるところもあったのだが、何しろテンポが悪い。同じネタを延々と引っ張る。しかも主筋から横道にそれているので、その冗長な時間が映画の質を向上させるようなこともない。
「Muskurahatein」は、曲者俳優サンジャイ・ミシュラーの名前があるために気になってしまうが、彼は主演でも何でもなく、実際には医者が自分の学校を宣伝するために自ら監督・脚本・主演を務めて作り上げてしまった映画だ。よほどの特殊な事情がない限り、鑑賞は避けるべきである。