Lens

4.0
Lens
「Lens」

 「Lens」は、盗撮ビデオを主題にしたクライムサスペンス映画である。マラヤーラム語とタミル語で作られた。マラヤーラム語版は2016年6月17日に公開され、タミル語版は2017年5月12日に公開された。ただし、英語の台詞も多く、ヒンディー語の台詞もあり、Netflixでは英語映画扱いになっている。鑑賞したのはタミル語版になる。

 監督はジャヤプラカーシュ・ラーダークリシュナン。長編映画の監督は初であり、主演も彼自身が務めている。他に、アーナンドサーミー、ヴィヌター・ラール、ミシャー・ゴーシャール、ラージャークリシュナンなどが出演している。

 アラヴィンド(ジャヤプラカーシュ・ラーダークリシュナン)は、Skypeで女性とエッチな会話をするのが趣味の男性だった。妻のスワーティー(ミシャー・ゴーシャール)は完全に無視されており、彼と結婚したのを後悔していた。

 ある日、アラヴィンドは、てっきり女性だと思い込んで一人のユーザーとチャット友達になる。それは実は男性で、ヨハン(アーナンドサーミー)という名前だった。アラヴィンドとヨハンはSkypeでビデオチャットを始めるが、ヨハンは彼の目の前で自殺をすると言い出す。アラヴィンドは早くヨハンとのチャットを切り上げようとするが、彼の家に妻のスワーティーが昏睡状態でいることが分かり、顔色を変える。

 ヨハンは身の上を語り出す。ヨハンはエンジェル(ヴィヌター・ラール)という唖の女性と結婚し、幸せに暮らしていたが、ある日、彼らの初夜の様子を盗撮したビデオがネットにアップロードされ、拡散されていることを知る。エンジェルはそれを苦にして自殺をしてしまう。盗撮をしたのは配管工だったが、3ヶ月ほど刑務所にいて保釈された。ヨハンは配管工の両目をえぐり出して殺す。

 盗撮をしたのは配管工だったが、その盗撮ビデオが入ったUSBメモリーをたまたま道端で拾い、ネットにアップロードしたのがアラヴィンドだった。最初はそれを否定していたアラヴィンドだったが、妻が殺されそうになったため、自分がしたと自白する。

 ヨハンは、アラヴィンドの自白の様子を録画しており、それをアップロードして自殺する。アラヴィンドの隣人ラージ(ラージャークリシュナン)が警察の助けを借りてヨハンの家に押し入るが、既にヨハンは死んだ後だった。ヨハンによってアップロードされたビデオにより、アラヴィンドは社会的に抹殺される。

 現代社会においてインターネットはなくてはならない社会インフラになったが、便利な故に使い方を誤ると恐ろしい結果を招く。「Lens」では、インターネットの不正利用によって人生を破壊されたヨハンが、その原因を作った人物に復讐をする物語であり、インターネットの怖さを改めて思い知らされる内容となっている。

 インターネットの特性を活用して、現代的なホラー映画に仕上げているのが「Lens」のアピールポイントだ。主人公のアラヴィンドは映画の最初から最後まで家を一歩も出ていない。ヨハンとチャットをしているだけである。だが、妻のスワーティーを人質に取られたことで、ヨハンの言うがままになり、PCの前から動けなくなる。そして、最後にはヨハンによって正体を暴かれ、社会的に抹殺される。

 なぜヨハンがアラヴィンドをターゲットにするのか、当初は不明だが、徐々に明かされていく。そして、どうもヨハンの妻エンジェルの死が関係していることが分かる。ヨハンとエンジェルの初夜の様子が盗撮され、それがインターネットのポルノサイトにアップロードされたのである。エンジェルは妊娠していたが、それが分かると苦しみ出し、流産した上に自殺をしてしまう。

 ただ、そこまで明かされても、盗撮をしたのはアラヴィンドではなく、配管工であり、依然としてヨハンがアラヴィンドを狙う理由が分からない。だが、最後の最後でアラヴィンドは、盗撮ビデオを偶然手に入れ、それをポルノサイトにアップロードしたのは自分であることを自白する。

 ヨハンは予告通り自殺してしまうのだが、人質に取られたスワーティーが無事だったのかは不明である。

 突然アラヴィンドにチャットをしてきたヨハンを演じたアーナンドサーミーの演技がずば抜けていた。元々舞台俳優で、タミル語映画を中心に活躍している男優であるが、この「Lens」は彼の出世作となったようだ。監督・主演のジャヤプラカーシュ・ラーダークリシュナンの演技からは特に優れた点を感じなかったが、この映画に限っていえば、俳優としてよりも監督としての才能の方が賞賛されて然るべきであろう。

 「Lens」は、主人公と犯人が、ほぼ対面ではなく、ビデオチャットを通して会話をするだけの映画なのだが、インターネットの闇をうまくシチュエーションに活用して、誰の身にも起こり得る現代のホラーを演出していた。低予算ながら優れた脚本のおかげで全く退屈しないエキサイティングな映画に仕上がっていた。