Maalik (Pakistan)

2.5
Maalik
「Maalik」

 2016年4月8日公開のパーキスターン映画「Maalik(主)」は、パーキスターン映画界が放つ渾身のアクションスリラー映画である。検閲を通ったにもかかわらず、後からパーキスターン政府によって上映禁止措置が取られたことで知られる。

 監督はアーシル・アズィーム。TVドラマ「Dhuwan」(1994年)で知られる監督で、長編映画を撮ったのはこれが初となる。プロデューサーも彼で、脚本も彼だ。さらには主演も彼自身が演じている。

 その他のキャストは、エヘティシャームッディーン、ハサン・ニヤーズィー、アドナーン・シャー・ティープー、サッジード・ハサン、ファルハーン・アリー・アーガー、ラシード・ファールーキー、ルブナー・アスラム、ブシュラー・アーシル、タトマインゥル・カルブ、ナイマー・ガラジ、パーキーザー・カーン、イムラーン・ミール、サザイン・アリーザイー、カリーム・アチャクザイー、ナズィール・ドゥッラーニー、アリー・ミール、エラム・アーザムなどが出演している。

 退役軍人のアサド(アーシル・アズィーム)は民間警備会社を経営しながら、困窮した人々の手助けをしていた。ある日アサドは警察署を訪れ自首する。彼は過去に2人を殺したと明かす。

 アサドにはかつてセヘル(ブシュラー・アーシル)という妻がいた。まだ軍人だったアサドが作戦中に妊娠中だったセヘルは足を滑らせて転び、子供を産んで死んでしまう。アサドは子育てを優先して除隊し、民間警備会社を立ち上げた。アサドは、スィンド州の州首相(ハサン・ニヤーズィー)の護衛になる。

 州首相は選挙のときに対立候補として立候補した教師アラストゥ(エヘティシャームッディーン)の娘で弁護士のアーイシャ(エラム・アーザム)を、腹心のラジャブ(アドナーン・シャー・ティープー)を使って殺害したことがあった。アーイシャの死を耐えきれず、彼の妻も死んでしまう。アーイシャの弟ハムザ(アリー・ミール)はアーイシャ殺しの濡れ衣を着せられて逮捕され、刑務所に入れられる。

 州首相は、親交のある実業家の家で使用人として働くパターン人女性の娘ファリシュテー(パーキーザー・カーン)を誘き寄せレイプする。ファリシュテーの父親ナーディル・シャー(カリーム・アチャクザイー)は家族を連れて故郷に戻るが、兄のシェール・シャー(ナズィール・ドゥッラーニー)はカラーチーに残り、州首相を暗殺しようとする。アサドはシェールを撃って暗殺を止めるが、州首相の悪行を見てきたアサドはこの機会に州首相を殺す。

 アサドは自首したものの、証拠がないため逮捕されなかった。引き続き民間警備会社の経営者として正義のために行動する。

 民間警備会社を経営し、警察が解決できない、もしくは解決しようとしない事件を超法規的に解決する退役軍人アサドの「現在」の活躍が冒頭で描かれる。アサドは有能な退役軍人を雇い、作戦遂行能力のある部隊を作り上げていた。だが、あるときアサドは自首を決める。彼は過去に2人の人物を殺したという。もちろん、元軍人だったアサドは他にも多くの人を殺してきたが、それは任務であった。相互扶助の輪を広げる正義のアサドが過去に一体どんな理由で2人の人間を殺したのか。そこから回想シーンが始まる。

 ただし、「Maalik」はアサドを巡るストーリーに限定されない。他にも主要な人物が登場する。まず、中心的な悪役はスィンド州の州首相である。目的のためなら手段を選ばない残酷な男で、特に女性に対しては常に支配的で、州首相就任後も女性を侍らせて遊びほうけていた。悪役ではあるが、主人公アサドと直接敵対関係にはなかった。

 アサドに因縁があるのは、教師アラストゥの家族と、アフガーニスターン紛争を逃れてカラーチーにやって来たパターン人の家族であった。アラストゥは娘を州首相に殺され、妻を失い、息子も逮捕され、失意のどん底にいた。釈放された息子ハムザはアサドを殺そうとするが、父親にたしなめられる。パターン人ナーディル・シャーの娘ファリシュテーは州首相にレイプされる。ファリシュテーの兄シェール・シャーは州首相を暗殺しようとする。

 序盤ではこれらのエピソードが断片的に語られ、相互の関わりがはっきりしないのだが、ストーリーが進行するにつれて結び付く構成になっていた。

 アサドが過去に殺した2人の人物の内、1人は州首相ということになる。シェール・シャーに殺されそうになった州首相を一旦は助けるが、その場に誰も目撃者がいなかったこと、そして州首相がファリシュテーのレイプなど暴虐の限りを尽くしてきたことに日頃から鬱憤を感じていたことなどから、アサド自身が州首相に引導を渡す。

 では、もう1人は誰かといえば、それは妻のセヘルということになるだろう。アサドがまだ軍人だったとき、妊娠した妻を家に置いて出動した。彼の作戦中に妻は転倒し、お腹を打って危篤状態になった。お腹の子供は助かるが、セヘルは助からなかった。アサドは自分を責め続けていた。

 インド映画を見慣れていると、パーキスターン映画はエキゾチックに感じる。「Maalik」ではスィンド州に加えてバローチースターンでもロケが行われており、インドにはなかなかない景色を見ることができる。また、大半の登場人物はヒンディー語とほぼ同じ言語であるウルドゥー語を話しており、理解できるが、それ以外にもパンジャービー語やパシュトー語がでてくる。パシュトー語の台詞には英語字幕が付いていた。

 パーキスターン映画にも歌と踊りはあるが、この「Malik」はシリアスな映画であり、ダンスシーンなどはなかった。BGMに歌が流れる程度である。この種のインド映画と比べて圧倒的に見劣りしたのがアクションシーンだ。パーキスターン軍の協力を得て軍用ヘリなど本物の兵器が使われていたのは映像的に迫力があったが、撮り方が未熟で台無しになっていた。

 プロデューサー、監督、脚本、主演を一人でこなしたアーシル・アズィームが多才な人物であることは認める。ただ、役者として一流かと問われれば即答はしにくい。お世辞にもヒーロー顔はしていない。彼の存在も皮肉なことに映画の価値を低めていた。ラジャブを演じたアドナーン・シャー・ティープー、ナーディル・シャーを演じたカリーム・アチャクザイーなど、老練な演技をする俳優たちもいたが、素人に毛が生えた程度の演技しかしていなかった者もいた。

 「Maalik」は総じて非常にバランスの悪い映画だ。アーシル・アズィーム監督の壮大な野望はひしひしと感じるのだが、一人で何でもやり過ぎた感があり、それを支えるのに適した人材をうまく集められなかった印象も受けた。政治家批判と取れる内容だったために上映禁止になったのだろうが、無闇に騒ぎ立てなければ大して話題にもならずに消えていく運命にあった作品なのではないかと思う。


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