Watermelon, Fish and Half Ghost

3.5
Watermelon, Fish and Half Ghost
「Watermelon, Fish and Half Ghost」

 「Watermelon, Fish and Half Ghost」は、2024年のカンヌ映画祭でグランプリを獲得したことで一躍有名になったインド人監督パーヤル・カパーリヤーが初めて本格的に作った短編映画である。2014年3月6日にIAWRTアジア女性映画祭で上映されたのが初めてだと思われるが、この映画の公開年を2013年としているものもあり、もしかしたらもっと早く上映されていたかもしれない。

 この映画を作ったとき、カパーリヤー監督はまだインド映画TV学校(FTII)の学生であった。だが、恐るべきことに、この処女作から彼女の才能の片鱗が十分にうかがえる。

 一般に彼女はドキュメンタリー映画監督とされるが、既にこの「Watermelon, Fish and Half Ghost」から、既存のジャンルに当てはまらない作品になっている。ムンバイーに特徴的な、「チャール」と呼ばれるアパートを舞台にしており、そこに住む複数の住民たちのエピソードが語られる。たった10分ほどの作品だが、その短さを全く感じさせない作りで、作品を見終わった後に、もっと壮大な物語を聞いた気分になる。

 「聞いた」というのは、この映画の特徴を言い表している。女性の声でナレーションが入るのだが、それがささやき声なのである。なぜささやいているのかは分からない。何語でしゃべっているのか分からないほど小さな声だが、英語字幕が出るため、意味は追うことができる。IMDBのデータによるとグジャラーティー語のようである。それをしゃべっているのは、映像の中に出て来る少女だと思われる。まずは聴覚から入ってくる印象の強い映画である。

 題名も意味深だが、一応、映画を一通り観ると、何を示しているのかは分かる。「スイカ」とは、リンニーとスジョイの淡い恋愛を象徴している。リンニーは、屋上でスジョイが朗読する詩を聴くのが好きだった。むしろ、リンニーが聴いていることを知ってスジョイはわざと朗読をしていたのだと思われる。だが、スジョイは別の男性と結婚してチャールを去って行ってしまった。去る前に彼女は体調不良になったとのことだが、これは彼女がスイカの種を食べたからだとされていた。「スイカ」とは、インドでは妊娠を暗喩する。リンニーは結婚前に妊娠してしまい、結婚させられたのだと予想される。

 「魚」とは、ナレーションの少女の友人アショークの父親のことだ。大雨が降り、街は洪水になって、アショークの父親は家に帰って来なかった。そのまま父親が現れることもなく、少女とアショークは、父親が魚になってしまったのだと考える。おそらく父親は洪水の犠牲になったのだろうが、子供らしい想像力に包み込まれ、そこに悲哀はない。

 「半分の幽霊」とは、祖母が見る、死んだ祖父の幽霊である。葬儀をしっかりやらなかったために祖父の魂の半分が残ってしまい、彼女を訪れるのだ。祖母は、彼をしっかりあの世に送り届けるため、自らも死んでしまう。

 ナレーションによって映像は意味を持たされつなげられているが、映像を撮影しているときは、おそらくそのような計画を持っていなかったのだろう。どういう物語になるのか考えず、チャールで映像を集めていき、後からそれらをつなぎ合わせて、ナレーションで隙間を埋め、ひとつの物語にしている。従来のドキュメンタリー映画作りとは異なる手法である。

 また、素朴な絵画やアニメーション、それに原始的なVFXも使われている。その点も、伝統的なドキュメンタリー映画とは異なる特徴だといえる。

 「Watermelon, Fish and Half Ghost」は、俊英パーヤル・カパーリヤー監督が初めて作った作品であるが、既に彼女の類い稀な才能が溢れ出ていることに驚かされる。これほど短いのにこれほど豊かな映像作品に仕上げられるのはただ者ではない。是非一度観るべき映画である。


Watermelon, Fish and Half Ghost (Short 2014) - Payal Kapadia