2013年5月17日公開の「I Don’t Luv U」は、ロマンス映画に見せ掛けてMMS流出事件の被害者を主人公にし、最終的には無責任なメディアを糾弾する内容の映画である。
監督は新人のアミト・カサーリヤー。キャストは、ルスラーン・ムムターズ、チェートナー・パーンデー、ムラリー・シャルマー、ラヴィ・ケームー、スジャーター・タッカル、ラージェーシュ・アスターナー、アジャイ・シャルマーなどが出演している。
ルスラーンは「MP3: Mera Pehla Pehla Pyaar」(2007年)でデビューした俳優であるが、まだ大きな成功は掴んでいない。チェートナーはタミル語映画「Neeyum Naanum」(2010年)でデビューし、本作がヒンディー語映画デビュー作となる。
デリー在住の大学生ユヴァーン(ルスラーン・ムムターズ)が高層階にある自宅から飛び降り自殺未遂をした。事件を担当した警察官ラージーヴ警部補(ムラリー・シャルマー)は、現場に落ちていた日記を拾い上げ、彼が自殺未遂に至った経緯を知る。 ユヴァーンは同じ大学に通うアーリヤー(チェートナー・パーンデー)と恋に落ちていた。二人はデートをするようになったが、ユヴァーンは彼女に対して「愛している」という言葉を発したことはなかった。ある晩、ユヴァーンはアーリヤーに自宅に呼ばれる。アーリヤーの両親は出掛けていて留守だった。ユヴァーンは彼に踊りを見せる彼女に近づき、キスをし、そして彼女の服の中に手を入れるが、アーリヤーはそれを拒絶する。 そのときの様子は携帯電話で録画されていた。ユヴァーンは友人たちとディスコに行き、そこで誰かに携帯電話を盗み見られ、アーリヤーとキスをした動画を流出されてしまう。ジャーナリストのアドリシュタ(アジャイ・シャルマー)はそれを上司に見せる。上司はその動画を大げさに加工し、セックスビデオとして報道する。 友人からの知らせでそのことを知ったユヴァーンはショックを受ける。ユヴァーンはアーリヤーに連絡を取ろうとするがつながらない。大学がユヴァーンとアーリヤーを退学処分とする。絶望したユヴァーンはアーリヤーから託された日記を持ってベランダから飛び降りた。 ユヴァーンは入院して手術を受ける。幸い一命を取り留め、1ヶ月後には退院できるほど回復する。アドリシュタは罪悪感を感じ、フェイクニュースを流したことを別のニュース番組に暴露する。ユヴァーンとアーリヤーの汚名は晴れ、大学も彼らを復学させた。アーリヤーはロンドンに向けて発つところだったが、全てが解決したためにインドに残り、再びユヴァーンと付き合うようになった。
映画は、主人公ユヴァーンが飛び降り自殺をするショッキングなシーンから始まる。ユヴァーンは救急車で病院に搬送され、ラージーヴ警部補は彼が飛び降りた理由について調べ出す。その手掛かりとなったのが、彼が倒れていた場所に落ちていた日記であった。それは彼の恋人アーリヤーが彼に渡したもので、彼女の彼に対する気持ちが綴られていた。導入部の掴みは上々であった。
ラージーヴ警部補が日記を開き読み始めることで回想シーンが始まる。そこでは主にユヴァーンとアーリヤーの馴れ初めが語られ、1990年代の映画のようなコテコテの青春ドラマが始まる。雰囲気は明るくなり、ダンスシーンなども入るが、あまりに古風すぎて一気に盛り下がる。題名の「I Don’t Luv U」はもちろん「I Don’t Love You(あなたを愛していない)」のことであるが、これはユヴァーンとアーリヤーが告白なしに付き合い始めたことを示している。
ラージーヴ警部補は、日記を読み終えた後に病院へ行き、そこでユヴァーンの家族や友人たちから詳しい事情を聞く。それによってユヴァーンが自殺未遂をした理由が明らかになる。ユヴァーンとアーリヤーがキスをしているMMSが流出し、メディアがそれを加工して報道したことで、彼らは社会的に抹殺されてしまっていた。ユヴァーンとアーリヤーがキスをしたのは本当だったが、報道ではその後彼らがセックスをしたかのような報じられ方をしていた。単なるキスビデオはセックスビデオとして瞬く間に世間に拡散されてしまったのである。
結局、そのMMSの第一報を報じたジャーナリストが良心の呵責から自分の所業を暴露し、ユヴァーンとアーリヤーの汚名が晴れたことで一件落着となり、今度はメディアの無責任な報道姿勢が糾弾されることになる。物語全体を通して訴えたいメッセージはメディアに蔓延する視聴率至上主義への批判である。ただ、そこに帰着させてしまったためにロマンス映画としてはとても弱くなってしまっていた。ユヴァーンは自分とアーリヤーの身に降りかかった不幸を自分の力で振り払うことができておらず、たまたまジャーナリストが改心したことで救われただけであった。つまり彼はあくまでラッキーな被害者に過ぎず、ロマンス映画のヒーローとしては物足りない。
ユヴァーンにはアマイ、ラブリー、ヴィブスという親友がいた。大学生活を描いた青春ドラマにはよくある配置である。だが、彼らの有効活用もされておらず、単に登場キャラを増殖させているだけに思えた。コメディータッチで脇役たちの恋模様も描写されていたが、ことごとく外していた。
「I Don’t Luv U」は、ロマンス映画の体裁をしながらMMS流出事件などを取り上げ、メディアの批判に帰着する欲張りな作品だ。発想は良かったが、経験不足の監督と俳優たちによって作られたため、中途半端な出来になってしまっている。無理して観るべき映画ではない。