2011年8月26日公開の「Shabri」は、ラーム・ゴーパール・ヴァルマー製作のクライム映画である。ムンバイーで初めてギャングのドンになった女性の半生をベースにしている。
監督は新人ラリト・マラーテー。主演はイーシャー・コッピカル。他に、プラディープ・ラーワト、ザーキル・フサイン、ラージ・アルジュン、マニーシュ・ワードワーなどが出演している。
舞台はムンバイー。スラム街に住むシャブリー(イーシャー・コッピカル)の弟は、チンピラとつるむようになって警察に逮捕される。シャブリーが警察署まで行くと、彼女は弟の目の前でカーレー警部補にレイプされそうになる。そこでシャブリーはカーレー警部補を殺し、逃走する。後に弟は殺されてしまう。 シャブリーの知人だった賭け屋のムラード(ラージ・アルジュン)は、シャブリーの引き渡しを要求するキスニヤーを殺してしまう。キスニヤーの兄で、ギャングのドン、ラージダル・バーウー(プラディープ・ラーワト)は、逃亡したムラードとシャブリーに追っ手を差し向ける。二人は捕まり、ムラードは殺される。シャブリーは今度はカダム警部補にレイプされそうになるが、今回もシャブリーはカダム警部補に重傷を負わせて逃走する。 シャブリーは、ムラードの相棒だったヴィラース(マニーシュ・ワードワー)と合流する。また、今まで数々の犯罪者を葬ってきたイルファーン・カーズィー警部補(ザーキル・フサイン)もシャブリーを追い始め、彼女と何回か接触を持つ。その中で、ラージダルのギャングのメンバーが必ずしもラージダルに絶対の忠誠を誓っているわけではないことが分かり、工作を始める。一度、シャブリーは警察に捕まるが、脱走に成功し、ラージダルに面会に行く。そこでラージダルのギャングたちが一斉に反旗を翻し、それを見たラージダルは拳銃自殺をする。こうしてシャブリーはギャングのドンになった。
ムンバイーにおいて女性として初めてドンになった実在の人物を取り上げた映画とのことだったが、本当にそんな女性がいたのか、ネット上では情報を見つけることができなかった。少なくとも「Shabri」では、製粉所に勤めるスラム街在住の女性が、弟の死をきっかけに、警察やマフィアを相手に生き残りを懸けた戦いを繰り広げるようになり、全てが終わった後には、自分の命を狙っていたドンを死に追い込んで、自分がドンの座に居座ったという物語になっていた。
ラーム・ゴーパール・ヴァルマーが関わる映画なだけあって、映像やカメラワークには過度の個性が出ている。全体的にモノトーンともいえるような暗い色調を維持しており、物事をストレートに映そうとしない。映像に物を言わせるためか、各シーンは冗長にも感じられるほどじっくりと描かれる。そして、強調したい台詞に合わせて派手な効果音が使われることがあり、観客の心情をコントロールしようとしていた。正にヴァルマー印の映画である。ただ、画面が暗くてスローペースの展開なので、ついつい眠くなってしまう。
主演のイーシャー・コッピカルも集中した演技を見せていた。普段のグラマラスな外観は封印し、スラム街に住む下層の女性を演出するために、無駄をそぎ落としたメイクアップをしていた。ただ、アクションシーンにおいて身のこなしが良すぎたのが気になった。元々イーシャーは運動神経が良く、アクションシーンも自分で演じられるほどだが、一般女性だったシャブリーが急に警察やマフィアと銃撃戦を繰り広げるような展開には疑問が沸いた。
歌や踊りなどは入らず、重厚な雰囲気を常に引きずって展開する映画であった。ラージ・アルジュン演じるムラード、ザーキル・フサイン演じるカーズィー警部補、そしてプラディープ・ラーワト演じるラージダル・バーウーなど、主演以外のキャストの好演も目立った。演技に全く手抜かりはなかったが、テンポが悪いため、スクリーンに観客の注意力を引きつけ続けることには失敗している。
「Shabri」は、ムンバイー初の女性ドンを主人公にした、実話に基づく物語である。主演イーシャー・コッピカルをはじめ、俳優たちの好演が目立つが、画面が暗く、プロデューサーのラーム・ゴーパール・ヴァルマー特有の奇をてらったカメラワークや派手な効果音が気になる。無理に観る必要はない作品である。