今週は新作インド映画が4本同時に封切られたので非常に忙しいのだが、面白そうな映画から順に見て行っている。その中で、チープだが面白そうなヒングリッシュ映画が上映されている。「God Only Knows!」というコメディー映画である。2004年1月23日に公開された。
監督、脚本はバラト・ダボールカル。キャストはマハーラーシュトラ州の有名な映画俳優、TV俳優、舞台俳優が多数出演している。一応名前を挙げておくと、ジョニー・リーヴァル、アンジャン・シュリーヴァースタヴ、ディリープ・プラバーヴァルカル、ヴィジョー・コーテー、ヴィハング・ナーヤク、シャルバーニー・ムカルジー、キショール・プラダーン、シェヘリヤール・アタイ、ヴィジャイ・パトカル、スレーシュ・メーナン、ベーニカー。インド神話の神様が登場人物として登場するので、インド神話の知識があると理解に役立つ。
天界の神々の王インドラ(ディリープ・プラバーヴァルカル)は、ナーラド(ヴィハング・ナーヤク)に典型的な21世紀タイプの人間を連れてくるよう命令する。ナーラドが連れてきたのは、政治のことしか考えていない汚職にまみれた政治家、ミニストリージー(アンジャン・シュリーヴァースタヴ)だった。ミニストリージーは天界に来てもふてぶてしい態度を改めず、神の中の王インドラに取って代わることを画策する。ミニストリージーは地上から秘書(キショール・プラダーン)を呼び寄せ、天界の神々や天人天女たちを相手に政治工作を始める。ミニストリージーの言うことに耳を貸す者はいなかったが、懲りない彼は地獄へ行って、死神ヤムラージ(ヴィジョー・コーテー)をそそのかす。ミニストリージーは、天界は身分差別社会だと主張し、民主主義と選挙によって天界の王を決めるべきだと言う。ヤムラージもその気になり、選挙に協力することになる。ミニストリージーは政党を発足させ、選挙戦を開始する。インドラも部下のメーナカー(シャルバーニー・ムカルジー)をスパイとしてミニストリージーの元へ送り込むが、メーナカーはその内ミニストリージーの本当の仲間になってしまう。今度はインドラは愛の神カームデーヴ(シェヘリヤール・アタイ)のアドバイスを受けて、女装してミニストリージーのところへ行ってトップシークレットを盗み出す。一方、ヤムラージはイメチェンのために広告代理店と契約して、プロモーションCMなどを作ったりする。 いよいよ選挙当日の日。ミニストリージーの政党と、インドラ支持の政党の間で選挙が行われた。天界の住人たちの投票が行われたが、結果は同数だった。しかし一人だけ投票をしていない人がいた。ナーラドである。ミニストリージーとインドラは、ナーラドに票を懇願するが、ナーラドは遂に「ストップ!」と叫び、天界をミニストリージー来訪以前の状態に戻すことを決定する。結局事実上、インドラの勝ちだった。 ところが、ミニストリージーはそれでも諦めず、天界の王が座る王座に勝手に座り込む。すると天から「もう我慢ならん!」と声がして、世界は天地共々崩壊してしまった。・・・しかし、全てが消滅したというのに、生き残っていた者が2つだけあった。それはゴキブリと、ミニストリージーだった。政治家は世界が滅んでも生き続ける、という話だった。
インドでは神話を題材とした映画やTVドラマなども人気を誇っているが、この映画は神様コメディーという新しいジャンルに挑戦しており、なかなか面白かった。しかも主題は政治や映画産業の痛烈な風刺である。
まず映画の冒頭で、「映画は身体に悪いので、自己の責任で見るように」などという主旨の注意書きが出て、その後、「この映画は駄作中の駄作で、それを見に来た観客も大馬鹿者だが、金を払ってしまったので仕方ないから、席を立たずに見て下さい」みたいな主旨の歌が流れる。
登場人物はおかしなのばかりで、ジョニー・リーヴァル演じるインチキ・サードゥ、道化役のナーラド、冥界の王の癖に臆病で小心者のヤムラージ、深く考えすぎのインドラ、汚職政治家のミニストリージーとその秘書、色っぽいメーナカー、ハートマークのヒゲがお茶目なカームデーヴ、広告代理店の2人組みなど、どれも確かな演技力を持った俳優が個性的な役を演じている。
ナーラドはインドラに、21世紀の人間界のことを教える。ナーラドが言うには、人間で最も恐ろしいのは、税務署の役人である。下着にまで税金をかけて、根こそぎ金を取って行ってしまう。しかしさらに恐ろしいのは警察である。賄賂を渡さないと逮捕されてしまうという。それよりもっと恐ろしいのは、バーイー(マフィア)である。そんな話を聞いている内に、インドラは21世紀の典型的人間のサンプルを天界に連れてくるよう、ナーラドに言い渡す。ナーラドが連れて来たのは、舌尖三寸と臨機応変の計略で州首相まで駆け上ったミニストリージーだった。
ヤムラージの力によって、ミニストリージーはヘルニアの手術中ポックリと死んでしまう。ミニストリージーは自分が死んだというのに全く動じておらず、天国でも政治家を止めなかった。そしてインドラが座っている、全宇宙を支配する力を持つ椅子に心を奪われてしまう。彼は太陽神スーリヤや月神チャンドラなどと話してインドラ失脚を画策するがうまくいかず、地獄へ行く。地獄では彼の友達がたくさんいた。ミニストリージーはヤムラージをうまく味方につけて政党を立ち上げる。神様の世界を「民主主義に反する」として批判したりするのでおかしい。インドラもインドラでいろいろ策略を巡らせて対抗し、ミニストリージーの元に美しいアプサラー(天女)のメーナカーを送り込んだり、自ら女装して乗り込んだりする。インドラが映画俳優のジャッキー・シュロフ(偽物)をキャンペーンに呼べば、ミニストリージーはクリケット選手のサチン・テーンドゥルカル(偽物)を呼んだりする。最終的に神様たちが天の怒り(?)によって天界もろとも滅亡してしまうのは、何だか矛盾した話だが・・・。
ミュージカルシーンもたくさん用意されており、有名な曲の替え歌などもある。「インド初のカラオケ映画」というキャッチフレーズの通り、ミュージカルシーンには歌詞が出るため、一緒に歌って楽しむことができる(そんなことしてる人はいなかったが・・・)。
言語は80%ほど英語で、残りの20%はヒンディー語。ヒンディー語が分からなくても楽しむことは可能だろう。ただ、インド神話の知識がないと、登場人物の役柄が分からないかもしれない。何しろ英語の映画といえど、インド人向けに作られているため、インド神話の設定がベースになっている部分は常識の範囲として全く説明されずにストーリーが展開していく。
「God Only Knows!」は、PVRの限られた映画館の限られた時間にしか上映されていないので、観るのは少し難しいかもしれないが、ユニークな映画なので観て損はしないだろう。