Joi Baba Felunath (Bengali)

3.0
Joi Baba Felunath
「Joi Baba Felunath」

 インドを代表する巨匠に数えられるサティヤジト・ラーイ(サタジット・レイ)は多才な人物で、映画監督以外にもイラストレーター、作曲家、小説家、編集者などの才能を発揮していた。ラーイは推理小説も書いており、「フェールダー」という愛称の名探偵を主人公にしたフェールダー・シリーズを生み出した。ベンガル地方では、19世紀末から英作家コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」などに影響を受けてベンガル語で推理小説が盛んに書かれるようになり、「Darogar Daptar(警部の事件簿)」シリーズやビョームケーシュ・バクシー・シリーズなどが人気になった。フェールダーもそれらの伝統を引き継ぐ、ベンガル語文学が誇る名探偵だ。

 フェールダー・シリーズはあくまで推理小説であったが、ラーイ監督はフェールダーを主人公にして2本の映画を撮っている。1本目は「Sonar Kella」(1974年)であり、1979年1月5日公開の「Joi Baba Felunath」はその2本目となる。日本では「エレファント・ゴッド」の邦題と共に2025年のサタジット・レイ・レトロスペクティブで初上映された。

 フェールダー・シリーズのメインキャラクターは3人である。プラドーシュ・ミトラ、通称フェールダーはカルカッタ在住の名探偵で、ソウミトラ・チャタルジーが演じてる。フェールダーの相棒は従弟のタペーシュ・ランジャン・ミトラ、通称トプシーで、演じているのはスィッダールタ・チャタルジーである。また、二人に付き従うのが推理小説家のラールモーハン・ガーングリー、通称ジャターユである。サントーシュ・ダッターが演じてる。

 他に、ウトパル・ダット、ハーラーダン・バンドーパーディヤーイ、ビプラブ・チャタルジー、カームー・ムカルジー、モーヌー・ムカルジー、サティヤ・バナルジー、サントーシュ・スィナー、ビマル・チャタルジー、モロイ・ロイなどが出演している。

 カルカッタ在住の名探偵プラドーシュ・ミトラ、通称フェールダー(ソウミトラ・チャタルジー)は、ドゥルガープージャー祭の休暇を使って、従弟で相棒のタペーシュ・ランジャン・ミトラ、通称トプシー(スィッダールタ・チャタルジー)と、小説家のラールモーハン・ガーングリー、通称ジャターユ(サントーシュ・ダッター)と共にヴァーラーナスィーを訪れた。そこでフェールダーはウマーナート・ゴーシャール(ハーラーダン・バンドーパーディヤーイ)から盗難事件の依頼を受ける。

 ゴーシャール家には代々伝わる金のガネーシャ像があった。ネパールの王家から授かった由緒ある芸術品であった。だが、このガネーシャ像が何者かに盗まれてしまったのである。盗難発覚の直前には、裕福な商人マガンラール・メーグラージ(ウトパル・ダット)がゴーシャール家を訪れ、ウマーナートにガネーシャ像を売るように迫っていた。メーグラージはウマーナートの大学時代の知り合いであったが、芸術品を米国に密売しているとの悪評が立っており、ウマーナートはそれを拒絶していた。

 ガネーシャ像盗難事件の捜査をフェールダーが引き受けたとの噂を聞きつけたメーグラージは彼らを自宅に呼び寄せ、まずは買収しようとし、それが拒否されると、彼らを脅す。ジャターユは、メーグラージに雇われた老いたナイフ投げ名人アルジュン(カームー・ムカルジー)の的にさせられ、気絶してしまう。フェールダーは仕返しを誓う。

 フェールダーは、ヴァーラーナスィーで人気を集めていたマチュリー・バーバー(モーヌー・ムカルジー)がメーグラージと密通して犯行を行っていることを突き止める。また、ゴーシャール家でドゥルガー像を作成していた職人シャシブーシャン・パール(サントーシュ・スィナー)が刺殺される事件が起きる。死に際にシャシから得たヒントを元にフェールダーは、ガネーシャ像がドゥルガー像の乗り物であるライオンの口に隠されているであろうことに気付く。だが、そこにガネーシャ像はなかった。実は、ウマーナートの息子ルクが、ガネーシャ像が狙われていることを知り、祖父アンビカー(ビマル・チャタルジー)と共にガネーシャ像を隠したのだった。だが、それは失われており、今度は本当の盗難事件になってしまう。

 フェールダーは、ゴーシャール家で居候するビカーシュ・スィンガー(ビプラブ・チャタルジー)がメーグラージに買収されてガネーシャ像を盗み出そうとしていたことを突き止める。だが、ビカーシュが金庫を開けたときには既にルクとアンビカーによってガネーシャ像が隠された後だった。その後、シャシがたまたまガネーシャ像を見つけ、それをビカーシュに渡した。ビカーシュは渡りに船とメーグラージに売り渡したのだった。ビカーシュは警察に逮捕される。

 フェールダーはマチュリー・バーバーに変装し、貢ぎ物を持って来たメーグラージに銃を突き付ける。マチュリー・バーバーは既に警察に逮捕された後だった。その場でメーグラージも逮捕される。

 こうして無事にガネーシャ像はゴーシャール家に戻された。だが、フェールダーはそのガネーシャ像が偽物であることに気付いていた。本物はアンビカーが銀行の金庫に保管していた。アンビカーは事件解決の褒美に偽物のガネーシャ像をフェールダーに贈る。

 成功した推理小説・探偵映画にはありがちなのだが、メインキャラクターとなるフェールダー、トプシー、ジャターユの3人がとても魅力的で、彼らが和気あいあいとしながら事件の真相に迫っていく様子は見ていて痛快である。もちろんフェールダーの類い稀な頭脳がその原動力なのだが、なんといってもジャターユのキャラクターがいい。彼も推理小説家なので知的階級ではあるのだが、どこか抜けているところがあり、笑顔が人懐っこく、いちいち彼の反応が楽しみである。フェールダーとジャターユのやり取りを常にほほ笑みながら眺めているのがトプシーだ。助手ということだが、まだまだ若くて助手らしい仕事はできていない。それでもいつもニコニコしているため、癒やされてしまう。

 一方、推理小説なので筋書きも大切だが、「Joi Baba Felunath」のプロットはいまいちだった。ガネーシャ像の行方について多少のひねりはあったのだが、悪役は最初からメーグラージで確定していたし、マチュリー・バーバーの関与も十分予想の範囲内で、サスペンス要素が不足していた。殺人事件から始まった物語ではないことも緊迫感を欠いた要因であろうか。もっともドキドキしたのはナイフ投げのシーンだ。いくらナイフ投げの名人とはいえ、よぼよぼのお爺さんからナイフを投げられることになり、さすがのジャターユも気絶してしまう。だが、このサーカス・シーンも脈絡に乏しく、サティヤジト・ラーイ監督にしてはまとまりの悪い映画だと感じた。ただ、まとまりが悪い分、娯楽性はあり、ラーイ監督作品にしては大衆受けして、興行的に成功したと記録されている。

 ベンガル人であるフェールダー、トプシー、ジャターユが、ベンガル人がもっとも重視する大祭ドゥルガープージャー祭のときにわざわざベンガル地方外のヴァーラーナスィーを訪れるというのは面白い。彼らはバカンスに来ていたようだが、ヴァーラーナスィーは劇中で「ベンガル人の第二の故郷」と呼ばれていた通り、ベンガル人の人口が多く、やはりここでもドゥルガープージャー祭が祝われていた。

 それでも、ヴァーラーナスィーはヒンディー語圏であるので、セリフや歌詞の中にはヒンディー語のものも混じっていた。もちろん、基本はベンガル語である。

 「Joi Baba Felunath」は、推理小説家サティヤジト・ラーイが生み出した名探偵フェールダーのシリーズを自ら映画化した作品である。ベンガル地方で人気となった推理小説シリーズなだけあって、メインキャラクターとなるフェールダー、トプシー、ジャターユの個性は熟成されて際立っており、非常に魅力的だった。ラーイ監督の作品の中では大衆娯楽方向に振っており、それゆえに興行的にも成功したが、映画としてのまとまりには欠いていた。キャラクターを楽しむ映画だといえる。