Do Gaz Zameen Ke Neeche

3.0
Do Gaz Zameen Ke Neeche
「Do Gaz Zameen Ke Neeche」

 ヒンディー語映画史において「ホラー映画」の代名詞といえばラームセー兄弟である。印パ分離独立時にスィンド地方からムンバイーに移住して来たスィンド人の一家で、7人兄弟が分業して映画を作っていた。特に彼らの名声を高めたのが低予算で作られたB級ホラー映画で、カルト的な人気を誇った。

 1972年12月30日公開の「Do Gaz Zameen Ke Neeche」は、ラームセー兄弟が初めて作ったホラー映画であり、ヒンディー語のホラー映画としても最初期のものとして記録されている。なんと、ゾンビ映画の一種である。題名は「2ガズの土地の下に」という意味だ。「ガズ」は長さの単位で、「2ガズ」は約180cmになる。これは、一人の人間を埋葬するのに必要な土地の広さを表すのによく使われる。

 キャストは、スレーンダル・クマール、プージャー、ショーブナー、イムティヤーズ・カーン、サティエーン・カップー、ドゥマール、ヘレンなどである。

 妻を亡くし、使用人のラームダース(ドゥマール)やチャンチャルと共に静かに暮らしていたラージヴァンシュ(スレーンダル・クマール)は、悪漢に追われて助けを求めていたアンジャリ(ショーブナー)を救い、彼女を家に泊める。夜になるとアンジャリはラージヴァンシュを誘惑し、彼はそれに乗ってしまう。ラージヴァンシュは責任を取り、アンジャリと結婚することを決める。アンジャリを育てた叔父(サティエーン・カップー)も二人の結婚を認める。

 ところが、実は強欲な叔父が一儲けするために悪漢を雇い、アンジャリをわざとラージヴァンシュの元に飛び込ませたのだった。叔父は事あるごとにラージヴァンシュに金をせびるようになる。アンジャリの態度も次第に横柄になっていき、ラージヴァンシュの怒りは募っていった。

 あるとき、ラージヴァンシュは溺れかけていたミーナーを救い、家に連れて来る。アンジャリはそれを見て腹を立てるが、ミーナーは使用人としてラージヴァンシュの家で働くようになる。ラージヴァンシュは化学実験が趣味で、暇があるとラボにこもって実験ばかりしていた。ところが急に発作を起こして倒れてしまう。意識は取り戻すが、ラージヴァンシュの下半身は麻痺し、立てなくなってしまう。

 アンジャリには実はアーナンド(イムティヤーズ・カーン)という恋人がいた。アンジャリはアーナンドを医者に扮装させてラージヴァンシュの治療を口実に連れて来て、そのまま住み込ませる。ラージヴァンシュはアンジャリとアーナンドが情事に耽っているところを目撃し激怒するが、ミーナーに制止される。

 叔父、アンジャリ、アーナンドは共謀してラージヴァンシュを毒殺し、彼の財産を丸ごと手に入れようとする。ラームダース、チャンチャル、ミーナーが留守のときにラージヴァンシュは毒薬を注射され、死んでしまう。彼らは遺体を箱に入れて墓地に運び、地中に埋める。ところが、家では金庫の鍵が見当たらなかった。遺体と一緒に埋めてしまったかもしれないと思い、アーナンドはラージヴァンシュの遺体を掘り起こして探すが見つからない。だが、叔父のポケットから鍵がいきなり出て来た。金庫を空けてみると空っぽだった。アーナンドは叔父が独り占めしたと考え、彼を殺そうとするが、アンジャリに止められる。

 その後、ラージヴァンシュの日記が見つかり、そこには金をラームダースに預けた旨が書かれていた。また、彼は生前にゾンビの研究をしていたことも分かる。アンジャリはそれを読んで、ラージヴァンシュがゾンビになって戻ってくるのではないかと恐れる。その恐れは的中し、彼らの周囲ではゾンビになったラージヴァンシュが現れるようになる。まずは叔父が崖から突き落とされて死んでしまう。

 アーナンドとアンジャリもゾンビに襲われるが、部屋に籠城して何とかやり過ごす。だが、翌朝、アーナンドが金を持ち逃げしようとしたと勘違いしたアンジャリは彼を刺し殺してしまう。そこへラージヴァンシュが姿を現す。実は彼は死んでもおらず、ゾンビにもなっていなかった。全てはアンジャリに復讐するための演技だった。絶望したアンジャリは自殺する。

 インド最初期のホラー映画のひとつとされており、しかもラームセー兄弟の出世作となった作品であるが、事前に想像していた内容とはかなり異なっていた。

 まず、ラームセー兄弟の映画といえばB級ホラー映画ということで、さぞや安っぽくて素人っぽい作りの映画だろうと勝手に決め付けていた。むしろ、そういうB級っぽさを期待して鑑賞したのだった。確かにシネスコサイズではないし、スターを起用しているわけでもない。だが、カメラワークや編集など、意外にしっかりとしており、同時代の映画と比べて遜色ない出来であった。効果音が非常に効果的で、なぜか耳に残った。

 さらに、ホラー映画といいながらも、まともなホラーシーンはラージヴァンシュがゾンビとなって現れる最後の4分の1に集約されており、残りの4分の3は、ラージヴァンシュの財産をかすめ取ろうとする叔父、アンジャリ、アーナンドの暗躍に焦点が当てられていた。いわゆる「コン映画」の一種だといえる。

 もっとも驚いたのは、毒殺されたラージヴァンシュがアンジャリたちに復讐するためにゾンビとなって蘇ったものとばかり思っていたのだが、それは彼女たちを怯えさせるための単なる演技であったことだ。つまり、本物のゾンビは全く出て来なかった。「Do Gaz Zameen Ke Neeche」はホラー映画ではあるが、真のゾンビ映画ではない。

 既にこの作品からラームセー兄弟映画の作風は確立している。エロとホラーを掛け合わせ、さらに隙あらばコメディーも入れ込むというスタイルである。ヘレンがアイテムガール出演し踊りを踊っていたが、そういう大衆受け狙いのシーンもキチンと用意していた。

 「Do Gaz Zameen Ke Neeche」は、1970年代からホラー映画に特化した映画作りを行い、「ホラー映画」の代名詞となったラームセー兄弟が、初めて作り成功させたホラー映画である。まだ初期の作品ということもあってか、意外にもホラーに特化した映画ではなく、ホラーシーンは最後の方に固まっている。B級映画を期待して観ると肩透かしを食うほど、しっかり作られた作品だ。歴史的な意義のある作品である。