安価な生理用ナプキンを作ったアルナーチャラム・ムルガーナンタンの伝記映画「Padman」(2018年)は日本でも「パッドマン 5億人の女性を救った男」の邦題と共に日本でも公開された。「Padman」はフィクションを交えながら娯楽映画の手法でインドの生理問題を取り上げ話題となったが、同年にもうひとつ同じような主題の映画が公開された。
2018年4月5日にクリーブランド国際映画祭で初上映された「Period. End of Sentence.」である。こちらはドキュメンタリー映画となる。監督はイラン系米国人ラーイカー・ゼヘターブチーである。
監督がカメラを持って入り込んだのは、ウッタル・プラデーシュ州ハープルのカーティーケーラー村だ。村人たちはヒンディー語を話していた。まず監督は村の女性たちに生理について質問する。だが、インドでは生理の話題はタブーとなっており、恥ずかしがってなかなか話そうとしない。また、生理用ナプキンのことも聞いてみるが、やはり反応は悪い。女性が生理について語りたがらず、しかも生理についての知識もほとんどない現状が浮き彫りになる。
村の男性たちにも生理について聞いている。インドでは生理のことを英語の単語を使って「Period(ピリオド)」と言うことが多いが、男性たちは学校の1限、2限の「Period」だと答える。次に、生理のヒンディー語である「マーワーリー(माहवारी)」という単語を使って男性たちに生理について聞くが、すると「女性の病気だ」と答える。この程度の認識なのである。
生理用ナプキンを使わないインドの女性たちは経血の処理のためにボロ布を使う。不衛生な布が使われることが多く、そこから病気になったりもする。また、生理用ナプキンを使わないために、初潮を迎えると学校に行きづらくなり、やがて退学してしまう。生理に関する啓蒙の後れが、女性の教育の後れのひとつの要因ともなっている。さらに、インドの寺院は生理中の女性の参拝を禁じている。それも村の女性たちにとっては大きな問題のようだ。女神も女性なのになぜ生理中の女性は参拝してはいけないのか、という素朴な疑問を呈する女性の言葉が印象的であった。
「Padman」のモデルとなったアルナーチャラム・ムルガーナンタン本人が登場することで、映画は転機を迎える。アルナーチャラム氏は安価な生理用ナプキンを発明しただけでなく、製造機を使って生理用ナプキンを作る仕事を村の女性に与え、経済的な自立を促す活動をしている。完成した生理用ナプキン「Fly」を女性たちは売り歩き、人生で初めての収入を得る。少しでも収入を得たことで、夫から敬意を受けるようになり、弟に物を買ってあげられるようになり、また、勉学の資金に充てることもできていた。どこか明るい兆しが見え始めたところで映画は終幕となっていた。
生理問題は、インドの女性が直面する様々な問題のひとつだ。だが、教育、経済的自立、家父長制社会など、様々な問題と密接に絡み合い、女性の社会的地位向上を妨げる要因になっている。だが、その分、この問題が解決することで、その他の問題にもいい影響が波及しそうな期待感がこのドキュメンタリー映画からは感じられた。インドの人々がなかなか容易に口にできないような問題を、少しコミカルな映像と共にポジティブに取り上げたこの「Period. End of Sentence.」は、「Padman」と併せて鑑賞するとシナジー効果があるだろう。
この映画は高く評価され、アカデミー賞最優秀短編ドキュメンタリー賞を受賞した。