インドをバックパック旅行したことのある者なら誰でも知っている、パハールガンジ。ニューデリー駅の西方に広がる安宿街である。メインバーザールとも呼ばれる。インドや世界を旅するバックパッカーたちがたむろっており、デリーの中でも独特の雰囲気を持つ場所だ。
2019年4月12日に公開された「Paharganj」は、その題名の通り、パハールガンジを舞台にしたサスペンス映画である。監督はラージェーシュ・ランジャン・クマール。過去に「Gandhi to Hitler」(2011年)というC級映画を撮っている。主演はスペイン人女優ロレナ・フランコ。他に、ビジェーシュ・ジャヤランジャン、ニート・チャウダリー、カラン・ジート、サルマーン・カーン(3カーンの一人ではない)、カラン・ソーニーなどが出演している。
スペイン人女性ラウラ(ロレナ・フランコ)は、インドで失踪した恋人ロバートを探しにデリーに降り立つ。ロバートがSNSに上げた最後の写真がパハールガンジのものだったため、彼女はパハールガンジでロバートを探す。ラウラは怪しげな場所にまで足を踏み入れてまでしてロバートを探す。その中で彼女はバーバー・ガンタールという宗教指導者にレイプされる。だが、警察は彼女を助けようとしなかった。 一方、バスケットボールコーチのガウタム・メーナン(ビジェーシュ・ジャヤランジャン)は、息子を、内務大臣の息子ジーテーンドラ・トーマル(カラン・ソーニー)に殺されており、失意のどん底にあった。そんな折、ガウタムはたまたまデリーのアンダーワールドで幅を利かせるムンナー(サルマーン・カーン)の命を二度救う。また、ガウタムの妻プージャー(ニート・チャウダリー)もムンナーに優しく接する。ムンナーはガウタムとプージャーに恩を感じるようになる。 ジーテーンドラの誕生日パーティーで、彼は何者かに射殺される。内務大臣の息子が殺されたということで、諜報機関のヴィナーヤク・シュリーヴァースタヴァ(カラン・ジート)が動くことになる。ヴィナーヤクは、会場のCCTVなどから、ロバートという外国人が浮上する。捜査を進める中で、ヴィナーヤクはロバートを探すラウラと出会い、彼女の協力を得ながらロバートの行方を追う。 ヴィナーヤクの捜査により、ジーテーンドラを撃った犯人はムンナーであることが分かる。ムンナーは逮捕される。だが、ヴィナーヤクは黒幕がいたと察知し、ムンナーに尋問する。その中で、ガウタムの妻プージャーがジーテーンドラの暗殺を依頼したことが分かる。夫の落ち込みようを見ていられず、ムンナーを雇って息子の命を奪ったジーテーンドラを殺したのだった。
パハールガンジは、インドを安く旅行したい外国人旅行者がたむろしている場所であり、中にはヒッピーのような人もいる。ドラッグに手を染めたりしている旅行者もいない訳ではない。だが、パハールガンジに泊まる外国人の全てがドラッグ中毒ではない。劇中には半裸の女性たちが腰をくねらす怪しげなバーが出て来たが、デリーにそのような場所があるとは聞いたことがない。ポスターにはパハールガンジのことを「リトル・アムステルダム」とまで称してしまっているが、そんなはずはない。ともするとこの「Paharganj」は、パハールガンジ、引いてはインドに対する偏見を助長するような演出をしていた。しかも、インド人監督が進んでそのような物語を映画にしようとしている点が問題に感じた。
前作のときから既に判明していたことではあるが、正直言ってラージェーシュ・ランジャン・クマール監督は決してうまい監督ではない。俳優たちも無名の者ばかりで、しかも白々しい演技しかしていなかった。サスペンス映画の割には緊張感がないし、悪役ジーテーンドラ・トーマル暗殺の黒幕もかなりあっさりと明かされていた。溜めるべきところで溜めを作れていないのである。取り柄らしきものを見つけるのに苦労する、稚拙な作りの映画である。
もし1点だけ敢えて良かった部分を取り上げるなら、それは音楽である。複数の音楽監督が作曲をしているが、どれも並以上の曲であった。1時間47分の短い映画ながら、積極的に多くの曲が使われ、映画をよく盛り上げていた。
「Paharganji」は、デリーの有名な安宿街パハールガンジを舞台にしたサスペンス映画である。インドをバックパック旅行したことのある人ならパハールガンジには何らかの思い出があるだろうが、その思い出を美しく演出するような作品には残念ながらなっていない。無理して観る必要のない映画である。