Shabd

2.5
Shabd
「Shabd」

 今日はPVRアヌパム4で、2005年2月4日公開の新作ヒンディー語映画「Shabd(言葉)」を観た。監督・脚本はリーナー・ヤーダヴ(初監督)、音楽はヴィシャール=シェーカル。キャストは、サンジャイ・ダット、アイシュワリヤー・ラーイ、ザイド・カーンなど。

 シャウカト・ヴァシシュト(サンジャイ・ダット)は人気小説家だったが、2年前に発表した小説が「現実感がない」と批評家の酷評を受け、それ以来立ち直れないでいた。シャウカトの妻、アンタラー(アイシュワリヤー・ラーイ)は夫を愛しており、精一杯支えていた。シャウカトとアンタラーはゴアに移り住んでいた。

 ある日、シャウカトは新しい小説を書き始めることを決める。主人公は女性、だが、母でもなく、妻でもなく、姉妹でも娘でもない、一人の独立した女性。女性の名前はタマンナー(「欲望」という意味)。シャウカトは密かにアンタラーをタマンナーのモデルにする。

 アンタラーは芸術学校の教師をしていた。シャウカトが新しい小説を書き始めた日、アンタラーが勤める学校に新しい教師がやって来る。彼の名はヤシュ(ザイド・カーン)。自由奔放でまるで生徒と区別が付かないくらいヤンチャなヤシュの態度にアンタラーは困惑するが、それを聞いたシャウカトは、ヤシュに既婚であることを隠し、関係を築くよう指示する。ヤシュはアンタラーに一目惚れし、アンタラーに言い寄るようになる。シャウカトはヤシュを小説の中に登場させ、彼が行動すべきことを言葉にすると、ヤシュもその通りに現実世界で動いた。

 ヤシュはある日アンタラーをデートに誘った。シャウカトはアンタラーに承諾するよう指示した。アンタラーはヤシュと出かけ、そのまま早朝まで帰らなかった。そのとき初めてシャウカトはアンタラーを失う恐怖を感じ始める。だが、小説の執筆は続けていかなければならなかった。次第にシャウカトの精神が分裂し始める。

 遂にヤシュはアンタラーにプロポーズをするようになった。シャウカトの嫉妬が頂点に達したとき、彼はヤシュが死ななければならないと決定する。シャウカトはアンタラーに、自分が既婚であることを告白するように指示する。アンタラーがそのようにすると、ヤシュは諦めて去って行ってしまった。それを聞いたシャウカトは驚く。シャウカトの小説では、ヤシュは恋に破れ自殺するはずだった。だが、ヤシュは死ななかった。小説の世界と現実世界の亀裂はシャウカトの精神を損傷させてしまい、アンタラーは彼を精神病院に入れざるをえなかった。

 「ストーリーに現実感がない」と酷評された小説家が、自分の妻の人生を題材に小説を書いている内に、現実と空想の世界の区別がつかなくなり、遂には頭がおかしくなってしまう、という悲しいストーリーだった。ラストシーンは一応暗くなりすぎないように配慮されていたが、特に中盤から終盤にかけて非常に暗鬱で混乱を催す映画だった。その暗鬱と混乱こそが、主人公の脳裏でまさに起こっていることなのだが・・・。

 この映画の脚本は、元々カリーナー・カプールのために書かれたという。だが、カリーナーは別の映画のスケジュールが入っていて契約することができず、イーシャー・デーオール、スシュミター・セーンなどを巡った挙句、アイシュワリヤー・ラーイに落ち着いたとか。また、シャウカト・ヴァシシュトの役もアクシャイ・クマール、シャールク・カーン、サルマーン・カーンなどを巡って、サンジャイ・ダットに決まった。

 男女の三角関係が主軸になっている映画だが、通常の三角関係映画ではなかった。男と女と男の三角関係でありながら、男同士の対決がないのだ。だがもっといろんな意味で異常な映画だった。小説家シャウカトが妻アンタラーにさせる行動は異常であるし、アンタラーも素直に夫の言うことを聞いてヤシュと関係を保つのはおかしかった。ヤシュのキャラクターも現実感がなく、まるで幽霊のように現れて幽霊のように消えて行ってしまった。小説と現実の境界が次第に消えていくのがこの映画の売りだと思うのだが、キャラクター設定自体に現実感がないのは致命的だった。

 サンジャイ・ダットはマフィアの役が一番板に付いており、小説家のようなインテリの役はあまり似合わないと思うが、いい演技をしていた。アイシュワリヤー・ラーイも手を抜いていなかった。おそらくこの映画の一番の見所は、サンジャイ・ダットとアイシュワリヤー・ラーイのベッドシーンであろう。今までアイシュワリヤーは、キスシーンやベッドシーンを絶対に許さない女優だったが、「Kyun! Ho Gaya Na…」(2004年)で実生活の恋人ヴィヴェーク・オーベローイと大胆なキスシーンを披露してからは、次第に際どいシーンにも挑戦するようになって来ている。最近ではアイシュワリヤーはマイケル・ダグラスの次作「Racing the Monsoon」に出演することが決まり、さらなるキスシーンは避けられない状況となって来たというのが情報筋の観測である。もう一人の主演、ザイド・カーンは最近人気急上昇中の若手男優だ。まだ演技に幅がないが、チャラチャラした若者を演じさせたら今のところ彼にかなう若手男優はいない。

 インド映画の扱うテーマが広がって来ているのを感じさせてくれる映画だったが、インド映画を新たな方向へ引っ張ろうとしつつも、インド映画の悪しき足枷から脱却できていないと感じさせられた。