ムケーシュは、インド本国のインド映画ファンの間でもっとも有名な人物である。
ムケーシュは、インド政府が作成したタバコ撲滅キャンペーンのビデオに登場する青年である。タバコを摂取したことで口腔癌になり、2009年10月27日、24歳で死去した。ビデオでは、生前のムケーシュのインタビューが使われている。
このビデオは、2010年から2013年まで、映画館での映画上映前に必ず再生された。よって、この期間に映画館で映画を観た人は必ず目にしたことになる。どのスターの主演作を観に行こうとも、必ず彼の顔を観ることになった上に、映像にインパクトがあったため、いつしか「インドでもっとも有名な人物」として語り継がれるようになった。
ビデオの中では、以下のことが語られている。
- ターター記念病院には、毎日50人、毎月1,000人の口腔癌患者が来院する。
- 患者の8~9割は、タバコの摂取によって口腔癌を患った。
- カイニー、パーン、グトカー、パーン・マサーラーは有害である。
よく聞いてみると、このビデオはタバコといっても「噛みタバコ」と訳されるジャンルのタバコ類の危険性を訴えており、一般的なタバコやビーリー(安価な葉巻タバコ)などには触れられていない。カイニー、パーン、グトカー、パーン・マサーラーは全て噛みタバコである。インド在住時、これらは嗜んでいなかったので、それぞれどういう違いがあるのかを正確に説明することはできないが、これらはインド人が日常的によく噛んでいる。店でもよく売られているのを目にする。
ヒンディー語映画界で「ムケーシュ」というと、1940年代から70年代に活躍したプレイバックシンガーのムケーシュのことが第一に思い浮かぶ。現在活躍中の男優ニール・ニティン・ムケーシュの祖父にあたる。だが、2010年代前半に映画館で流されたこのビデオのインパクトが余程強烈だったのか、それ以降、「ムケーシュ」というと、口腔癌で死んだこの青年のことが引き合いに出されることが多くなった。映画やテレビ番組の中でも時々触れられるので、知識として知っておいて損はないだろう。
ちなみに、ビデオでは2009年に死亡したとされているムケーシュであるが、実はこれは俳優で、彼は今でも生きてピンピンしているという噂も聞いたことがある。だが、一般的にはムケーシュは実在の人物で、このビデオで語られている「ムケーシュの物語」も実話であると考えられている。