Sssshhh…

3.0
Sssshhh...
「Sssshhh…」

 今週は「マトリックス・レボリューションズ」(2003年)が世界同時公開されるので、インドの映画館もスケジュールが変則的である。今日はPVRプリヤーで、今週限りで入れ替わってしまいそうな「Sssshhh…」を観た。2003年10月24日公開のヒンディー語映画である。

 「Sssshhh…」とは要するに「静かに」「黙れ」という意味の、口の前に人差し指を当てるジェスチャーの「シー」である。このジェスチャーはインドでも同じだ。世界共通なのだろうか?映画のチケットを購入するときに「シーのチケットください」と言わなければならないから少し面白い。監督はパワン・S・カウル。主演はタヌジャーの娘にしてカージョルの妹、タニシャー(新人)と、ディノ・モレア。他にカラン・ナート、ガウラヴ・カプール、スヴァルナー・ジャーなど。ジャンルは最近インドでもすっかり定着したホラー映画である。

 のどかな山の都シムラーで殺人事件が起き、男女が惨殺された。メヘク(タニシャー)はその被害者の妹だった。6ヶ月経った今でも姉の死が忘れられず、事件を引きずっていた。あるとき、彼女のもとに電話がかかって来て、「お前も殺す」と言われた。メヘクは恐怖の毎日を過ごす。

 メヘクは地元の大学生だった。お調子者のロッキー(ディノ・モレア)、新入生のスーラジ(カラン・ナート)、ラジャト(ガウラヴ・カプール)、ゲヘナー(スヴァルナー・ジャー)などが彼女の仲間だった。メヘクは母親と共に住んでいた。父親は家族を捨てて他の女と一緒になってしまっていた。

 電話があった後、メヘクは仮面をかぶった黒装束の「ジョーカー」に何度も命を狙われるが、なんとか助かっていた。ジョーカーは遂に警察に射殺されたが、メヘクは気持ちが晴れない。そこで仲間たちは、一緒にタイへ行って気分転換しようということになった。

 実はこの仲間内でも人間関係が複雑になっていた。ロッキーとメヘクは幼馴染みだったが、友達以上恋人未満な仲だった。しかしロッキーはメヘクに恋していた。一方、新入生のスーラジもメヘクに恋しており、メヘクもスーラジに好意を抱いていた。その2人を見て、ロッキーは嫉妬していた。また、ゲヘナーはロッキーのことが好きだった。ロッキーの親友は、事あるごとにロッキーの嫉妬心を煽っていた。

 タイに着いた彼らは、無人島へ行くことにした。しかしその島で次々と仲間がジョーカーに殺されていった。ジョーカーはやっぱり内部にいたのだ。最後まで残ったのはロッキー、スーラジ、メヘクだった。ロッキーとスーラジ、どちらがジョーカーなのか。メヘクは困惑するが、スーラジを信用することにした。しかし実はスーラジがジョーカーだった。

 スーラジはメヘクの父親と蒸発した女の息子だった。メヘクの父親のせいでスーラジの家族は不幸のどん底に突き落とされ、彼の家族に復讐をしようとしていたのだった。また、なんとラジャトはスーラジの弟であることも判明する。ラジャトは死んだはずだったが、それは見せかけだけだった。つまり、スーラジとラジャトが立ち代りジョーカーになってメヘクをおびやかしていたのだった。しかし最後はロッキーが二人を殺し、メヘクと共に無人島を去った。

 無茶苦茶なストーリーのホラー映画だったが、インド映画特有のあらゆる要素が含まれた映画だったので、案外楽しめた。

 前半の舞台はヒマーチャル・プラデーシュ州の州都シムラー。行ったことがあるならすぐにシムラーだと分かる。ザ・モール、スキャンダル・ポイント、教会などシムラーの名所が登場する。

 主人公のメヘクは姉を殺された上に、自分の命も何者かに狙われる。「ジョーカー」と呼ばれるその殺人鬼は、「スクリーム」(1996年)や「ラスト・サマー」(1997年)などに登場する殺人鬼とイメージがだぶる。ハリウッドのホラー映画の手法がよく研究されており、なんでもない映像がやたら怖く感じた。ただ、殺人シーンなどはワンパターンで幼稚である。ジェイソンみたいにユーモアのある殺し方をすればよかったのだが、ジョーカーはただナイフで切りつけるだけである。しかもジョーカーはおっちょこちょいで比較的弱いのが笑える。

 後半の舞台はタイだった。カオサン通りでロケが行われたようで、無人島はおそらくプーケット島近辺で撮影されたと思われる。すがすがしい山の町から始まって、インターミッション後にバンコクの都会へ移り、その後は南の島へ。これらの、舞台の思い切った切り替えがあったおかげで、それほど退屈しない映画だった。

 一番残念なのは脚本に破綻があることだ。結局スーラジが犯人で、しかもラジャトまで共謀者だったという筋書きは、思い起こしてみただけでもいくつか矛盾する点がある。最大の矛盾はバンコクへ舞台が移ったところだ。航空券の関係でスーラジとメヘクが先にバンコクへ行くことになったのだが、もしスーラジがメヘクに殺意を抱いているのなら、このとき簡単に彼女を殺害できたはずだ。「気分転換にタイへ行くぞ!」「お~!」で大学生の若者数人が簡単にタイへ行けてしまうというのもちょっと話がおかしいと思う。いったい誰が旅費を出すのだ。

 これまで再三「ホラー映画にミュージカルシーンは必要ない」と主張してきたが、この映画は案外うまくホラー映画にミュージカルシーンを挿入していて感心した。しかしタイに着いた直後のダンスシーンは強引すぎる。なぜかタイのホテルで「パンジャービー・ナイト」のイベントが行われており、それがそのままパンジャービー・ダンスチックなミュージカルとなる。なぜタイでパンジャービーなのだ・・・!だが、このとき流れる「Ishq Da Maara Hai」はこの映画の挿入歌中最高の出来だ。ちなみに音楽監督はアヌ・マリク。

 この映画ではディノ・モレアが輝いて見えた。今まで彼が出演した「Raaz」(2002年)とか「Gunaah」(2002年)では、影のあるキャラクターを演じていたので、彼自身もそういうおとなしめのキャラなのだと思っていた。しかし「Sssshhh…」のディノは、ワイルドでアクティヴな若者を演じており、それがけっこうはまっていてかっこよかった。ディノ・モレアのこれからの成長に期待である。

 主演女優のタニシャーは、あのカージョルの妹らしい。眉毛がつながってなかったので気付かなかったが、言われてみれば似ていないこともない。だがむしろタブーに似ている。顔立ちは悪くないのだが、鼻が大きすぎて個人的にはいまいちだ。