
「ムラカラム」とは「乳房税」のことである。かつてケーララ州に存在したトラヴァンコール藩王国で、カーストの低い女性たちに課せられていたとされる人頭税の一種だ。当時低カーストの女性たちは乳房を布なので覆うことを許されておらず、もし乳房を覆いたいならば、乳房の形や重さに応じて「乳房税」を支払わなければならなかったという。
2020年2月4日にYouTubeで配信開始された「Mulakaram」は、命を犠牲にして「乳房税」に歯向かったナンゲーリという女性を主人公にした14分ほどの短編映画である。ナンゲーリは19世紀に実在した女性とされている。
監督はヨーゲーシュ・パガーレー。主演ナンゲーリ役を演じるのは「Sir」(2019年/邦題:あなたの名前を呼べたなら)に端役で出演していたアヌシュリー・クシュワーハー。パガーレー監督が助演しており、他にはナズニーン・パトニー、サウミー・シヴハレー、ラヴィ・ケーングレー、ガウタム・シャーム・ボージプリヤー、シャシャーンク・プラジャーパティなどが出演している。
乳房を隠すことを許されず、上位カースト者のプローヒト(サウミー・シヴハレー)などから視姦されて悩んでいたナンゲーリ(アヌシュリー・クシュワーハー)は、カースト差別に反旗を翻すことを決意する。ナンゲーリは夫チールカンダン(ヨーゲーシュ・パガーレー)の協力を得て、乳房を隠して表を堂々と歩く。すぐにその姿はプローヒトたちの目に留まり彼女は責められる。
その夜、ナンゲーリの家を徴税官のパルヴァティヤール(ガウタム・シャーム・ボージプリヤー)たちが訪れる。ナンゲーリは1ヶ月後に乳房税を払うと約束し、彼らを帰す。一ヶ月後、再びパルヴァティヤールたちがやって来た。ナンゲーリは鎌で両乳房を切り落とし、彼らに渡す。パルヴァティヤールたちは恐れて逃げ出す。ナンゲーリは失血死し、チールカルダンは彼女を火葬して、自らも火に飛び込む。
その後、ナンゲーリの一件があったことでトラヴァンコール藩王国では乳房税が廃止された。
一見すると、かつてインドに存在したとされる、女性の尊厳を奪うような酷いカースト差別を映像で再現した意識高い系の作品である。だが、どう見ても女優をトップレスにした作品を撮りたいがために在りし日のトラヴァンコール藩王国に存在したとされる「乳房税」という格好の題材を見つけてきて作り上げた作品という印象を受ける。「Breast Tax」という文字面は、それだけで人々の関心を引くことのできるパワーワードだ。
上半身裸の女性をどう映像的に表現するのか気になったが、画角の調整などによって乳首の露出がないように工夫されていた。ただ、横乳などは見えるので、インド映画としてはかなり際どい露出表現だといえる。しかも、両乳首を切り落とす最後はショッキングだ。切り落とされた乳房や、乳房が切り落とされた後のナンゲーリの上半身などが映し出される。
さらに、遺された夫チールカンダンは、妻を火葬している最中にその火の中に飛び込む。寡婦が亡き夫の火葬の火に飛び込むサティーはあるが、男性が妻の火葬の火に飛び込むのは稀だ。これもまたショッキングだった。
トラヴァンコール藩王国に「乳房税」なるものが存在したのは事実のようだ。だが、その名称から誤解を生んだ可能性がある。男性に課せられた人頭税が「頭税」や「髭税」であるのに対し、女性に課せられた人頭税が「乳房税」と名付けられただけで、乳房を覆うために払わなければならない税というのは俗説に過ぎないという。となると、ナンゲーリの伝承も信憑性が怪しくなる。もし彼女が実在したとしても、「乳房税」に反対して命を投げ出したというよりは、より広範な低カースト差別に抗議しただけだったのではなかろうか。
「Mulakaram」の中のナンゲーリは好戦的なリベラル女戦士のような脚色をされており、美化されすぎていると感じた。所詮は短編映画である。また、ケーララ地方の物語ではあるが、言語は標準ヒンディー語である。
「Mulakaram」は、現在のケーララ州にあたる地域に存在したトラヴァンコール藩王国にて低カーストの女性に課せられていたという「乳房税」を題材にした短編映画である。乳房を隠すことを許されていないだけあって、女性たちはトップレスになっている。カースト差別に反対するメッセージが込められた作品ではあるが、単に女優をトップレスにして再生数を稼ぎたかっただけではないかと邪推してしまう。年齢制限が掛けられているものの、YouTubeで気軽に視聴できる短い映画なので、興味があれば観てみるといいだろう。
