インド映画業界では伝統的に、広大な屋敷に住む裕福な大家族の中で繰り広げられるファミリードラマが好まれて作られてきた。この大邸宅は、北インドでは一般的に「ハヴェーリー」と呼ばれることが多い。ヒンディー語で書くと「हवेली」、英語で書くと「Haveli」である。
ハヴェーリーの語源はアラビア語であり、インド亜大陸にイスラーム教の政権が確立して以降、この言葉は使われるようになった。典型的なハヴェーリーの建築様式は、正方形または長方形の中庭を囲むように数階建ての建物が「ロ」の字型に取り囲み、そこにいくつもの部屋が並んでいるものである。
インドの観光地にはハヴェーリーで有名な街がいくつかある。たとえばラージャスターン州ジャイサルメールの城下町には中世に建てられたいくつものハヴェーリーが残っており、狭い路地を散歩しながらそれらのハヴェーリーを巡るのがアトラクションのひとつになっている。

ジャイサルメール
同じくラージャスターン州のシェーカーワーティー地方には、交易によって財を成した商人たちが建てた、ユニークな壁画の残るハヴェーリーがたくさん残っており、「野外美術館」と称されている。「Paheli」(2005年)はシェーカーワーティー地方の都市ナワルガルのハヴェーリーを舞台にしており、正統なハヴェーリーを映像で確認したければ最適な映画である。

ナワルガル
首都デリーの旧市街オールドデリーにもいくつかハヴェーリーが残っている。中でもハヴェーリー・ダラムプラー(Haveli Dharampura)は高級ホテルとして一般開放されており、特別な体験を求める観光客に人気である。

オールドデリー
「ハヴェーリー」と聞くと想起する特定の建築様式はあり、上で紹介したハヴェーリー群はその典型例であるが、最近ではより一般名詞化しており、どんな建築様式であっても大邸宅であればハヴェーリーと呼んでしまうケースも増えてきた。とはいっても、一般的な民家は「ハヴェーリー」とは呼ばない。やはりある程度の規模を誇り、ある程度の地位や財力のある人の住む屋敷がそう呼ばれるのが一般的だ。そういう意味では特別な言葉である。
ちなみに、似た言葉に「マハル(महल/Mahal)」がある。正確に読むと「メヘル」であるが、ここでは便宜的に「マハル」としている。タージマハルの「マハル」である。こちらは「宮殿」と訳すことが多く、ハヴェーリーよりもより王権に近い建築物になる。英訳すると「Palace」が近い。「キラー(क़िला/キラー)」と呼ばれる城塞(Fort)の中に建てられた建築物にこの呼称が使われることが多い。
ベンガル地方では「バーリー(बाड़ी/বাড়ি/Bari)」、マハーラーシュトラ地方では「ワーラー(वाड़ा/वाडा/Wada)」と呼ばれる建築物が「邸宅」に近いニュアンスを持っている。また、グジャラート地方では寺院のことを「ハヴェーリー」と呼ぶことがある。